プロ野球やメジャーリーグの試合を観戦しているとき、実況や解説者が「このピッチャーのWHIPはすばらしいので、相手チームは点を取るのに苦労しそうですね」などといったコメントをしているのを聞いた経験がある人もいるのではないでしょうか。

この「WHIP」とは、野球を数字でデータ分析し、統計学的な根拠をもって選手の評価などを考える分析手法「セイバーメトリクス」でよく用いられる指標です。

本記事ではWHIPの意味や読み方、具体的な計算方法やNPBの歴代最高記録などをまとめましたので、野球が好きな方はぜひご一読ください。

  • 野球用語として用いられる「WHIP」の意味や計算方法を紹介します

WHIPの意味とは

WHIPとは、野球における投手の成績を表す指標の一つで、1イニングあたりの与四球と被安打数の合計を表しています。「1イニングに何人の走者を許したのか」を示す数字であるため、三者凡退ならば理論上は「0」となります。

走者をためてしまうとそれだけ失点する確率が高まるため、WHIPの数値が低い(小さい)ほど安定感のある優れた投手だと評価することができます。

WHIPの読み方

WHIPの読み方は「ウィップ」です。WHIPは略語であり、正式名称は「Walks plus Hits per Inning Pitched」です。「Walks」は四球、「Hits」は安打、「Inning Pitched」は1イニングあたりの投球を意味します。

WHIPの計算方法

WHIPの計算方法はいたってシンプルで(与四球数+被安打数)÷投球回数で求められます。

【計算例】
Aさんは100イニングを投げて38個の四球を与え、ヒットを75本打たれました。

このときのWHIPは

(38+75)÷100=1.13

となります。つまり1イニングあたり平均1,13人のランナーを許していることになります。

ではこちらの例ではWHIPはどのような数字になるでしょうか。

【計算例】
Bさんは100イニングを投げて45個の四球を与え、ヒットを63本打たれました。ただし、その間に死球を4個与え、8人の走者をエラーで許しました。

このときのWHIPは

(45+63)÷100=1.08

となります。実際には45個の四球と63本の安打で許した走者に加え、4個の死球と8回のエラーによる走者を出したのですが、WHIPの計算式には死球や失策による出塁は含みません。純粋に四球と安打による走者だけが計算の対象となります。

WHIPのすごさの基準・目安

WHIPは毎回の登板データをつけていれば、誰でも簡単に出すことはできます。では具体的にWHIPがどれぐらいであれば、一流の投手と言えるのでしょうか? これは一概には言えませんが、「1.00を下回ると球界を代表する超一流ピッチャー」と言えるのは確かです。

大谷翔平選手のWHIPはどれぐらい?

具体例を用いてみましょう。唯一無二の「二刀流」として2021年シーズンに9勝&46本塁打をマークし、リーグMVPを獲得したエンゼルス・大谷翔平選手の2022年シーズンのWHIPは、以下の通りです。

(44<与四球>+124<被安打>)÷166=1.01

この年の大谷選手はMLB史上初となる「投打でのダブル規定到達」を成し遂げています。投手としては15勝9敗、防御率2.33と文句なしのエース級の数字を残していますが、それでもわずかに1.00を上回っています。

  • 打者としても超一流の大谷翔平選手の2022年シーズンのWHIPは1.01でした

MLBの公式サイトによるとこの1.01という数字は2022年シーズンの先発投手の成績において、全体で12位でした。

上位の顔ぶれはというと、1位に2022年のサイ・ヤング賞右腕のジャスティン・バーランダー選手(0.83)、4位に大谷選手と同じく日本の至宝・ダルビッシュ有選手(0.95)、6位にシーズン20勝投手のフリオ・ウリアス選手(0.96)、8位にMLBタイ記録の10者連続奪三振の記録を持つコービン・バーンズ選手(0.97)とまさに超一流の投手だらけです。

これらのデータを基にあくまでざっくりとしたWHIPの目安をまとめてみました。

WHIP 投手としての評価
1.00(未満) 球界を代表する超一流ピッチャー
1.10 所属するチームのエース級
1.25 平均以上

各チームのエース級のピッチャーでも、成績がふるわずにWHIPが1.25を上回ってしまうシーズンが少なからずでてきます。また、WHIPが高くても粘り強い投球で結果として走者を還さず、勝ち星を重ねるタイプの投手もいます。

例えば、NPB唯一の3球団で最多勝のタイトルを受賞した涌井秀章投手は、2015年に15勝9敗で最多勝のタイトルを獲得した際のWHIPが1.25でした。上記の基準でいうと「平均以上」のギリギリのラインですが、防御率も3.39と3点台前半にまとめて粘り強い勝利を積み重ねていきました。

プロ通算のWHIPは2022年終了時点で1.26ですが、それまでに154勝をマークしているNPB屈指の好投手で、十分にエース級の資質を備えていると言えます。これらのことからも、上記のWHIPの基準は、あくまでも参考程度として考えておくぐらいがよいでしょう。

WHIPの歴代最高ランキング

では、NPB歴代の最高WHIPは「誰」が「どれぐらい」の数値を記録しているのでしょうか。個人年度別成績をもとに、WHIPの歴代最高ランキングをまとめるとトップ5は以下のようになりました(※1年間を通したフルシーズンの記録のみが対象)。

選手名 達成年度 WHIP
村山実 1959年 0.7483
小山正明 1956年 0.7489
杉浦忠 1959年 0.7540
村山実 1970年 0.7628
野口二郎 1942年 0.7718

1位は通算222勝をマークし、「ミスタータイガース」の愛称でも知られた村山実氏が1959年に記録した0.7483です。同年の村山氏の主な記録は以下の通りです。

登板 勝利 敗北 完投 完封勝ち 勝率 投球回 被安打 被本塁打 与四球 奪三振 防御率
54 18 10 19 7 .643 295.1 165 15 56 294 1.19

18勝という数字は当時からすれば決して多くはないですが、特筆すべきは300近い投球イニングに対し、許したヒット(本塁打を含む)がわずか165本という点でしょう。1回あたりの被安打数は約0.56本で、9イニングに換算すると1試合に許すヒット数は5.02本。1~2失点での完投や完封が十分に狙える数字です。

なお、2023年時点の現役プレイヤーにおける最高のWHIPは、ダルビッシュ有選手が2011年にマークした0.8276です。

WHIPの課題・問題点

WHIPは投手の能力を計測するうえで非常にわかりやすく、メジャーリーグでも重要視されている項目です。ただ、WHIPには以下のような課題や問題点があります。

(1)単打と長打の価値を同じにしている
(2)野手の守備能力に左右される
(3)死球を考慮していない

まず(1)についてですが、WHIPは「ランナーを何人出したか」という点に注目していますが、この際に長打は考慮されていません。つまり、単打も本塁打も同じ「1安打」としてカウントしているのです。

当然、長打を多く打たれる傾向にある投手の方が失点を重ねやすいのですが、WHIP上ではそういった所が見えない点が問題視されています。

(2)についてはバックの守備力が高い方がヒットを防げる確率は高いため、その分投手のWHIPは低くなりやすいわけです。

(3)は死球の方が四球よりも絶対数が少ないからなのか、WHIPの対象となっていません。どちらも投手の能力が大きく反映されている事象であり、「走者を許す」という点から見ても同じではあるのですが……。

WHIPは投手の能力を判断する指標の一つとして有効ではあるものの、これだけで投手としてのすべての資質を判断できるわけではないことを覚えておきましょう。

野球のWHIPの意味や読み方、計算方法などを紹介しました

「1イニングに何人の走者を許したのか」を示すWHIPは、特にメジャーリーグで投手の能力を判断する際に重要視されており、近年は国内のプロ野球でもその概念が広く知られるようになりました。

計算方法も(与四球数+被安打数)÷投球回数とわかりやすく、アマチュア野球でプレーをしている人たちも自分で算出しやすいです。興味がある人は、自身やチームの投手陣の成績をWHIPの計算式にあてはめて数値化してみましょう。