米医療ドラマ史上最長のロングラン大ヒットメディカルドラマの第19シーズン『グレイズ・アナトミー19』(全20話)が、6月7日からWOWOWにて放送・配信スタートした。新たなレジデントたちを迎えた病院に、大きな変化の時が訪れる――。なんと、番組開始時から中心人物だったエレン・ポンピオ演じるメレディス・グレイが、本シーズン第7話を最後にレギュラーから降板するのだ。長年に渡り日本語吹替版でメレディスの声を演じてきた三石琴乃を直撃し、心境やドラマの見どころを語ってもらった。
――2005年にシーズン1の放送がスタートした『グレイズ・アナトミー』。放送開始当時、ここまでの長いシリーズになると、三石さんは予想されていましたか?
まったく想像してなかったですね。「1シーズンで終わりかな」って思っていました(笑)。
――シーズン19の放送が決定した時の心境は?
もちろん嬉しかったことは嬉しかったのですが、メレディス役のエレン・ポンピオさんが「そろそろ私は身を引くわ」と発言しているという情報はちょこちょこ私の耳にも入ってきてはいたので。「次のシーズンはどうなるんだろう?」と、気にはなっていましたね。
――メレディスの声を演じる際は、どのようにチューニングされていらっしゃるんですか。
メレディスに限らずアニメも外画もレギュラーで担当している作品は、絵を見ればスッと入れるものなのですが、外画の場合は、実際にお芝居をされている人の感情や息遣いを汲み取って取り組んでいるので、長い目で見れば、メレディスも吹き替えも自然と変化しているのかなとは思います。
――三石さんは「シアトルに人生がもう1つあるみたい」とコメントもされていらっしゃいましたが、これだけ長い期間にわたって同じ女優さんの吹き替えを担当するとなると、もちろん英語と日本語とでは息継ぎのタイミングが違う部分もあるとは思うのですが、実際に演じている方と一体化する感覚もあったりするものでしょうか? メレディス、あるいは、演じているエレンさんご本人と、何かしら通じ合うような瞬間があるのかな、と。
もちろん、メレディスの人生は私自身の人生とは全く違うものですし、演じているエレンさんご自身の人生というわけでもないと思うのですが、少なくとも私は「日本で一番メレディス・グレイの顔を一生懸命見ている人」であるとは言えるでしょうね(笑)。激しい人生を一緒に体験しました。彼女の細かい表情の変化もずっと見逃さないようにしてきたので、やはり「人生を共にしていた」という気持ちは強いです。演じている俳優さん同士、お互いにリスペクトし合っているところが作品にも現れている気がしますが、日本語チームにもそれに負けないくらい、リスペクトがあるんですよ。そういう意味でも「なかなかいい座組だな」と思っています。
――メレディスは、「今シーズン第7話の出演が最後である」と発表されています。長らく吹き替えを担当されてきたメレディスの選択について、どのような思いがありますか?
彼女がどんな去り方をするのかなと気になっていたんですが、今シーズンの初めからその布石はちゃんとあって、「あぁなるほど。こういうことか」って、私自身もすんなりと納得はできました。誰しも人生が大きく動くときには、必ずプラスとマイナスの両面があるものですが、彼女の人生にとっては、きっとこれが最良の選択だったのかなとは思いますね。メレディスは、自分自身でもひねくれ者だと言っていますが(笑)、いわゆる普通の選択はしないんですよね。自分から荒波の中に突っ込んでいってしまって、その中でもがいて。でも見事に突破する。これまでも「あ、そういう結論を出しちゃうのか……」と驚かされることもありましたが、結果的には彼女は強い女性だったんだな、と思いますね。
――どんな理由で去るかは放送を見ていただくとして、ニックとの関係も気になります。
ニック(笑)。メレディスと付き合うと、本当に大変ですよね。善良な人ほど振り回される。私の個人的な感想としては、メレディスも初期の頃と比べれば、かなり普通の感覚を身につけてきたんじゃないかなぁと思うところもあって……ってなんだか私ずいぶん上から目線で偉そうでごめんなさい(笑)。とはいえ、時々全てをひっくり返してしまうようなパワーは、彼女のなかにまだまだあるんだなとも思いました。これは話していいのか分かりませんが、実は……、思い出がたくさん詰まったあのメレディスの家が、今シーズンでは、大変な事態に見舞われるんですよ。そして今後またあの家でいろんなお話が紡ぎ出され、恋が紡ぎ出され、そしていろんな破壊も(笑)、起こっていくと思います。
――冒頭とエンディングにメレディスのナレーションが入るのも、本作ならではの大きな特徴ですよね。第5話のナレーションでも「万能の解決策などない」「大きな決断の時で、考慮すべきことも人それぞれ」「だから事実を集め、選択肢を検討する」「知識と経験を総動員する」など、生きていく上での金言がたくさん散りばめられていて、感動させられて。ぜひともナレーションだけでも続いて欲しいなと、個人的に期待しているのですが……
私も、メレディスのナレーションはぜひともシーズン1から一冊にまとめてほしいと思っているんですよ。医療関係の作用と人間関係の作用をストーリーと上手くミックスさせながら、ドラマを観ている人たちへの問題提起も含んだ、とても素晴らしいシナリオになっていて。ナレーションを読みながら、私自身も本当に胸が痛くなったり、思わず笑いそうになったり(笑)。作家さんの腕なのか、プロデューサーの腕なのかどちらか分かりませんが、本当にあの原稿にはいつも感心させられます。このドラマが長く続いた秘訣の1つでもあると思います。
――そんななかでも、三石さんの感じているシーズン19の見どころは?
人間の生と死へのアプローチといったようなグッと重いテーマを中心に描きつつ、それと同時に、今シーズンで言うと第3話のように、若者の性教育に絡めながら面白おかしくお話を転がしていったりするようなところも「グレイズ・アナトミー」がこれまでずっと培ってきた奥深さというか、懐の広さと言えるでしょうね。メレディスがシアトル・グレイを去る第7話に登場する、とある絵本作家にまつわるエピソードには、メレディスの今までの人生と物語が見事に絡み合うかのようで、決して、「めでたし、めでたし」だけでは終わらない、それはもう、素晴らしい展開になっているんです。きっと誰しもが激しく共感されるお話だと思います。