サントリーは、『「SUNTORY FROM FARM」新ヴィンテージ つくり手が語る試飲会』を開催。9月12日に発売される「SUNTORY FROM FARM 登美 赤 2019」と「SUNTORY FROM FARM 津軽シャルドネ&ピノ・ノワールスパークリング2020 グリーンエティケット」の魅力やつくり手の想いなどが紹介された。
昨年9月に新ブランド「SUNTORY FROM FARM」として生まれ変わったサントリーの日本ワインについて、同社のワインカンパニー ワイナリーワイン事業部 事業部長である新村聡氏は、「我々が皆様にお届けする一本一本のボトルには、日本の自然、風土、そして畑に向き合い、匠の技と愛情をこめてつくりあげてきたつくり手たちの物語が込められている。その想いを『SUNTORY FROM FARM』というブランドに込めてきました」と紹介する。
その想いを品質で証明すべく賢明に努力を続けた結果として、国内外のコンクールで賞を獲得するなど、高い評価を受けており、この品質と評価の上昇を背景に、2023年1~7月は売上も昨年比123%と順調に推移しているという。
また、ものづくりのこだわりを体感できる場として、昨年「SUNTORY FROM FARM」の発売を機にリニューアルされた登美の丘ワイナリーについても言及。登美の丘ワイナリーでは、栽培から熟成まで一貫したワインづくりを行うワイナリーのこだわりをまるごと体感できるツアーが実施されており、参加者の満足度も非常に高くなっている。サントリーは今後も、ワイナリーでの多彩なイベントを用意しており、9月には「FROM FARMワインフェスティバル」、11月4日には「収穫感謝祭」がそれぞれ開催予定となっている。
■登美の丘で最高品質のワインを作り続けるために“プティ・ヴェルド”での挑戦
“日本最高峰 世界が感動する品質を目指すワイン”と銘打たれた、SUNTORY FROM FARM シンボルシリーズの「登美 赤」について、サントリー ワインカンパニー サントリー登美の丘ワイナリー 栽培技師長の大山弘平氏が、ぶどう品種“プティ・ヴェルド”への挑戦を中心に解説した。
「あらためて“ワインのおいしさ”とは」という問いかけに対して、「その土地・風土でしか実現できないオリジナリティをその場所に最適な品種によって表現されるもの」と回答。これがワインの本質的な価値であり、自分たちがめざしているワインであると続ける。
その上で、「登美 赤」が目指す味わいは、緻密で凝縮感のある強さ、やわらかさ、まろやかさのある味わい。自然な甘さ、ビロードのようなタンニン。「上品さ」が表現されるワイン。時代によって、ヴィンテージの差はあるが、これらを普遍的なゴールのイメージとしてワインづくりを続けており、登美の丘のテロワールをもっとも表現するために、品種構成も変化してきている。
「登美 赤」のファーストヴィンテージは1982年で、当初はカベルネ・ソーヴィニヨンが中心であったが、次第にメルロが中心となり、現在はプティ・ヴェルドにシフトしてきている品種構成の推移を紹介。「環境変化に対応しながら、品種構成をシフトしていくことで、登美の丘のテロワールを表現してきた」と大山氏。
現在の中心品種となっているプティ・ヴェルドは、フランス原産のぶどうで、ボルドーでは補助品種として栽培されており、その濃い色合いもあって、アクセントとして全体の中の数%のブレンドで使用されている。渋みの要素となるタンニンや酸味が非常に豊かな品種で、ボルドーなど乾燥するエリアでは、それが過剰になると少しネガティブに捉えられることもあるが、日本ではそれらが適度な強さとなり、果実味やボリュームを付与することができる。ここ数年、山梨や長野でも栽培事例が増えている品種となっており、特に登美の丘では、強さだけでなく、複雑性や上品さも獲得できるようになってきたという。
登美の丘におけるプティ・ヴェルドの歴史は、今から30年前の1990年代に試験栽培としてスタート。その後、2010年代前半に、山梨県優良系統の評価と共に畑を拡大し、2010年代後半から現在は、品質向上フェーズとして、ぶどうの品質を高めていくことに注力されている。良いプティ・ヴェルドのワインは、色が濃く、力強さを発揮しながら柔らかさ、上品さが感じられるが、あまり良くないプティ・ヴェルドのワインは、味わいが荒々しくて、“田舎っぽい”香りがするという。この2つの差は、「あくまでも自分たちの仮説」としながら、フェノール化合物の成熟の差であると認識。収穫時期を糖と酸のみで見極めた場合は、フェノール化合物が未成熟のために荒いワインになってしまうが、フェノール化合物の成熟をしっかり待って収穫すると、ワインの荒さが抑えられるだけでなく、味わいに柔らかさや複雑さ、上品さが生まれてくる。
収穫時期を延ばすと、ぶどうのpHが上がるほか、台風が多く発生することもあって、病気などのプレッシャーが非常に高まるため、「どこまで収穫を待てるかが、プティ・ヴェルドのワインを良くしていく鍵」になる。しかし、フェノール化合物がどれくらい成熟したのかを調べる分析方法は世界的にも確立されておらず、その判断は、自分たちでぶどうを食べることによって決定しているため、サントリーでは、そこに多くのエネルギー、時間や知識、知見を注ぎ込んでいるという。
登美の丘には多彩な畑やぶどう樹があるのも特徴。標高500~600mに複数の畑があり、土壌も粘土・シルド系や砂礫系などのバリエーションがある。その畑の中にも、フランスやニュージーランド系統のぶどう3種類が、台木2種類と組み合わせられ、植え分けられている。そして、これらの条件が生み出す品質のわずかな差を、日々の観察の中で捉え、それぞれに適した栽培管理で個性を伸ばしていく。さらに、新たな設備導入で醸造プロセスも改善され、無破砕仕込や垂直型圧搾機により、果実を優しく醸造することがさらなるポテンシャルを引き出し、成分リッチなワインの獲得を実現してきている。
「登美 赤」で実現したい味わいを目指すため、ブレンドされる、カベルネ・ソーヴィニヨン、プティ・ヴェルド、メルロの3つ品種は、それぞれの特徴にあわせて、役割が与えられている。中でもプティ・ヴェルドは、アタックの強さから中盤にかけての凝縮感、ボリュームの役割を期待して品質向上が進められているが、ここ数年のプティ・ヴェルドの味わいが、「登美 赤」全体を引き上げているという。
「ワインは、土地・空間・時間を切り取って瓶に詰めたお酒であり、テロワールの追求によって、その土地らしい、日本ならではのワインをつくって、その品質を武器に世界で共感を得られる日本ワインのポジションを確立していきたい」と今後の展望を明かす大山氏。特にこの10年間で、プティ・ヴェルドに対するワインづくりのアプローチが変化し、進化している現状を見据え、「プティ・ヴェルドによって、日本や登美の丘を世界のワイン地図に載せることが使命であり、その考えで、今後もワインづくりを進めていきたい」と締めくくった。
■津軽地方のワイン用ぶどう産地化に向けた30年超の歩み
続いて、地元栽培家とともに産地の魅力を引き出したワインとして、「津軽シャルドネ&ピノ・ノワールスパークリング」の魅力を、サントリー ワインカンパニー ワイナリーワイン事業部 シニアスペシャリストの渡辺直樹氏が、産地である「津軽」を中心に紹介した。
リンゴ栽培で有名な津軽地方だが、日本のワイン黎明期である明治初期にはワインの醸造やワイン用ぶどうの栽培を手掛けたほか、日本ワインぶどうの父と呼ばれる川上善兵衛にも影響を与えたという歴史がある。しかし、フィロキセラによって壊滅的な被害がありリンゴへ転作。現在では、弘前市だけでも6000haの広大なリンゴ畑がある一大産地として、品質、数量ともに世界に誇る産地となっている現状を見て、「もしそのときにぶどうを選択していれば、津軽が一大産地になっていたのでは」と渡辺氏は想像する。
この津軽においてサントリーは、1980年代後半にワイン用ぶどうの契約栽培を開始。その後、品質向上に取り組み、2015年から2018年には、日本ワインコンクールで4年連続金賞を獲得したほか、2020年からは弘前市、JAつがる弘前、サントリーで3者協定を締結し、さらなる高品質な津軽産ぶどう、ワインの拡大に取り組んでいる。
サントリーでは、津軽でのワイン用ぶどう栽培拡大に向けて、新規栽培者向けの栽培指導を行っているが、サントリー向けに出荷する契約農家以外も対象となっている。この活動を継続することで、「津軽に多くの栽培者が集う栽培コミュニティを作り、知見を共有して、産地を支えていくことに繋げたい」と展望する。
現在、津軽では、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ノワール、シャルドネを栽培。そして、2017年からは、津軽のテロワールが育む充実感のある果実味、それを支える爽やかな酸味という特徴を活かし、ピノ・ノワールとシャルドネを使って、瓶内二次醗酵スパークリングワインの生産を開始した。
高品質な瓶内二次醗酵スパークリングをつくるため、きめ細かい泡、適度な熟成香、心地よい糖と酸のバランスを追求。あわせて、“津軽のテロワール”という特徴をしっかり表現するために、熟したリンゴなどを想起させる香り、充実感のある果実味、それを支える爽やかな酸味が重要になるという渡辺氏は、「そうした津軽らしい個性を発揮しながら、世界品質の瓶内二次醗酵スパークリングワインを目指したい」と力を入れる。
津軽という産地の可能性を引き出すための工夫として、収穫時期については、津軽らしさを最大限に引き出す、津軽の特徴を活かすベストな時期を見極める必要がある。一方、醸造においては、上質な瓶内二次醗酵スパークリングを追求するため、従来より実施されている清澄度の高い果汁を得ることができるホールバンチプレス(房ごとプレス)に加えて、丁寧な官能評価により、プレス液をキュベ(華やかな香り立ち、フレッシュな果実味のワイン)とタイユ(味わいの充実感があるワイン)に分けて別々に醸造し、ベストなバランスでアッサンブラージュするという取り組みがスタートしている。
そして今後も、シャンパーニュにおける収穫タイミング、仕込み方法を参考にしながら、津軽の特徴を引き出す収穫、醸造方法を追求していくという。