Zアカデミア学長として次世代のリーダー開発を行いながら、2021年4月に武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)の学部長に就任。 学生からビジネスパーソンまで、そのパッション溢れる語り口で「元気の源」を惜しみなく拡散し、魅了される人は後を絶たない。

そんな無敵に見える伊藤さんだが「26歳でメンタルをやられて、20代はぶっちゃけ仕事恐怖症でした…」と意外すぎる過去も語ってくれた。 2023年6月に新しくオープンした「次のステップ」に踏み出す人を支えるスタートアップスタジオ「Musashino Valley」に伺い、「正解のない時代にどう生きるか?」という多くの若者が抱えるリアルな悩みをぶつけてみた。

  • 武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)学部長 伊藤羊一さん

67年東京生まれ。日本興業銀行、プラスを経て15年よりヤフー。現在Zアカデミア学長としてZホールディングス全体の次世代リーダー開発を行う。またウェイウェイ代表、グロービス経営大学院客員教授としてもリーダー開発に注力する。21年4月に武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)の学部長に就任。代表作に60万部超ベストセラー「1分で話せ」。ほか、「1行書くだけ日記」「FREE, FLAT, FUN」「僕たちのチームのつくりかた」など 2023年6月「次のステップ」に踏み出す人を支えるスタートアップスタジオ「Musashino Valley」開設。

【公式サイト】https://www.youichi-itou.net/
【武蔵野EMC】https://emc.musashino-u.ac.jp/
【Musashino Valley】https://www.musashino-valley.jp/

■「正解のない時代」と言われる今、正解がないからこそ「自分で作れる」時代になった。

──「正解のない時代」とは、どんな時代ですか?

ひと言で言うと、「正解を自分で自由に作れる時代になった」ということです。

ちょっと歴史を振り返ると、昔から「激動の時代」ってよく言われてきました。いつの時代も激動には変わりないのですが、「正解がない」のとはちょっと違っていて、「物がない時代」は「足りないモノ」を満たすというある意味で正解があった。冷蔵庫、クーラー、自動車…、どんどん足りない物、欲しい物を揃えていけばよかったんです。 そして、日本経済の成長とともにどんどん物が行き渡っていった。

信じられないかもしれませんが、1989年(平成元年)時点での世界時価総額ランキングでは上位50社中32社を日本企業が占めていたんです。 それがいまでは、「GAFA」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などのアメリカのIT企業がずらりと上位に並んでいますよね。 あきらかに流れが変わったのが「Windows 95」が発売された1995年。インターネット元年と呼ばれるこの年から日本の「失われた30年」が始まるのですが、インターネットによって、様々な規制が崩れ、自由にいろんなことができるようになった。 世の中がフラットになって、ポジティブな意味で「正解のない時代」に突入したのです。

──なぜ日本にGAFAは生まれなかったのですか?

自由になんでもできる時代になったのに、組織の論理に従って、上から言われたことをそのままやっていたからです。国としてもしがらみに縛られてうまく活かしきることができなかった。逆に、アメリカは「組織」ではなく「個人」が常識にとらわれずに自分で自分のやりたい世界をどんどん実現していったのです。 もし日本の企業で「140文字以内の文章を投稿するサービス」のアイデアが出たとしても、どこかでつぶされますよね……(笑)。

よくあるのが、世の中のことを知らずに正解を求めて会社に入ってみたら、上司の言うことを聞いていても、いっこうに正解が見えてこない……。これってフラストレーションがたまりますよね。だからこそ、「正解がない時代」を憂うんじゃなくて、「組織の論理から逃れて自分のやりたい世界を自由にやれる時代になった」とポジティブに考えて欲しい。 「おっしゃー、うお――!!」って(笑)。 一方で、「自分で正解を決めなければ、つらくなる時代」とも言えますよね。

──では、どう動いていけばいいのでしょうか?

「Lead the self(リードザセルフ)」っていろんなところで言っていますが、「自分の人生を自分で創っていく」ことです。 なぜなら、上の世代も答えを持ってないし、すでに終身雇用が崩壊していて、会社も守ってくれない。誰があなたの人生を守ってくれるかというと、自分で守るしかないのです。 でも、いきなりどうやって? って、なりますよね。 会社と自分の関係で言うと、会社があまりに巨大だから、日々、どうアジャストしていくかを必死に考えている人が多いはず。それではすごくもったいないと思うんです。

「まずは自分の人生があって、それを会社でどう生かすか?」 自分と会社の主従関係を逆転とまではいかなくてもフラットに考えてみることです。それには、まず会社が何かを与えてくれるという甘い考えは捨てたほうがいい。 そして、「自分はどう生きたいか」、自分の意思に従って動くことが大切です。 ギブ&テイクまでいかなくても、プロとして自分が会社に貢献できることと、会社が与えてくれることとのトレードオフで、自分のやりたい世界に少しずつ近づけていけばいいのです。

でも現実問題、ほとんどの人がいきなりそう考えるのは難しいですよね。なぜかというと自分はあまりに「無力」な存在だと思ってしまうから。 だからとにかく20代は、いや何歳になっても「自分を鍛える」意外はない! 自分の「軸」を明確にしながらも、日々自分を鍛えることで目の前の状況を打開していくしかないのです。

■「過去を振り返り、現在を知り、未来に想いをはせる」。「自分の意思」に従い、自分で正解を決めていく。

──「自分を鍛える」とは、何を鍛えればいいですか?

マインド、スキル、アクションの3つがあります。

【1】「自分の軸」を明確にすること

マインド的なところになりますが、まずは「自分の信念」、言い換えれば、「譲れない想い」をはっきりさせることです。 それには、「過去を振り返りながら、今大事にしている想いを知り、そこから未来に想いをはせる」こと。過去の原体験があるから、今の情熱があり、現在の想いから未来を考えるという、過去からつながっている「自分の軸」を見つけることです。

【2】OS(ビジネス脳)を鍛える

2つ目は、スキルを鍛えること。まずは、ビジネスに必要な「思考力」や「コミュニケーション力」など、ビジネスのOSを徹底的に磨く。 「聞いて、考えて、伝える」というベーシックな自分の中のOSがすごく大事で、そこをめちゃめちゃ鍛えておくことが大事です。

【3】行動すること

3つ目は、行動すること。これは、たいそうなことではなくて、1時間早く起きて勉強するでもいいし、この業界興味あるなって思ったら、勉強会に行ってみるでもいい。 ここでポイントなのが、ただ行動するだけじゃなくて「行動して、振り返って、はっと気づく、それでまたやってみる」。このサイクルを回していくこと。 この「回す感覚」ってのがすごく大事で、戻ってくる場所、自分のベースキャンプを作っておくと戻ってきたときに1ミリでも成長しているかわかるんです。 戻らないとどれだけ成長しているかわからない。戻ってくる場所は人それぞれ、「1on1」でもいいし、「日記」でも「手帳」でもいい。

──「夢やビジョン」が描けない…、どうすれば見つけられますか?

これはすごく時間がかかりますね。

まずは難しいながらも、ぼんやりした夢のイメージを「仮置き」でもいいから描いてみることです。この「イメージ」は、正直なところどんどん変わるし、どうなるかわからない(笑)。「僕は26歳のときにメンタルをやられて仕事恐怖症になった経験があって、そういう人を一人でも少なくしたいって想いを描いてきました」。 いまは、26歳のときのビジョンとはだいぶ違うのですが、本質はやはり変わってなくて、自分が最終的に目指すゴールにつながっています。

大学(武蔵野EMC)を作る過程でもそうですし、このMusashino Valleyもそう、当初描いていた姿とはだいぶ違うんですよね。いろいろ動いて、チャレンジしていく過程でいろんな方向に飛んでいっちゃう、でも仮置きしたベースの部分は変わってない。 「変わるけど変えない」ぶれない「自分の軸」があれば、いつもそこに戻ってこられるし、夢のイメージにつながっていくのです。

■キャリアパスに「タイパ」なんてない。やりたいことが見えてくるまで、自分を“バコバコ”に鍛えまくる。

──正しいキャリアパスの作り方はありますか?

身も蓋もないですが、徹底的に「自分を鍛えまくる」しかない。

今、理想の仕事ができている人なんてほとんどいないはずで、むしろ「できていない」と思うことが健全だと思います。ギャップは必ずあるわけで……、僕だっていっぱいある。 では、どうやっていまの状態を打開していくかと言うと、「今やっていることで結果を出すこと」。プロとして目の前の仕事で結果を出せない人はどこへ行っても結果は出せないのですよ。 「何が正しいか」に悩まずに、目の前のやるべき仕事をただひたすらやるしかないし、スキルがないなら鍛えまくるしかないのです。 それには、「足元の仕事をやりまくって、振返って、気付いて、そしてまたやって」って、自分をバコバコに鍛えながらサイクルを回転させていく。 そうやって、昨日よりも今日、今日よりも明日って、自分を強くしていくのです。 ベースの本質的な部分をちゃんとやらずして、いきなりやりたい仕事ができるわけはないし、キャリアにタイパとか考えるのはクソです!(笑)

まず、今の仕事で「ちゃんと成果を出していますか?」「めっちゃ動いていますか?」「なんで成果がでないのか、振返って考えていますか?」ってね。 では、それがなんでできるの? って言うと、そこにはやっぱり「自分の夢や意思」があるから。

どっちが先かなんですが、やりたいことに近づくためには、まわすエンジンが必要なんです。仕事ができるようになるには、日々のほんとに地味なトレーニングの積み重ねしかない。 僕は、音楽が好きなのですが、例えば、ギタリストで練習しないで弾ける人なんて誰もいない。みんな指から血を出しながら練習して、「おっ」みたいな感じで、コツをつかんでいく。「おっ」って感覚は、言語化できないんですよ。 だからやっぱり、自分のキャリアを作っていくには、モヤモヤ悩んでないで練習しろ!」なんです。

成功している人だって、試行錯誤しながら「今、たまたまここにいる」という人がほとんど。だから「仮置け」ということなのです。 キャリアパスとは、「行けばわかるさ」の精神で、アクセルを踏んで進んでいくと見えてくるもの。結果、振り返るとパスになっている。

■自分の意思や欲望をとにかく「しゃべれ!」声に出して語れば、実現に向かって歩き出せる。

──何かに熱狂できる状態になるには、どうすればいいですか?

ただただ、「しゃべること」につきますね。 実際、僕も武蔵野EMCの学生たちと一緒に寮で夜な夜なしゃべっているとめちゃくちゃ盛り上がってくるのですよ(笑)。しゃべることが元気の源になる。 日本の社会では、思ったことを言うって結構難しいのですが、世界ではもっとみんなガツガツきますよ。

「俺はこうなりたい」って、ただただ叫びつづけていると自分の意思がぼんやり見えてくる。そしたら、実現に向かって歩き出せるのです。 オウムのようになんどでも、同じことを言いますよ。(笑)

「とにかくしゃべれ!」 「とにかく行動せい!」 「とにかく振返れ!」

なんです。これを愚直にやっていくしかない! しゃべった量が成長を決めるし、行動した量が成長を決めるし、振返って気づいた量が成長を決める。で、必ずその先に何かあるから…。

──そんなに熱狂し続けていると、疲れないですか?

そりゃ疲れますよ。いまここに布団があれば一瞬で寝られますね(笑) 人にはバイオリズムがあるから、調子がいいときもあれば、悪いときもある。 無理にやって、ずるずる停滞しているよりも「知らんわ」という気持ちで何も考えずにとにかく休む。僕もうまくサボりながらやっていますよ(笑)。

──最後に、一歩踏み出そうとしている人にメッセージをお願いします。

「いろいろありますが、正解がない時代って言っても、世界はそんなにいきなり無くなるわけではないし、自分の力を信じてもうちょっとポジティブに考えようぜって。 でも一つだけ条件があって、ただ待っていればいいんじゃなくて、自分で動いて自分の人生を創っていく。そこに必ず道は開けるから、未来は明るいって声を大にして言いたい」。

──なんか元気が出てきました。ありがとうございました。

(撮影/河野辺彬文)