■宝塚退団時は「今の現状を全く想像していなかった」

試行錯誤しながら突き進む女優の道。宝塚歌劇団を退団してから2年の歳月が流れた。帝国劇場で世界的なミュージカルへの出演という現状は、退団当時から思い描いていた未来だったのか。

「退団を決めたとき、本当に先のことは考えていなかったんです。宝塚では男役しかやっておらず、それを突き詰めていこうという思いでした。だから、今の現状なんて全く想像していませんでした」

宝塚ではしっかり一つずつ結果を残しトップまで上り詰めた。それでも望海自身は、そのキャリアはリセットして1からのスタートだと考えていた。

「宝塚というのはやっぱり特殊な世界なんです。舞台の演目は変わりますが、基本的に演じる仲間たちは常に一緒。そんな仲間たちと一緒に乗り越えてきたという感覚でしたが、いまの舞台は、作品が違えばカンパニーもガラリと変わります。私は慣れるまでに時間がかかるので、仲間の大切さは身に染みて感じています。またこれまでは男役を追求してきましたが、女性も役もやるわけで。その意味では、本当に初心に戻って作品に臨む日々です」

とはいえ「宝塚でトップ」というキャリアは、最初から求められるものは高いのではないだろうか。

「確かに1からと言っても、周囲からは期待をしていただけているということは感じます。宝塚時代は1つずつ進んで、実績を積んでトップになったのですが、こうして大きな舞台で大役をやらせていただけることは、大きなプレッシャーです。でも舞台に向かうプロセスというのは宝塚時代から変わっていないと思っていますし、今回のサティーンが(ナイトクラブの)『ムーラン・ルージュ』を支えていかなければという気持ちの部分では、私も宝塚でトップにいるという経験をさせてもらったので、演じられたところもあると思っています」

■日本発のオリジナルミュージカルに意欲

今年の4月からは『望海風斗のサウンドイマジン』(NHK-FM)というラジオもスタートした。舞台以外でも、活躍の場を広げている。

「私はあまり器用ではないので、慣れない部分についていけないこともあるのですが、この年齢でいろいろな新しいことに挑戦できるというのは、とてもありがたいですし、いい刺激になっています。一つずつの仕事を大切にし、表現の幅を広げて行ければと思います」

舞台『ガイズ&ドールズ』ではブロードウェイで活躍している演出チームが、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』ではオーストラリアのクリエイティブチームがやってくるなど、海外のカンパニーとの仕事は大きな衝撃だったという望海。

「海外の方の感覚で舞台を作るというのは、驚くことばかりでした。『ガイズ&ドールズ』では、アメリカから小道具を持ってきてくれて、すごくリアルを追及される演出家でした。本当にちょっとだけブロードウェイのかけらをもらったような経験でした」

「海外の舞台にも?」と問うと望海は「すごく刺激的なことだと思いますが、いまは日本発のオリジナルのミュージカルをやってみたいんです。もちろん海外作品もすごく楽しいのですが、やっぱり英語の歌を日本語の歌詞にするとどこか我慢しなければいけない部分が出来てきたりします。だからこそ、日本人が日本人のために日本で開発されたオリジナル作品に挑戦したいです」と野望を語っていた。なお、24年に望海が主演するミュージカル『イザボー』(末満健一作・演出)は日本発のオリジナルミュージカルとなる。

『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』は東京・帝国劇場にて8月31日まで上演。

■望海風斗
1983年10月19日生まれ、神奈川県出身。2003年に宝塚歌劇団に入団し、2017年に雪組トップスターに就任。2021年4月11日に宝塚歌劇団退団。近年は、舞台『INTO THE WOODS』『Next to Normal』『ガイズ&ドールズ』(22)、『DREAMGIRLS』(23)などに出演。2022年に第30回読売演劇大賞 優秀女優賞、2023年に第48回菊田一夫演劇賞を受賞。現在、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』に出演中。NHK-FM『望海風斗のサウンド・イマジン』(毎週日曜21:00~)でパーソナリティを務めている。24年1~2月、東京・大阪にてミュージカル『イザボー』に主演予定。