ビジネスシーンでよく耳にする「おっしゃる通りです」という言葉について、正しい意味や使い方はご存じでしょうか。
本記事では「おっしゃる通りです」の詳しい意味や、シーン別の使い方と例文を紹介。「おっしゃられる通り」「おっしゃりました通り」は正しいのかなど、注意点や言い換えもまとめました。
「おっしゃる通りです」の意味とは
「おっしゃる通りです」は、「あなたの言う通りです」「その通りです」を丁寧にした言葉で、相手の言葉にうなずく際に使われる言葉です。
目上の人の発した言葉への同意を示し、「実際にそういった状況である」、「自分自身もそう思う」という意味合いを表すために使われます。
「(あなたの)言う通りだ」「(あなたに)同意する」の敬語表現である
「おっしゃる通りです」を文法的に細かく説明すると、「言う」の尊敬語である「おっしゃる(仰る)」に、同じ状態や方法であることを表す「通り」、そして「だ」「である」の丁寧語の「です」が組み合わさっています。
尊敬語とは、相手や相手に関することを敬う際に使う敬語で、相手側を高めるために使用します。
「おっしゃる通りです」という返答は、「○○さんの言う通りです」「その通りですね」「○○さんの意見に同意します」などと答えるよりも丁寧な印象です。そのためビジネスシーン、特に目上の人に対してよく使用されるのです。
また相手の発言を全面的に肯定するニュアンスを含むため、相手の考えを尊重する意味合いも伝えることができます。
「おっしゃる通りです」はビジネスメールでも使える?
「おっしゃる通りです」は、ビジネスメールにも使用可能であり、実際によく使われています。
メールは「書く」行為であるため、「言う」の尊敬語である「おっしゃる」を使用するのがどうしても気持ち悪い、という場合は「ご指摘の通りです」など、後ほど紹介する類語を使って置き換えてもいいでしょう。
「おっしゃる通りです」の正しい使い方と例文
ここからは「おっしゃる通りです」について、具体的な場面ごとの正しい使い方を、例文と共に紹介します。
上司など目上の相手の言葉を借りて同意する場合
例:「課長のおっしゃる通りです。私も彼が適任だと考えています」
この例文では、相手の言葉を借りて、私も同じ意見である、と同意を表現しています。
上司や取引先など、目上の人の発言内容が、自分自身の意見と同じ趣旨である場合に、重複を防ぐ意味合いで使用します。
目上の人の話をしっかりと聞いている姿勢も示せ、ビジネスシーンでは重宝される使い方です。
上司など目上の相手からの指摘に対する返答に使う場合
例:「部長のおっしゃる通りです。今後このようなことがないよう気を付けます」
この例文は、自分の行いに対して部長から指摘を受け、相手の言ったことに間違いがないと認めたシーンで使用しています。このように使用することで、相手に「あなたの認識は正しい」と伝えられます。
ただし「おっしゃる通りです」とだけ返答してしまうと、指摘に対して「そうですね」としか答えていないことになり相手に不安を与えてしまいます。そのため今後どう行動するのかを、セットで必ず伝えましょう。
顧客からのクレームへの返答に使う場合
例:「◯◯様のおっしゃる通りです。大変申し訳ございませんでした。至急代替品をご用意いたします」
例文は、クレームに対して相手の言い分を聞き、対応策を示しています。
クレームへの返答は慎重に行わなければならない場面が多く、相手の話をしっかりと聞く姿勢が求められます。
そういったシーンで「おっしゃる通りです」を使用すると、相手の話を受け止める姿勢のアピールができ、円滑に話を進める材料にもなり得るのです。
「おっしゃる通りです」を使うときの注意点
さまざまな場面で使用でき便利な言葉である「おっしゃる通り」ですが、やみくもに使えばいいという訳ではありません。
間違った使い方で、相手に不快な思いをさせてしまうことのないよう、使用する際の注意点を紹介します。
二重敬語「おっしゃられる通りです」とならないように注意する
よくある間違いで、「おっしゃられる通りです」があります。一見どこがおかしいのかが、分かりにくい間違いです。
「おっしゃる」は既に「言う」の尊敬語であるため、尊敬語である「られる」を付けると二重敬語になってしまいます。丁寧に言おうとするほど、犯してしまいやすいミスです。
「られる」は不要で、シンプルに「おっしゃる通りです」としましょう。もしもより丁寧にしたい場合は、「おっしゃる通りでございます」などとするといいでしょう。
「おっしゃりました通りです」は間違い
間違った表現として「おっしゃりました通りです」が挙げられます。
「おっしゃる」を「ました」につなげる際には「イ音便」になるため、「り」ではなく「い」に音が変わります。「おっしゃりました」は誤りです。
もしも過去に相手が発言したことに対して使用したいのであれば、「おっしゃいました通りです」「おっしゃった通りです」を使用しましょう。
何度も使用しない
いくら相手に対して丁寧な印象を与える言葉であっても、発言の度に「おっしゃる通りです」を繰り返していると、マイナスな印象を与えてしまう危険性もあります。
何度も繰り返し使用すると、「調子のいいことを言っているだけで、きちんと話を理解して聞いていないのではないか」「無理に意見を合わせているだけではないか」という印象を相手に与えてしまうのです。
信頼関係を築くためにも、返答のバリエーションを増やし、適度なタイミングでの使用を心掛けるといいでしょう。
語尾を省略した「おっしゃる通り」は避ける
目上の人との意見が一致した際、ついつい「おっしゃる通り!」と発言してしまうことがあります。しかし語尾を省略して使用するのはおすすめできません。人によってはなれなれしい、失礼だと感じてしまうでしょう。
丁寧な言葉も使い方を間違えると、言わない方が良かった言葉に変わってしまいます。相手に不快な思いをさせないように「おっしゃる通りです」「おっしゃる通りでございます」などと、語尾を省略せずに使用するようにしましょう。
「おっしゃる通りです」「おっしゃる通り」の類語・言い換え表現
相手とのコミュニケーションで便利な「おっしゃる通りです」「おっしゃる通り」ですが、連続で使うと軽々しい印象になってしまいます。そこでバリエーションを増やすための類語を紹介します。
それぞれ少しずつニュアンスが異なるので、ぜひ覚えて使いこなしましょう。
左様でございます
「左様でございます」は、「その通りだ」を丁寧にした言葉です。「左様」は「その通り、それがふさわしい」といった意味を持ちます。
「おっしゃる通りです」「おっしゃる通りでございます」と同様に、相手の発言を肯定したいときに使用できます。
ご指摘の通り
「ご指摘の通り」とは、「あなたの指摘通り」を意味します。
「指摘」とは、欠点や過失、重要な点などを具体的に指し示すことを表します。そのため聞き手側にとっては、気持ち良く聞ける話ではないことがほとんどです。
例として「◯◯様のご指摘の通り、弊社の手違いでございます」のように使います。
「おっしゃる通り」は、相手の発言内容の良しあしを問わず使える言葉ですが、「ご指摘の通り」で述べている内容に良いことが含まれる場合はほとんどありません。
「ご指摘の通り」は、相手からの注意、忠告を真摯(しんし)に受け止める姿勢を見せたい際に使用できます。
ご推察の通り
「ご推察(すいさつ)の通り」とは、「あなたが考えている(気が付いている)通り」を意味します。
「推察」とは他人の事情や心中を、「多分こうだろう」と推し量ることを意味します。「おっしゃる通り」との違いは、相手の発言か、相手の考えていることかの差です。
例として「課長のご推察の通り、今期の売り上げ達成は難しいかと存じます」のように使用します。
相手がダイレクトな発言はしていないものの、話の端々から感じ取った相手の考えをくみ取り、発言する際に便利な言葉です。
お察しの通り
「お察しの通り」も、「ご推察の通り」と同じく、「あなたが考えている(気が付いている)通り」を意味します。
「お察し」とは、「察すること」を意味する「察し」について、察する人を敬う形にした言葉です。
そして「察する」は、物事の事情や他人の気持ちを推し量る、気が付く、同情するといった意味を持ちます。
「おっしゃる通り」との違いは、相手の発言か、相手の考えていることかです。「お察しの通り」を使用すると、相手の推測が正しいことを示しつつ、鋭い観察眼を褒めるニュアンスも表せます。
ご認識の通り
「ご認識の通り」とは、「相手の認識が正しい」ことを伝える言葉です。
「認識」とは、ある物事についてその本質や意義をしっかりと理解することを意味します。
「おっしゃる通り」との違いは、相手が明確な発言をしたか、していないかです。
「おっしゃる通り」は、相手が発言したことに対してその通りだと示す言葉です。一方「ご認識の通り」は、相手がその場では言葉にはしていない場合でも、相手が確実に理解しているであろうときは使用できます。
ご明察の通り
「ご明察(めいさつ)の通り」とは、「あなたが見抜いている通り」を意味します。
「明察」とは、はっきりと物事の事態や真相を見抜くことの意味です。「推察」や「お察し」よりも、確実な見当がついている場合に使用します。
「ご明察の通り」は、事態の本質を見抜いた相手に対して、特に称賛の意味合いを含む言葉です。
敬語表現「おっしゃる通りです」をビジネスで適切に活用しよう
「おっしゃる通りです」は「あなたの言う通りです」を意味し、ビジネスシーンでよく使われる言葉です。目上の人に使うことが多く、相手の発言を全面的に肯定する姿勢を表せるため、円滑なコミュニケーションを築く手段にもなり得ます。
ただし使い方に注意をしなければ、かえって失礼な印象を与えることもあります。相手との信頼関係を築くためにも正しく理解し、適切に使うことを心掛けましょう。