このトークイベントで、吉村はテレビ界における様々な改革を提唱した。その1つが、「テレビの数字、変えません?」と、評価軸を視聴率から変更すること。「よく(ネット)ニュースで視聴率低いとか言うけど、個人(視聴率)1%は全国の視聴者で人数換算するとおよそ100万人が見てる。ですけど1%の番組って終わりますよね。なのにYouTubeでは100万回再生ですごいと言われて、単位の違う戦いをするより、テレビも『何百万人が見ました』にしたほうが統一感がある。数字のあやふやなところで勝敗がついている今がある。100万人見てる番組をバサッといく(終わらせる)のはもったいないよ!」と主張した。

また吉村は、テレビとYouTubeの関係性を誤解していたという。

「俺ずっとテレビの敵ってYouTubeだと思ってたんですよ。エンタメの歴史を考えたときに、劇場があって、ラジオがあって、映画、テレビで、その後がYouTubeだと思ってたんです。でもその後に、Spotifyとか音声が入ってくるんです。テレビの上位互換だと思ってたYouTubeの後に音声が来るっておかしいなと思って、エンタメの流れを1列じゃなくて2列にしたんです。そこで劇場の後ろにYouTubeを置いたら、ピタッと当てはまって歴史どおりになった。ということは、好きなものを編集なくても苦痛なく見れる、お笑いのライブを劇場で見てる感覚がYouTubeなんですよ。そもそもテレビの上位互換じゃないし、ライバルでもなかったんです。ファンによるファンのためのものがYouTubeだったけど、テレビってファンじゃない人に向けてやらないといけないじゃないですか。お笑いを見たくない人に強制的にお笑いを見せて笑いを取らなきゃいけない。それが彼ら(YouTuber)は苦手だったんじゃないか」

これを受け、北野氏はテレビの魅力を「一流の人たちと一緒にものを作れることだと思うんです。吉村さんもそうだし、美術さんのセットもそうだし、照明もそうだし、それが作れる環境なのが、テレビって一番いいんじゃないですか」と分析。吉村は、フジテレビのコント美術を思い返し、「ビルの屋上から撮ってるんじゃないかっていうのをスタジオに作りますし、特効(特殊効果)の中溝(雅彦)さんに会いたいな。ジョージ・ルーカスみたいな人がいるんですよ」と、昭和の『オレたちひょうきん族』から令和の『新しいカギ』まで仕事を続けるレジェンド職人に思いを馳せた。

しかし、吉村は「その環境を一時期『古いよ』って否定された。みんなで作って馴れ合いでやるよりは、一個人のカリスマが配信してやったほうが好きなんじゃないかって、俺ら否定されたんですよ。それは寂しかったですよね。各事務所の先輩が出てきて、そこの空気を読みながら、こうしゃべってこうツッコんで…っていうのを否定されたのが、テレビ好きとしては苦しかったですよ。YouTuberだインフルエンサーだ出てきて不安な数年を過ごしました」と本音を吐露。

それでも、「実力者はまだこちら(テレビ)にいるし、見てる方もこちらのほうが多いというのが分かったんで、もう安心しました。だからとことんテレビを突き進んで、煮詰めていこうと思ってますから」と自信をつけたようだ。

さらに吉村は「局員として、プロ野球で言う“1億円プレイヤー”のようなスターを作るべき」とも提唱。「局員の演出家が出世してプロデューサーとか部長とかになるのは、違うと思うんですよ。(北野氏を指して)演出家は演出家であって、こんな人が部長になれるわけないんだから(笑)。でも演出家ってすごい希少だから、一生演出をやっていくべきだと思うからこそ、会社員の給料だけじゃなく、当てた番組の数%が収入になるとか、システムを考えて“1億円プレイヤー”を作らないといけないと思う。それがないから出世していくしかないんですよ」と訴え、木月氏と北野氏も深くうなずいていた。

■応援の仕方で好きな番組を終わらせない時代に

他にも、木月氏が演出を担当した『笑っていいとも! グランドフィナーレ』奇跡の共演、オリエンタルラジオ・中田敦彦について、『賞金奪い合いネタバトル ソウドリ~SOUDORI』(TBS)での平成ノブシコブシのコンビ対談を経ての心境…などの話題を展開し、会場を大いに盛り上げた3人。

最後には質疑応答の時間が設けられ、「テレビ画面だけにこだわらない時代で、テレビ局員の人はどういうことを考えているのか」という鋭い質問が飛んだ。

これに対し、木月氏は「今、新しいマネタイズができる番組をいっぱい考えろと指令が出てるんですけど、それでいうとたまたま先駆者的な存在になっているのが僕の作った『久保みねヒャダ(こじらせナイト)』という番組で。10年やっているんですが、5年で地上波が終わったからライブにして、今はその売上だけでやってるんです」と説明。

北野氏も「僕は、ライブ連動や配信動画などテレビの視聴率だけに縛られないやり方を模索していきたい。それが結果としてテレビの枠を広げることにつながるといいなと思います。『しくじり』も地上波では一旦終わったけど、ネットでは影響力のある番組だったので今はABEMAと番組を制作させてもらっています。『バラバラ大作戦』でダウ90000と『週刊ダウ通信』という番組をやってますが、彼らもテレビではまだそんなに知られていないけど、ライブではものすごく熱量のあるファンを多く持っていて、面白い才能をもった子たちなので、彼らとも番組連動のイベントを続けていきたいと思っていますね」と意欲を示した。

このように、番組を続けるために活路を見い出した事例を聞いた吉村は「自分の好きな番組が、自分の応援の仕方によっては終わらない時代が来るかもしれないですよね」と話し、愛を注ぐテレビにまた新たな可能性を感じたようだった。

企画集団便利舎では、今後も11月の「早稲田祭」などで、芸人、アーティスト、エンタメの裏方を招いたイベントを計画している。