ここ数年、すっかり市民権を得て高い集客力を持つようになったeスポーツ。イベントを創り上げる企業や組織、団体にとっても、さまざまなメリットをもたらしてくれるため社会全体からの注目度も高まっている。
そんなeスポーツが持つ魅力を起爆剤のひとつとして、地域を大いに盛り上げようと活動を続けている地元企業がある。東京都立川市に拠点を構え、まもなく100年という歴史ある企業、立飛ホールディングスと同社を支えるNTT東日本、NTTe-Sportsの取り組みを紹介しよう。
地域活性化のためにeスポーツを根付かせる
立飛ホールディングス(以下、立飛)は、立川飛行機という飛行機製造会社を前身に、現在では不動産業を中心に立川市になくてはならない社会貢献を続けてきた企業だ。同社は大型商業施設から保育所、スポーツ施設などを立川市に展開。調和のとれた街づくりによって、多くの市民の暮らしを支え続けている。
そんな立飛がeスポーツのイベントを始めたのは2021年6月の「第一回 立川立飛 地域交流eスポーツカップ」からとなる。
「2020年9月にNTT東日本様ならびにNTTe-Sports様と立川eスポーツプロジェクトの推進に向けた連携協定を締結したことから、eスポーツの本格的な取り組みを始めました。そして初めての大きな大会が第一回立川立飛 地域交流eスポーツカップとなったのです」と振り返る後藤氏。
もともと、立飛が続けている地域活性化のための活動の一環としてeスポーツを選択したことから始まったこの取り組みだが、最初は社内でのeスポーツ大会という小規模な取り組みから始め、少しずつ規模を拡大。そして地域企業を巻き込んでeスポーツに対する理解を醸成していったという。
「最初の大会はコロナ禍と重なってしまったため、オンラインのみでの開催となりました。スマートフォンゲームの『ブロスタ』を参加企業ごとのチームに分けて競う大会でしたが、小さいながらも大いに盛り上がったことから将来性が見えてきました」と後藤氏は語る。
「NTTグループは地域の企業や団体のみなさまと一緒になって、eスポーツをきっかけにスマートシティを実現していきたいと考えていました。eスポーツが題材になることで、地域のみなさまにICTへの理解も深まります。私たちが得意な社会貢献のためのICT活用の入り口を創るという意味もあるのです」とNTTe-Sportsの前田氏。
連携協定を結ぶ企業同士の思いが共通の方向へ向いていることもあり、イベントは成功。初の大会にも関わらず、次回開催を望む企業や参加希望者が大勢出てきたのだという。
稀有な成功を収めた地域交流eスポーツカップ
コロナ禍にも関わらず、反響が大きかった地域交流eスポーツカップ。この成功を受け、翌年の2022年7月に行われた「第二回 立川立飛地域交流eスポーツカップ」は、初のリアル開催となった。
「第二回は前回の倍の24チームが参加しました。結果的に大成功といえるほどの盛り上がりを見せ、当初の狙いであった、企業のeスポーツへの理解の醸成に大いに役立ったと思います」と後藤氏は当時の感想を語る。
「当日、参加してくださった企業から集まった選手のみなさまは、周りが見えなくなるぐらい真剣にやっておられました。企業によっては社内で予選会もあったようなので、その様子を伺うだけでも意気込みが伝わりました。企業内はもちろんですが、集まった企業同士の交流も図れたという意見もたくさんいただき、イベントをやってよかったと感じました」と新藤氏も言葉を続ける。
「この時も落ち着いていたとはいえ、コロナ禍でしたので人数制限やマスクを着用したうえで、喚気などに気を遣った大会でした。そのような中でも、前回は集まれなかった分、今回は参加企業の方々も一緒にイベントを盛り上げようという一体感がありました。たくさんの企業のみなさまにお声がけしてきた分、私としてもとてもうれしかったですね」と萩野氏も笑顔で語る。
また、この年の11月には『立川立飛 eスポーツフェス』が開催された。実は前年度にも予定されていたイベントだが、コロナ禍によって中止せざるを得なかったという背景がある。
「こちらはNTTグループのみなさまからご提案いただいたもので、若者に人気のゲームタイトル『VALORANT』をテーマに、一般参加者とプロチームの交流を行うというイベントです。このイベントでしか体験できないプロとアマによるミックスマッチなども用意されており、TACHIKAWA STAGE GARDENの『エキシビションマッチ』が約2,000人、GREEN SPRINGSの『おそとでeスポーツ』では600名強の方に参加いただけました」と後藤氏。
会場となった立飛の開発新街区「GREEN SPRINGS」内の多機能ホール「TACHIKAWA STAGE GARDEN」を埋め尽くし、こちらも大いに賑わう結果となった。
「私たちも日本中の自治体や企業のみなさまと一緒にeスポーツイベントの企画運営のお手伝いをしていますが、単体での成功例は多くても、このように地域の企業のみなさまを巻き込んで年を追うごとに大きく育っている例はとても少ないのが実情です。もちろん立飛様のこれまでの努力があってのことですが、立川の企業のみなさまは当事者意識が高く、繋がりがとても強いように思います。そういった地盤があって、良い循環が生まれ、イベントのエコシステムが自然と作れているのだと思います」と前田氏は語る。
地域企業を中心にeスポーツへの理解醸成を目指した地域交流eスポーツカップ、そして立川市民はもちろん、世界からも注目されるチームが参加したことにより、『立川市』の地勢向上や認知度向上に役立ったeスポーツフェス。これらの成功を受け、立飛とNTTグループは、eスポーツイベントとしては珍しい、中長期的なビジョンを持って本プロジェクトを推進している。
“世界の立川”の実現へ向けて
「やはり、2022年のeスポーツフェスが節目となっています。今後中長期計画を立て、NTTグループのみなさまと何を目指していくのか議論を重ねました。弊社としては以前から芸術、文化、スポーツで立川を盛り上げていくという活動を続けていることもあり、この地域の都市格をあげて世界を目指したいという思いがあります。そういったことからも、中長期計画では世界から注目されるような大会を開いて、各国から来場者が訪れることや、視聴してもらえるようなeスポーツのイベントができれば良いという結論達しました」と後藤氏は語る。
前回の立川立飛eスポーツフェスでもテーマとなった「VALORANT」は、世界でも人気の高いゲームタイトルとして各国で大会が開催されている。
「2023年4月に行われたアジアパシフィック大会に立飛は協賛として参加しました。これは立飛の名前を世界にPRする狙いと、RIOT GAMES社との強固な関係を築きたいという思いがありました。同大会は世界で通算3,000万回の視聴があり、かなりの成功を収めています。そんな大規模な大会の協賛企業として大勢のみなさんの目に留まることができたことは、世界に打って出るタイミングとして、とても良かったと考えています」と語る後藤氏。
「私たちNTTグループとしては、立飛様の思いをしっかり実現させるのがミッションです。そこを目指して関係各社と連携しながらこのプロジェクトを拡大していきたいと改めて思っています。3年後には世界大会をこの立川に誘致することを目指していますが、実現すれば立川を知ってくれる海外の方も増えますし、地元のみなさまも喜んでくださると思います。そんなよい循環を作りつつ、立飛様をはじめ、すべての関係企業のみなさまと一緒に前に進んでいければなと思っています」と萩野氏。
「第三回 立川立飛 地域交流eスポーツカップが予定されていますが、今回は立川商工会議所の70周年記念とも連動していることもあり、参加企業は70~100チーム規模となる予定です。そのため今回は予選会が必要なほど、多くの企業の方々にご参加いただいています。また、eスポーツと合わせ、リアルスポーツのイベントも同時開催するので、どちらも体験できる大会となっています。幅広くスポーツを楽しみ、eスポーツ大会を通じて立川市の地域活性化や知名度向上に繋げていきたいと考えています」と新藤氏は意気込みを語る。
「立川立飛 地域交流eスポーツカップを盛り上げていくことで”eスポーツは立川だね” といったような話題が出てくるとうれしいですね。同時に2023年11月に予定されている立川立飛 eスポーツフェスでは、より世界を意識して海外のプロチームに来日していただくといった、昨年とは違う要素を入れて、参加された方々や興味を持っていただいた方々に世界を意識してもらえるようなイベントにしたいと考えています。いずれにしても一つずつ積み上げていくことで『世界の立川』の実現をしたいと考えています」と最後に後藤氏は語ってくれた。
今後も立飛ならびにNTT東日本、NTTe-Sportsの取り組みに注目していきたい。