東京・上野の東京都美術館で9月16日から12月10日まで「永遠の都ローマ展」が開催される。本展ではカピトリーノ美術館の所蔵品を中心に約70点の彫刻、絵画、版画を展示。建国から古代の栄光、教皇たちの時代から近代まで、永遠の都ローマの歴史をアートの観点を交えて紐解いていく。本稿では15日に開催された報道内覧会の模様をお伝えしよう。
見どころは?
2,000年を超える栄えある歴史と比類なき文化を有するイタリア・ローマ。なかでもカピトリーノ美術館は古代ローマの中心地に建つ、世界的にも最も古い美術館のひとつとされている。本展では、そんな永遠の都をめぐり生み出された壮大なる美の歴史をたどる。なお東京都美術館 企画展示室の開室時間は9時半から17時半まで(金曜日は20時まで)、月曜日は休館。また土日・祝日のみ日時指定の予約制となるのでご注意を。詳細は美術館のHPを参照してほしい。
さて本展のなかでも、とりわけ貴重な作品が「カピトリーノのヴィーナス」である。こちらはカピトリーノ美術館以外では滅多に見ることができない"門外不出"の古代彫刻の傑作とされており、こうして同館の外に持ち出されるのも1752年以来で3回目のことらしい。
古代ギリシア最大の彫刻家プラクシテレスの女神像(前4世紀)に基づく作品。ミロのヴィーナス(ルーヴル美術館)、メディチのヴィーナス(ウフィツィ美術館)に並ぶ傑作として知られている。
そして頭部だけで約1.8メートルという、ど迫力の巨大彫刻も来日した。それが、古代ローマ帝国の栄華を象徴する「コンスタンティヌス帝の巨像の頭部(複製)」。カピトリーノ美術館所蔵のブロンズ巨像の石膏複製で、この頭部はローマ文明博物館の所蔵品。
同じ空間には「コンスタンティヌス帝の左足(複製)」「コンスタンティヌス帝の巨像の手部、球体(複製)」も展示されている。この規模の巨像を紀元330年頃につくろうと計画していたローマ帝国。その文化水準の高さに、あらためて驚嘆する。ちなみに2022年から2023年にかけてミラノで開催された展覧会では、最新の研究成果を踏まえて「巨像の全身座像」の復元が試みられたという。
モザイク断片などは、その表面の凹凸の様子まで至近距離から鑑賞することができる。ローマ派工房による「ローマ教会の擬人像」は13世紀初頭の作品。もともとは旧サン・ピエトロ大聖堂のモザイク装飾の一部だったものらしい。また「教皇グレゴリウス9世の肖像モザイク」は1227年~41年の作品。やはり旧サン・ピエトロ大聖堂のファサードを飾っていたものとされる。
絵画の展示も多い。ピエトロ・ダ・コルトーナによる「聖母子と天使たち」(1625~30年)は185×137cmの大きな作品。解説によれば、もとはおそらく祭壇画だったのではないか、とのこと。横たわる幼子イエス、聖母の自愛に満ちた表情、それを見守る天使たちという構図。
日本とカピトリーノの意外な関係
報道内覧会では、ともに本展の監修者であるクラウディオ・パリージ=プレシッチェ氏、加藤磨珠枝氏が挨拶した。クラウディオ氏は「今年(2023年)は日本の明治政府が派遣した岩倉使節団がカピトリーノ美術館を訪れてから、ちょうど150周年目にあたります。この節目の年にローマの姉妹都市 東京で展示会が開催されるということで、その友好関係に相応しい、カピトリーノのヴィーナスなどの傑作が展示されることになりました」と紹介する。
そして展示内容を簡単に紹介していった。第1部は「ローマ建国神話の創造」。その象徴的な作品が「カピトリーノの牝狼(複製)」となる。ロムルスとレムスの2人の乳児は牝狼の乳で育ち、後に都市ローマの創建者となるというストーリー。
そして第2部は「古代ローマ帝国の栄光」。古代ローマでは前1世紀にユリウス・カエサルと、その遺志を継いだオクタウィアヌス(のちのアウグストゥス)により、地中海帝国の威容が整えられていった。展示では大理石の肖像から、当時の権力者たちの変遷をたどることができる。
第3部は「美術館の誕生からミケランジェロによる広場構想」。教皇シクストゥス4世により1471年、「カピトリーノの牝狼」「コンスタンティヌス帝のブロンズ巨像」など4点がローマ市民に公開され、ついに美術館の原型が誕生する。第4部は「絵画館コレクション」。教皇クレメンス12世が既存の作品群に加え、新たに購入した古代遺物コレクションなどを一般市民に公開。カピトリーノ美術館が1734年に創立された。その後、教皇ベネディクトゥス14世はローマゆかりの名家に由来する絵画を購入するなど、コレクションの充実を図っている。
特集展示「カピトリーノ美術館と日本」も見逃せない。「阿蘭陀フランスカノ伽藍之図」は歌川豊春の1804~18年頃の作品とされるもの。オランダとあるがローマの遺跡の名所の数々が描かれている。
そしてイタリアから教材として持ち込まれた「ディオニュソスの頭部」(2世紀半ば。大理石)を模した小栗令裕の「欧州婦人アリアンヌ半身」(1879年。石膏)の精巧さには驚かされる。
このあと加藤氏は、カピトリーノと日本人の良好な関係は16世紀の天正遣欧少年使節団まで遡れること(彼らはカピトリーノの丘にてローマ市政府から名誉市民権が与えられている)、その後も日本とイタリアの間では長きにわたり文化交流が続いてきたことに触れると「この先の未来も、イタリアとの豊かな文化交流が続きますよう。本展が、何らかのきっかけになれば幸いです」と笑顔に。また昨今はコロナ禍にくわえて記録的な円安のため、ローマで日本人を見かけることが少なくなったとしたうえで「海外が遠くなりましたが、本展に来てローマの風を感じてもらえたら監修者としては嬉しい限りです」とまとめた。
必ず寄りたいミュージアムショップ
最後にミュージアムショップのオススメ商品をいくつか紹介する。