何だか暖房の効いた中を歩いているような、酷暑が続いている。これが天気予報によると(真偽は知らず)9月まで続くらしい。もう外出することが危険行為になってしまった。そんな中でも、原稿書きは続く……暑い……と、バテているところに目に入ってきたテレビドラマがある。この暑さでは家でドラマを観ているのは、避難ともいえる正解行為。

まずは長崎県・五島列島のロケーションが癒される『ばらかもん』(フジテレビ系)。書道家の半田清舟(はんだ・せいしゅう/杉野遥亮)が、書くことに向き合い、再生していく物語。『ハヤブサ消防団』(テレビ朝日系)は、小説家の三馬太郎(みま・たろう/中村倫也)が移住した田舎で地元民たちと、事件の謎を解いていく。どちらの作品も私のように、ドラマの中まで"涼"を求めるような視聴者によって、人気を得ている。

そしてこの2作品、どちらも「示し合わせたか?」というほど、共通点が多いことに気づいた。ドラマの今後の展開を楽しむアイテムとして「へえ」と思いながら、読んでほしい。

憧れの地方移住をスタートさせた先に待ち受けたものとは?

中村倫也

まずは共通点1として「主役のふたりが田舎へ移住している」。清舟は前記の長崎県五島列島へ期間限定で移住。朝ドラ『舞いあがれ!』(NHK総合・2022年)でもロケ地となり、聖地巡礼として何かと話題を集めている。ドラマを観ていると、演者もスタッフも気持ち良さそうに収録しているのが伝わってくるような……。そして太郎ちゃん(劇中のあだ名)は、架空の土地ではあるけれど、ハヤブサ地区へ。父親が住んでいた古民家を引き継いだ。いずれにしても地方移住、二拠点生活は都会に住む人間の憧憬だ。

共通点その2は「ふたりとも物書きとして今後に迷っている」。書道、小説とジャンルは違えど、書いているということは共通点。名家に育ち、順風満帆に書道家として進んできた清舟は、現在スランプ中。その状況を脱却するべく、田舎で気分転換をしているというわけだ。太郎ちゃんは、小説家として華々しくデビューしたものの、その先が続かず、書き手としては苦戦している。田舎での生活は果たして功を奏するのか?

都会も田舎も人間関係に振り回される、書き手たち

共通点その3は偶然にしても面白すぎるが「ふたりとも担当者が胡散臭い」。作家にはマネジメントや、担当者がつくことが通例だが、今回ふたりについた担当はいずれもエッジが効いている。まず太郎ちゃんの出版社勤務の担当者・中山田洋(なかやまだ・ひろし)。演じているのは、ここ数年、どうにも胡散臭い人物をやらせたらNo.1俳優の山本耕史だ。もうこのキャスティングだけで、きな臭い。名もなき小説家をやたら応援して、大した打ち合わせでもないのに、ゴルフがてらハヤブサ地区へ出張してくる中山田。太郎ちゃんも常に、気圧されっぱなしである。一部の考察視聴者の間では「彼が田舎で起きた一連の犯人では?」とも言われている。

続けて清舟のマネジメント担当者は、画商の川藤鷹生(かわふじ・たかお)。中尾明慶が演じているので、山本耕史ほどのインパクトは受けないが、全般的にチャラい。よく経営コンサルタントにいそうな風貌で、田舎に来る時はアロハシャツ。清舟とは幼馴染なので、関係性や、大どんでん返しを起こしそうな雰囲気はない。いずれにしても、同じ書き手の私から言わせてもらうと、担当者とのコミュニケーションは作品に大きな影響を及ぼす。しかも担当者ガチャだ。最終的に担当作家を売れっ子にのし上げてほしいものである。

杉野遥亮

ラストの4つめは「ふたりとも地元民に振りまわされている」。都会育ちのふたりは田舎の過度なコミュニケーションに、当初、戸惑う。太郎ちゃんに至っては押し切られるように、消防団の一員にされてしまう。田舎にたった一軒ある居酒屋で、同じメンツと毎晩飲み明かし、だんだん自分のペースが減少する生活に馴染んできた。

清舟も東京での生活は覆された。自分が借りたはずの自宅には、地元の子どもたちが勝手に入り浸り、鍵も持っている。子どもだけではなく、大人たちも何かといえば家を訪ねてくる。田舎でのびのびと書道に打ち込むはずが、いつの間にか地域密着型となり、プライベートがなくなっていく。ただこの新しい環境が、清舟に新しい衝動を起こすことになる。いずれも同じような田舎出身の私からすると、取り立てて話題にすることもない、田舎の通常運転である。知らない子ども同士が遊び、家に上がり込む。お菓子をもらう。時には親以外に怒られる。そんな環境がこんな原稿を書く、自由な生きかたの大人に仕上がってしまったけれど……。

4つの共通点、分かってもらえただろうか? どちらも物語が落ちることなく、最終回に向かってぐんぐん進んでいる。ふたりの書き手がハッピーエンドでありますように。東京の片隅から、(一応)同じ書き手の私が願っている。