ホリー・ハンバーストーンが語る音楽人生、尊敬し合うオリヴィア・ロドリゴへの想い

まもなくサマーソニックに出演するイギリス・グランサム生まれの新人シンガーソングライター、ホリー・ハンバーストーン(Holly Humberstone)。オリヴィア・ロドリゴのオープニングアクトを務め、デビュー・アルバム『Paint My Bedroom Black』を10月13日にリリースする彼女が、これまでの歩みとバックグラウンド、人生を支えてくれた姉妹への愛情を語る。

ホリー・ハンバーストーンは、幼少期に住んでいた家に幽霊が出ると信じている。

ニューヨークのグラマシー地区にある平均的な大きさのホテルの一室で、この23歳のソングライターは、3000マイル離れたイギリスのグランサムにある彼女の実家について興奮気味に語った。「巨大な地下室があって、そこにはクモとカエルがいた」とハンバーストーンは言う。「地下室には肉を吊るすためのフックと、その血が流れる溝があるんだ」。

ハンバーストーンと彼女の3人姉妹は、両親が国民保健サービスの衛生兵として忙しくしているあいだ、古い家のなかで想像を膨らませていた(彼女はその家が、もともと大きな屋敷の使用人の宿舎として建てられたのではないかと考えている)。「自分たちの小さな宇宙のようだった」とハンバーストーンは振り返る。「そこで馬鹿げたことやクリエイティブなことをしていた。アートをしたり、音楽をしたり、ゲームしたり、何かを作ったり、外で遊んだり、壁に落書きしたり」。

最近のハンバーストーンは、ポップ・ミュージック界で最も率直で多忙な新人ソングライターのひとりとして名を馳せている。2020年の夏以降、彼女は2枚のEPをリリースし、2022年にはアデル、サム・スミス、フローレンス・アンド・ザ・マシーンも受賞してきたブリット・アワードのライジング・スター賞を獲得。また、オリヴィア・ロドリゴの『SOUR』ツアーのオープニング・アクトとして北米を回り、ガール・イン・レッドのオープニングも務めた。「3カ月間、毎晩2人のロックスターを見続けることほど刺激的なことはない」と彼女は言う。

10月13日にリリースされるデビュー・アルバム『Paint My Bedroom Black』で、ハンバーストーンは初期2作のEPから続く日記のようなストーリーテリングをベースに、感情の幅を広げている。期限切れの愛について歌った2020年の「Falling Asleep at the Wheel」のように、このアルバムでも胸を締め付けるストレートなラブソングを聴くことができる。

ハンバーストーンは「Kissing in Swimming Pools」でこう歌っている。”君のプールでキスできるかな/この水着姿で/君のためなら死ねる/こんなに早く帰らなくてもいいかも/ブルーに包まれた君は天国にいるみたい”。

ハンバーストーンは現在、この曲で歌われている相手と交際中だが、歌詞にはドラマチックな自由を持ち込んでいる。「私の知り合いでプールを持っている人なんていない」と彼女は認める。「私はとことん恋に落ちたんだと思う、実にクールなことにね」。

ムーディーなシングル「Antichrist」(”私はアンチキリスト?/夜はどうやって眠ればいい?”)のような他の曲では、他のある人間関係がうまくいかなかったことに対して彼女が感じた罪悪感を歌っている。

「あの曲を書くのは少し難しかったのを覚えている」とハンバーストーンは言う。「精神的な余裕がなくて、素敵な人を意味もなくないがしろにしてしまった」

ハンバーストーンが『Paint My Bedroom Black』のために作った最後の曲は、東京大学で修士号を取得するために日本で暮らす一番上の姉、エマを恋しく思う気持ちを歌ったものだ。その「Elvis Impersonators」という曲で彼女はこう歌っている。”一緒にいてくれないとダメみたい/勝手に恋しく思っている”。

どこまで遠くに旅立ったとしても、ハンバーストーンは家族、もっと言えば姉妹の絆に戻ってくる。4人姉妹の次女である彼女は、姉妹との経験を曲にするのが一番やりがいを感じるという。

「突き詰めると、私は姉さんや妹を感動させたくて音楽をやっているんだと思う」とハンバーストーンは言う。彼女の最初のシングル「Deep End」は、姉妹の一人のメンタルヘルスについて歌ったものだ。「姉妹が認めてくれるのは誰をも上回る」。

取材中にハンバーストーンは、左腕の内側にある「17」のタトゥーを披露してくれた(彼女と妹のルーシーは共に12月17日生まれ)。さらに、ルーシーが描いた他のタトゥーもあるという。

「見たい?」とハンバーストーンが尋ねると、とても大きな黒いブーツを脱いで、足の生えたイチゴの小さなタトゥーを見せてくれた。「私の大学時代は酷いものだったし、本当に孤独だった。そんなとき、ルーシーは手紙やハガキを送ってくれたんだ…….そのハガキには小さなイチゴのキャラクターが描かれていた」

デビューまでの歩み、オリヴィア・ロドリゴへの想い

田舎育ちのハンバーストーンは、ミュージカル『アニー』が大好きで(「ヤバイほど夢中だった」)、楽器に囲まれて育った。彼女の母親はチェロとピアノをよく弾き(後者はハンバーストーンが最初に手にした楽器である)、彼女の父親は「何百もの弦楽器」をコレクションすることに夢中になり、バイオリンをいくつも持っていた。

ハンバーストーンの歌声はもともと「最悪」だったそうだが、そこからレッスンに取り組むようになり、「たしか7〜8歳」で作曲を始めた。その後、リヴァプール芸術学校にやや不本意ながら進学したが(「大学に行かないと人生が詰んじゃうから」と彼女は皮肉交じりに言う)、ロンドンで実際に音楽を作る方がより多くを学べることに気づき、1年でドロップアウトした。

キャリアを追求するために都会へ出てきた彼女は、人脈を築いていくのに苦労した。おじさん連中に囲まれることに慣れていなかったし(彼女は女子高に通っていた)、ひとりでいることにも慣れていなかった(姉妹はいつもそばにいた)。長年の付き合いであるプロデューサー、ロブ・ミルトンと出会うまでは作曲セッションを行なうのも困難だった。

「作曲セッションは本当に怖い」と彼女は言う。「素晴らしい曲を書いてきた中年男性が次から次へとやってくるから、『共通点が一切ない男たちに自分を証明しなければならない』っていう気持ちになる」。

オリヴィア・ロドリゴやガール・イン・レッドとのツアーは、ハンバーストーンに良い影響を与えた。「他の若い女性たちと一緒に過ごすことができたのは本当によかった」と彼女は言う。「自分のチームは大好きだけど、明らかにほとんどのチームが男だらけで、男性中心なんだよね。わかるでしょう?」。

多くの若いソングライターがそうであるように、ハンバーストーンは私生活を守ることと音楽で真実を語ることの間にトレードオフがあり得ることを認めている。彼女はそれを職業病だと考えているが、心から後悔している唯一の曲として、ひときわ感情的に激しい2020年のシングル 「Drop Dead」を挙げている。

「本当に若いときに書いたんだけど、今ではまったく共感できないんだよね」とハンバーストーンは言う。「歌詞を聞いても『なんだこれ、この女は何を言っているの?』って感じ」。

ハンバーストーンとオリヴィア・ロドリゴは昨年になってようやく繋がった。オリヴィア・ロドリゴは2021年1月の「Drivers License」リリース前にInstagramでハンバーストーンにDMを送っていたが、ハンバーストーンはこの曲が爆発的な人気を得るまで未読のままにしていたという。

「『世界最大の曲をリリースしたばかりの女の子からメッセージが届いてた!』って感じだった」とハンバーストーンは言う。

記憶を呼び覚まそうと、ハンバーストーンは携帯電話に手を伸ばし、DMを遡っていった。ロドリゴは『SOUR』のリリースで人生が変わってからまだ数カ月しか経っておらず、完全にファンガール・モードだ。「こんにちは。私はただ、あなたがこれまでで最高の存在で、自分が大ファンなんだと伝えたかったんです」ハンバーストーンがDMを読み上げる。

その想いを今では双方が抱いている。今ではお互いにそう感じている。「彼女は私たちの世代で最高のソングライターの一人だと思う。彼女は完璧なポップ・ソングを書いている」とハンバーストーンは言う。「彼女の作品は、ポップ・ミュージックを明らかに変えた。

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ハンバーストーンは、音楽一家で育ったという土台の上に今も立っている。「父がeBayか何かで見つけたループ・ペダルを持ってるんだけど」最初のツアーの前にプレゼントされたことを思い出して、彼女は言う。「どうやって使えばいいのかわからなかったんだよね…….。ひたすら踏みながらループさせるタイミングを測っていた。酷いサウンドだったに違いないね。ウェンブリー・アリーナでそのループ・ペダルを使ったんだけど、思い出すだけでゾッとするけど、そういうのがまた最高に面白かったりするんだよね」

この秋にアルバムがリリースされたあと、ハンバーストーンはアメリカに戻ってくることを(特定の地域については)楽しみにしているという。「ニューヨークは大好き」と彼女は言う。「他の地域はちょっと心配だね。バンドとバスを従えて、ちゃんとアメリカツアーするのは初めてだから。すごく不安だな」

ニューヨークでの取材の前日(8月6日)、ハンバーストーンはシカゴで開催されたロラパルーザの真昼のセットで、大勢の観客の前に姿を現した。彼女はセット中、エレキギターとクラシカルなアコースティックギターを何度か持ち替え、「Sleep Tight」を演奏しながら”あーあ/またやっちゃった/友情を台無しにするところだった”と歌うと、最前列にいた金髪の少女が号泣していた。ハンバーストーンもその涙に気づいていた。

「彼女はあのとき別の惑星にいた」ハンバーストーンは言う。「あそこまで感動している姿を見ることができたのは、本当に嬉しいよね」

さらにセットが進むと、彼女はデビューシングル「Deep End」を口ずさみ始めた。この曲はパンデミックが世界を覆い尽くす数カ月前にリリースされた。3年後の今、この曲は彼女が実行に移す準備ができた約束のように聞こえる。”一番深いところに私を落として/今なら泳ぎだす準備はできている(Throw me in the deep end / Im ready now to swim)”。

PRODUCTION CREDITS

Produced by Joe Rodriguez. Makeup by Elena Miglino. Photography Assistance by Vincent Tullo.

From Rolling Stone US.

SUMMER SONIC 2023

2023年8月19日(土)、20日(日)

千葉 ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ / 大阪 舞洲SONIC PARK(舞洲スポーツアイランド)

※ホリー・ハンバーストーンは8月19日(土)東京会場、20日(日)大阪会場に出演

公式サイト:https://www.summersonic.com/

ホリー・ハンバーストーン

『Paint My Bedroom Black』

2023年10月13日リリース

試聴・予約:https://umj.lnk.to/HH_PMBB