日本を代表する食品メーカーであり、誰もが知る『カップヌードル』をはじめ、多くのインスタント食品など、多岐にわたる商品で知られる日清食品。世界中で親しまれる商品を生み出してきた同社が、昨今、EC販売を急成長させています。

ECサイトでしか購入することのできない、日清食品グループ初の美容ドリンク『ヒアルモイスト』シリーズは、多くの美容サイトで高評価の口コミがあふれ、大きな話題に。今や美容界も注目する人気商品です。

そんなEC販売を急成長させた裏側には、どのような企業努力があったのか? どのようにして美容ドリンクが誕生したのか―。実際に現場で働く、同社のビヨンドフード事業部 ダイレクトマーケティング部 部長である佐藤真有美さんにお話を伺いました。

  • 日清食品 ビヨンドフード事業部 ダイレクトマーケティング部 部長の佐藤真有美さん

■社員のユニークなアイディアがEC販売拡大へ

──最初に、佐藤さんの普段の業務内容を教えてください。

ダイレクトマーケティング部では、小売店などの店頭販売を介さない事業全般を管理しています。直営ECサイトの管理運営、Amazonや楽天、Yahoo!などの大型モールに出店する直営店の運営をはじめ、ダイレクト通販のみで売る商品の企画開発や、製造・販売管理も行っています。顧客とダイレクトに繋がっている場所でもありますので、顧客サービスのカスタマーサポートなども業務の一環です。

そのなかで、通販のオペレーション業務を行なっている部隊と、店頭で売っている即席麺をネットで売る部隊、ダイレクト通販専用のブランドを管理している部隊の大きく3つに分かれているのですが、私はその統括管理を担当しています。

──EC販売に力を入れることになった経緯は、どのようなものだったのでしょうか?

日清食品の通販事業のスタートは、2000年でした。消費者の方が、商品のCMを見て欲しくなったら、日本全国どこにでも届けられる場所を作ろうということで立ち上がったのですが、当時は、ご注文いただいてからお届けするまでに約一週間ほどかかっていたのです。 品揃えや配送スピードといったサービスレベルを、時代に合わせてアップグレードしていかなければいけないといった課題に直面したとき、社長の「きちんとマーケティングをして、ダイレクト通販を伸ばしていこう」という思いをきっかけに、現在のダイレクト通販サイトを立ち上げることになりました。私は2016年9月の立ち上げから、今の業務を担当しています。

──では、現在7年目になるんですね。安藤(徳隆)社長の時代を読む力がすごいと思いました。

そうですね。弊社はもともと、SNSでのコミュニケーションに力を入れているところもあるんです。消費者の方にちょっと笑っていただけるような、ネットでバズるマーケティングがわりと得意で。それをもう少しプラットフォーム化して発信していくことで、即席麺など現行の商品も違うような売り方ができるんじゃないか? という、社長の考えが原点ですね。

──SNSとダイレクト通販の親和性は強いのではないかと感じますが、その辺りはいかがでしょうか。

SNSのランディング先を通販サイトにしたり、SNSでバズったときにすぐ購入できるような連携を開始しました。SNSは各ブランドの宣伝担当と、マーケティング部のブランドマネージャーが、どんなことを発信するかを1から考えています。

──EC販売を拡大させるために、具体的にはどのような施策が行われたのでしょうか?

まず基本的なこととして、サービスレベルを大手ネット通販サイトのサービスレベルまで合わせようというところから始まりました。たとえば『カップヌードル』を一食から購入できるようにしたり、即日配送を可能にしたり。決裁方法を増やして、購入までの手続きをスムーズにしたんです。

また、サービスレベルを整えるだけでなく、ちょっと話題になるような商品を増やしていったこともあります。今でも販売しているのですが、具材風の紙吹雪などが飛び出す『カップヌードルクラッカー』や、過去には、謎肉の表情の違いを見分ける必要がある『謎肉(なぞにっく)キューブ』など、実際に利益にはならないのですが(笑)、SNSで見た人が“なんだこれは!?”と話題になるような商品を作りました。

──面白い商品が誕生するのも、社員のみなさんのアイディア力ですね!

そうですね、本当に毎日がネタ合戦のようになっていました (笑)。ユニークな思考でいくつかピックアップしたアイディアを社長に提出し、OKが出たら作るという流れですね。

  • 社員のみなさんのユニークなアイディア力が話題となる商品誕生に繋がっている

■日清食品初の美容ドリンクの特長は?

──佐藤さんは、ECサイトを急成長させ6年間で年商10倍を実現させた方だと伺いました。その成長の理由は何だったのでしょうか?

健康食品などD2Cブランドに取り組んだことだと思います。2020年くらいから、美容ドリンクやサプリメントなど、ECサイトでしか購入できないものを開発しました。即席麺などを主に取り扱う食品会社が美容に? という意見もあるかもしれませんが、乳酸菌研究は長い時間取り組んでいたことでもありましたし、日清食品の企業文化として「不可能に挑戦し、ブレークスルーせよ。」や「ファーストエントリーとカテゴリーNo.1を目指せ。」というように、どこの会社もやっていないことをやるからこそいいんだという思いがありました。

そのため、弊社初の美容ドリンク『ヒアルモイスト』の販売は、成長の大きな理由だったと思います。

──ドリンクを通販で取り扱うことに、懸念点などはありましたか?

重たいものは配送だけでなく、管理も大変なことですね。ですが、研究所で作った試作品を飲んだ私自身の実感がとにかくすごかったのです。これは商品にしなければ、この先自分も飲み続けることができない! という思いが、実はありました(笑)。 自分の実感をレポートにし、この商品は誰をターゲットに売るのか、キービジュアルやキャッチコピーなどをすべてまとめあげて社長に提案したところ、二つ返事で承諾していただきました。

──そんな『ヒアルモイスト』の特長を、ぜひお聞きしたいです。

商品名からヒアルロン酸が入った美容ドリンクと想像される方が多いと思うのですが、実は商品自体にヒアルロン酸は一切入っておりません。入っているのはヒアルロン酸を作らせる機能を持っている乳酸菌と、コラーゲンです。世界で唯一の特別な乳酸菌を摂取できる美容ドリンクということで作られました。

商品開発当時も今もですが、美容の悩みは尽きません。土台から潤わせてくれるので、本物志向、実感を期待する大人のためのお助けドリンクです。

──ありがとうございます。実際に飲んでいらっしゃる消費者の方からは、どのような声が届いていますか?

おいしいといったお声が多く届きます。コラーゲンが配合された美容ドリンクは、独特の香りや味がどうしても気になる、という方が多いようで、味への評価が高いですね。

やはり弊社は食品メーカーなので、味については何度も調整しました。毎日飲めるということがとても重要だと思ったので、そのような感想をいただけることはとても嬉しいです。

──最後に、今後佐藤さんがダイレクトマーケティング部として取り組んでいきたいことを教えてください。

まず一つは、既存カテゴリーが存在しないような新しい商品をEC販売で始めることです。いいなと思った商品が、お店のどのフロアに置いてあるのかわからないことって、きっとみなさんあると思います。世の中にニーズはあるけれど、市場でのカテゴリーが出来上がっていない商品の販売を、ECに活用できたらいいなと思っています。

そしてサブスクに強い商品を大成功させること。サブスクで選ばれるということは、生活に入り込んでいるのと同じだと思うので、生活に影響するようなサブスクモデルのヒットを生み出したいですね。マスに浸透させる前の成長を、ECで担当できたら嬉しいなと思います。

(撮影/曳野 若菜)