東海テレビの松本圭右プロデューサーが、俳優の船越英一郎が主演を務める東海テレビ・フジテレビ系ドラマ『テイオーの長い休日』(毎週土曜23:40~ 全8話)の制作経緯について語った。

  • 船越英一郎

「そもそもの始まりは、船越さんとずっと一緒に仕事をして、それこそ何十本もの2時間ドラマを作られてきたホリプロの井上竜太プロデューサーとの出会いでした。“2サスの帝王”という唯一無二の存在である船越さんで、ドラマを作りたい。しかも、土曜の夜に見てもらうものとして、大人の鑑賞に堪えられる“骨太なドラマ”を描きたい。そうしたところから、アイデア出しが始まったんです」

「視聴者にどういうメッセージを伝えるか。これが何よりも大事でした。そんな中、何で2時間ドラマは作られなくなったのだろうと改めて考えまして……正直、そこにはスタッフやキャストにはどうしようもない『時代の流れ』というものがあったのではないかなと。それってもしかしたら、企画のキーになるんじゃないかと思ったんです」

「ここ数年、時代が令和に変わったり、社会情勢も変わってきているなかで、自分の思いとは違うところで壁にぶつかっている方も多いんじゃないでしょうか? でも、それって誰のせいでもないと思うんです。悲しいけれど、時代はどんどん変わっていくものなので。それに、その時代を作ってきたのは間違いなく、これまでの人生のはずですから、それを否定する必要もないと思ったんです。そう気づいた時に、『今まで生きてきた道を貫くことだって、いいんじゃないか。そう! それでいいんだよ』と、エールのようなことを届けられたらと思い、あえて、“仕事がなくなった”2サスの帝王を、船越さんに演じていただく内容としました」

企画のアイデアは出たが、肝心の船越にOKをもらえるかどうかは、やはり不安だったという。

「こういう企画で、1年以上仕事がない2サスの帝王なんですけどいかがでしょうか? とご本人にプレゼンするのは……本音を言えば怖かったです。場合によっては、それこそ熱護のように『ふざけるな! こんなのに俺は出ないぞ!』と却下されても仕方ない設定でしたから(笑)。でも、船越さんは、企画の意図に乗って下さって『面白いね』と言ってくださったんです」

「その後は、もっとこうした方がよりメッセージが伝わる、 もっと面白くできる、というアイデアも下さって。第一話では冒頭で、熱護が自宅でコーヒーを飲むシーンがあるのですが、台本ではそこは普段の熱護のつもりだったんです。でも、『ここからもう演じたキャラで見せた方が面白いんじゃないか?』とアイデアを下さって、放送した形になりました」

「でも、それって実は演じる側にはものすごくカロリーが高いことなんです。まずは船越さんが2サスの帝王の熱護を演じる。その熱護がさらに別のキャラを演じるんです。船越さんではなくて、熱護としてキャラを作るので、正直、船越さんの負担は普段の3倍以上じゃないかなと」

「でもそんな時に船越さんがおっしゃった言葉が印象的で……。『自分(船越)は今まで、いろいろな作品に出てきたけど、こんな、ひとつの物語の中で何役もやらなければならないような話は初めてだ。この年になってまだチャレンジさせてくれて、ありがとう』と。それを聞いて“ああ、船越さんが帝王で居続けられる理由は、まさにこの部分なんだな”と感動しました。船越さんは常に成長を止めない。それこそが帝王の帝王たる理由なんだなと思いました」

かくして、『テイオーの長い休日』は、実現の陽の目をみることになった。第一話の放送では、船越のこれまでの作品をほうふつとさせる扮装での登場に、SNSでは「面白すぎる!」「2サス好きにはたまらない!」という反応が。そんななか、ひとつのコメントが松本プロデューサーには印象的だったという。

「放送はリアルタイムで自分も見るのですが、皆様のあたたかな反応が本当にありがたく、“見て頂きありがとうございます!”と放送後もずっとSNSを見てしまって……そんななか、『熱護大五郎の語る言葉は、悲しいくらい古臭い。でも心に響くものばかりだ』というコメントを見つけて思わず涙が出そうになりました。それこそ、このドラマの狙いそのものだったので」

「実は熱護は弱者の代表なんです。作品がなければひとりでは何もできない。抗おうにもそのチャンスすらもらえない。船越さんが演じるのでぱっと見、弱くは見えないのですが(笑)、実は熱護こそが救われるべき弱者なんです。それでも熱護は自分を信じ続けている。弱者だからこそ、その強さ、言葉は、劇中の悩んでいる人々にも届くんです」

「上から偉そうに言われても、人って素直に聞けないじゃないですか? 対等だからこそ、響く言葉ってあるんじゃないかと思うんです。それが視聴者の人にも届いていたんだと思って……このコメントを見つけた 時は、本当に嬉しかったです!」

この作品には、「テレビ業界モノ」のドラマとして、また深い意味が込められている、と松本プロデューサーは語る。

「ホームコメディということで、ぶっ飛んだ展開や、設定なんかも盛りだくさんにしているのですが、ストーリーの中で解決されていく悩みは“リアル”なものにしようと決めていました。そうしないと、ただの別世界の話になってしまうので。なので、ドラマの中で登場人物たちが言うセリフには、過去に我々、制作スタッフの誰かが実際に言われたり、そういうことを感じた、という言葉が盛り込まれています」

「ドキュメンタリーに近い感覚で、自分たちの心の中のキズをさらけ出して作っていると言ってもいいかもしれません。誰かから傷つけられたキズ、逆に誰かを傷つけてしまった後悔のキズ……本当にいろいろなキズがあるんだな、と改めて痛感しました」

「似たようなキズは、どんな業界の、どんな職場でもあるのではないか、と思います。そのキズをあえてえぐり出して、キズを負った人間たちがその先をどうやって生きていこうとするのかを描くことで、そこに希望を見出せたら、と思ってこのドラマを作っています。手前勝手なことではありますが、それを見た視聴者の方が 『あ、こんな奴らが頑張っているんだから、オレも頑張ろうかな、ワタシもがんばろうかな』とか思っていただけたら、幸せかな、と思っています」

「台本作りでは、プロデューサー、監督、脚本家、みんなが自分たちの体験を話しながら、ある意味、セリフドキュメントを作っている感覚があります。特に第二話は工藤遥さん演じる新人脚本家が、台本打ち合わせでものすごく苦労する話なのですが……自省の念もこめて、けっこうひどいプロデューサーが登場したりもしています(笑)」

「そんな中、それこそ船越さんのことを誰よりも知っている井上プロデューサーも台本作りには参加しているので……もしかしたら、『船越さんご本人のキズ(思い出?)』もどこかに反映されているかもしれません。制作の現場にいる僕らも、「これはもしかして、リアル船越さんの姿なのかも……」と思いながら撮影しているシーンもあったりするので、視聴者の皆様には、そういう楽しみ方もしていただけると、面白さがいっそう増すかもしれません。ただ最後にひとつだけ声を大にして言いたいのは……船越さんは熱護と違って、めちゃくちゃいい人です!(笑)」

(C)東海テレビ