サントリーが山崎の地でウイスキーづくりをはじめて100周年の今年、日本最古のモルトウイスキー蒸溜所である山崎蒸溜所が建設に着手してから50年後の1973年に竣工したサントリー白州蒸溜所が、50周年を迎えました。芳醇で華麗に香る「山崎」に対して、森を感じさせる爽やかな味と香りの「白州」。南アルプスの山々の麓の豊かな森に囲まれた立地で、山崎とは異なる個性のウイスキー原酒を作り出している同蒸溜所が、このほど主要な見学施設のリニューアルを完了し、10月2日からの一般公開と新たな見学ツアーの展開が発表されました。

  • 白州蒸溜所 蒸溜棟の入口

「白州の森」全体を“五感で体感”してもらえる施設に

森林公園工場というコンセプトで建設された白州蒸溜所は“森の蒸溜所”とも呼ばれ、ここで作られる原酒の仕込み水は、花崗岩層をくぐり抜けた、適度なミネラル分を含む良質な地下天然水です。敷地内には「サントリー天然水 南アルプス白州工場」が併設され、水と自然の大切さを次世代につなげる「水育(みずいく)」として「森と水の学校」白州校も開校、子供たちに水を育む森の大切さを伝える活動にも力をいれてきました。今回のリニューアルでは、蒸溜所だけでなく天然水の工場を含む約82万平方メートルの広大なこの「白州の森」全体を“五感で体感”してもらう施設を目指した、と同社常務執行役員の栗原勝範さん。

白州蒸溜所が竣工された当時の日本は、高度経済成長の真っただ中。公害が大きな社会問題となっていた時代に、操業当時から、敷地内に野鳥の保護区「バードサンクチュアリ」を設けるなど、愛鳥活動に積極的に取り組んできた同蒸溜所。この森には約50種類もの鳥が生息し、ルリビタキやオオタカなどの野鳥が観察できるそう。

  • 白州の森には約50種類もの鳥が生息している

「野鳥を環境のバロメーターとして豊かな森を育みながら、私たちはこの地で活動を続けています。自然や風土を尊重し、蒸溜所で働く人たちがいきいきと仕事をすることが、ウイスキーのおいしさにつながる。これからはそうしたものづくりの活動・現場をお客様に見てもらい、それを物語として伝えていくことが重要で、改修にあたってはその点を特に意識しました」(栗原さん)。

窓一面、白州の森を眺めながらテイスティングできる

今回のリニューアルでは、蒸溜所と天然水工場の共通のエントランスとなる「ビジターセンター」が新設され、広大な敷地全体を視覚的に理解できるような温かみのあるやさしいデザインのジオラマが、訪れる見学者たちを迎え入れます。そのエントランスを抜けた森の道にある「バードサンクチュアリ」には、森に住む鳥たちについての新たな展示や、鳥の声を聞くことができる集音機などの造作物を設置。

  • 新設されたビジターセンターは、蒸溜所と天然水工場の共通のエントランス

  • 白州の森の全体像が把握できるジオラマは、ディテールまでの作り込みが楽しい

  • バードサンクチュアリの集音機

ショップ&バーは新たに「セントラルハウス」として生まれ変わり、大きなガラス窓一面に広がる豊かな森を眺めるテイスティングラウンジが設けられ、ゆったりとした贅沢な時間が過ごせる空間に。ここでは「白州」ブランドをはじめとする希少なウイスキーのテイスティングや、フードペアリングも楽しめます。併設のギフトショップには、ファンにはたまらない白州蒸溜所ならではのグッズをラインナップ。

  • セントラルハウス外観

  • 森を眺めながらテイスティングを楽しめるラウンジ

  • セントラルハウス内のBar白州

新たな2つの蒸溜所ツアー-貯蔵庫の中でのテイスティング体験も

「白州のウイスキーは、南アルプスの豊かな水と自然、そしてここで働く人の共同作業で作られています。山が森を包む空気、人の知恵や技術、蒸溜所を訪れるお客様にこれらを五感で感じてもらいたい」と語るのは、白州蒸溜所 工場長の有田哲也さん。そうしたコンセプトで設計された新たな見学ツアーが、「白州蒸溜所 ものづくりツアー」と「白州蒸溜所 ものづくりツアー プレミアム」の2つで、ウイスキー作りを今まで以上に体感させるものとなっています。

  • ウイスキーづくりの工程をプロジェクションマッピングで視覚的に解説するコーナーも

  • 木桶の発酵槽

  • 蒸溜のポットスチル

前者は「サントリーシングルモルトウイスキー白州」が生まれるものづくり現場を見学し、香りや温度を五感で体感するツアーで、「サントリーシングルモルトウイスキー白州」や希少な「モルトウイスキー原酒」「白州森香るハイボール」がテイスティングでき、ツアー後には「白州オリジナルテイスティンググラス」が持ち帰れます。

  • 1棟の貯蔵庫に約2万もの樽が貯蔵され、熟成の時を待っている

プレミアムはそれらに加えて、これまで公開されていなかった製造エリアでのグレーン製造設備や樽詰め作業の見学、たとえば酵母がアルコールを生成している発酵工程の木桶の中の香りを嗅いだり、貯蔵庫内でのテイスティングなど、特別な体験ができるツアー。こちらは「白州12年」や希少な「モルトウイスキー原酒」が提供され、グラスに加えてグラスホルダーも持ち帰れます。

フロアモルティングでより高品質な“原酒のつくりこみ”を目指す

  • (右)サントリー 常務執行役員 原酒開発生産本部長 栗原勝範さん、(左)白州蒸溜所 工場長 有田哲也さん

また第2期のリニューアルとして、2024年4月にバードブリッジや遊歩道の整備、7月にはレストランのオープンを予定しており、さらに、ウイスキーの品質向上の新たな取り組みも発表されました。これまで行ってきた仕込や蒸溜工程での品質向上だけでなく、原料にまでこだわる“原酒のつくりこみ”への挑戦として、大麦を床の上で発芽させて麦芽を作る伝統的製法「フロアモルティング」と、原料の酵母を自社で培養して継続的に高品質な酵母を調達することを目指した「酵母培養プロセス」の導入を予定しています。

  • 敷地内のウイスキー博物館

「麦芽、酵母といった原料にまでふみこんだチャレンジを行うことで、より高品質な原酒のつくりこみを行いたい。ウイスキーを作る麦芽自体を自分たちで作りたいというのもありますし、これまで外から購入してきた麦芽を自分たちの手で触ることで得られる発見を通じて、原料である自然の恵みへの理解をさらに深めて、醸造工程から原料を含めての品質向上へとフォーカスする枠を広げていきます」(有田さん)。

  • ウイスキー博物館 内部

おりしもこの取材会の数日前に、世界的な酒類コンペティション「第28回インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ(ISC)」で、「山崎25年」が全部門のトロフィーの中から傑出した製品1品のみに授与される「シュプリーム チャンピオン スピリット」を初受賞。また、高品質で多彩な製品を生み出した各部門のメーカーの中から1社に贈られる「プロデューサー オブ ザ イヤー」を、サントリーはジャパニーズウイスキー部門において4年連続で受賞しています。白熱するジャパニーズウイスキー人気に対して、なかなか供給が追いつかない現状はあるものの、ウイスキーがつくられる現場に足を運び、蒸溜所でしか味わえない体験を通して、さらなる魅力に触れる貴重な機会となりそうです。

サントリー白州蒸溜所
山梨県北杜市白州町鳥原2913-1
一般公開:10月2日~
「白州蒸溜所 ものづくりツアー」
所要時間:90分/参加費:3,000円
テイスティング:「サントリーシングルモルトウイスキー白州」、「モルトウイスキー原酒」、「白州森香るハイボール」/「白州オリジナルテイスティンググラス」が持ち帰れる
「白州蒸溜所 ものづくりツアー プレミアム」
所要時間:130分/参加費:5,000円
テイスティング:「白州12年」、「モルトウイスキー原酒」など/ツアー後に「白州オリジナルテイスティンググラス」と「グラスホルダー」が持ち帰れる