不安な状態を表すときに、「一抹の不安を覚える」や「一抹の不安がよぎる」などと表現する場合があります。

本記事では「一抹の不安」の詳しい意味や語源を紹介。「一抹の不安」と一緒によく使うフレーズと使い方・例文、「一抹の希望」「一縷の不安」は正しいのかや、類語もまとめました。

  • 一抹の不安とは

    「一抹の不安」の意味や使い方、「一抹」と「一縷」の違いなどについて紹介します

「一抹の不安」の意味や読み方とは

「一抹の不安」とは、わずかにある不安な気持ちや要素という意味の慣用句です。

分解して、さらに細かい意味を見てみましょう。

「一抹」には、ほんの少し、ほんのわずか、かすか、などの意味があります。

「一」には、ひとつ、という意味の他にも、全部、わずか、などの意味があり、「一抹」の場合は「わずか」の意味で使われています。

「抹」の意味は、こすりつける、粉にする、塗りつぶすなどです。

「不安」にはご存じのように、心配事があるため落ち着かない様子、気がかりであることなどの意味があります。

「一抹の不安」は「いちまつのふあん」と読みます。「抹」という漢字を見慣れないと感じる人も多いかもしれませんが、「抹茶(まっちゃ)」や「抹消(まっしょう)」にも使われている漢字だと思うと覚えやすいでしょう。

「一抹の不安」の語源・由来

  • 「一抹の不安」の語源・由来

もともと「一抹」は絵筆ですっとなでる様子を表し、一筆のみで塗り付けられる量、つまり少量を表す言葉でした。

そこから「ほんのわずか」や「少し」などの意味で用いられるように変化し、現代でも使われています。

「一抹」と「一縷」の違いとは? 「一抹の希望」は誤用?

「一抹(いちまつ)」と、よく似た言葉「一縷(いちる)」。この2つの言葉はどちらの意味も「ほんの少し」ですが、ネガティブかポジティブかの違いがあります。

一抹の「抹」には、絵筆ですっとなでるように、さっと通り過ぎるニュアンスがあります。

それに対し、「一縷」の「縷」は漢字の中にも「糸」が使われているように、糸のように細くて長いものという意味があります。わずかではあるものの、途切れずに実現の可能性が続いているものというニュアンスがあります。

このことから、「一抹」はネガティブな言葉と一緒に使い、「一縷」はポジティブな言葉と一緒に使われるのです。

例えば、「一抹の不安」は、脳裏をさっと過ぎる、脳裏をよぎる不安のことで、「一縷の希望」はわずかではあるものの望みがあるということを表します。つかみづらくはありますが、糸ならばつかめる、手に入れる可能性があるというイメージです。

逆に、「一抹」をポジティブな意味で用いた「一抹の希望」、「一縷」をネガティブな意味で用いた「一縷の不安」という表現は一般的ではありませんので、注意しましょう。

「一抹の不安」に続けてよく使う言葉とは

  • 「一抹の不安」に続く言葉と意味

「一抹の不安」の後には、さまざまな言葉をつなげて使います。下記で、特によく使うフレーズと、それぞれの意味を見ていきましょう。

一抹の不安を覚える/一抹の不安を感じる

「覚える」には、「記憶する」や「習得する」、「体や心に感じる」などの意味があります。

また、「感じる」には「知覚」「心を動かされる」「感情を抱く」のような意味があります。

そのため、「一抹の不安を覚える」や「一抹の不安を感じる」という表現は、体や心でわずかな不安を感じるという様子を意味します。

一抹の不安がよぎる

「一抹の不安がよぎる」の「よぎる」は、「過る」と漢字で書くこともあります。

この「過る(よぎる)」の意味は、「通り過ぎる」「途中で立ち寄る」「避ける」などです。

「一抹の不安が頭をよぎりました」や「心に一抹の不安がよぎった」のように、一瞬、不安な気持ちが心や頭をかすめるような場合に使います。

一抹の不安が残る

「一抹の不安が残る」という言い回しもよく使われます。

「残る」は、「後にとどまる」「取り去った後にまだ存在する」「消えない」などを意味する言葉です。

「彼は改心したはずだが、その不気味な笑みを見て、一抹の不安が残った」という場合、「彼」に対して、無くなったはずの不安がまだ消えずに存在している、ということを表します。

一抹の不安が拭えない

「一抹の不安が拭えない(ぬぐえない)」の「拭えない」は、「拭う(ぬぐう)」の否定形です。

「拭う」の意味は「ふいてきれいにする」「汚点を消し去る」といった意味のため、「一抹の不安が拭えない」は、「ほんのわずかな不安ではあるが、取り除くことができない」という意味です。

「一抹の不安」の使い方・例文

  • 「一抹の不安」の使い方・例文

この章では、「一抹の不安」を含む例文を紹介します。これらを参考に、使い方のイメージを捉えましょう。

・彼のよそよそしい態度に、一抹の不安を覚えた
・彼の強引なやり方には、一抹の不安を感じます
・今期目標の実現可否について、一抹の不安があります
・心に一抹の不安を抱いたまま、その日を過ごした
・医師の説明を聞いて、一抹の不安が頭をよぎった
・一抹の不安が残るが、やり遂げるしかなさそうだ
・今回のプロジェクトに限っては、一抹の不安が拭えない
・集中しなければならないのに、一抹の不安を消し去ることができない
・彼のことを疑いたくはないが、一抹の不安を捨てきれない

「一抹の不安」の類義語・言い換え表現

  • 「一抹の不安」の類語

「一抹の不安」と似た意味の言葉を紹介します。

不安の種/心配の種

「不安の種」「心配の種」とは、不安や心配の原因となっているものを指します。

「彼の気の短さは、上司としては不安の種である」「心配の種は、いまだ彼が到着しないことだ」「心配の種が尽きることはない」などのように用いられます。

懸念材料

「懸念」には、「気にかかること」や「不安に思うこと」などの意味があります。そして、「材料」の意味は「物を作るときに、そのもとになるもの」や「判断を裏付ける証拠」などです。

「懸念材料を挙げるとすれば、彼がまだ業務に慣れていないことです」「新事業における懸念材料は、物価の高騰です」などのように用いられます。

憂い事

「憂い事」は「心配事」や「悲しいこと」などの意味があります。「憂い」とは、「これから起こりそうな悪い出来事への心配」「嘆き悲しむこと、心が晴れない様子」という意味の言葉です。

「彼女は人間関係で憂い事を抱えており、元気が無かった」などの形で使用します。

「一抹の不安」を適切に活用しよう

「一抹の不安」は、わずかにある不安な気持ちや要素を表すときに用いる言葉です。

「一抹」は基本的にネガティブな事柄に用いるため、「一抹の希望」とは言いませんので注意しましょう。

「一抹の不安」の正しい意味や使い方を覚えて、適切に活用しましょう。