野菜の卸売り販売開始⇒自転車操業で疲弊

高校生の頃から地元が廃れていくのを見て、いつか起業して雇用を生み、この街ににぎわいを取り戻したいと考えていた椋木さん。東京でテレビ制作に10年携わった後Uターンすると、地元・萩の農業がさまざまな課題を抱えていることを知ります。
そこで「萩野菜」と銘打って地元野菜の卸売り販売を開始。しかしほどなくして、壁にぶつかります。「休みがない、利益率が低い、売り上げが安定しない……これでは続かないと思いました」(椋木さん)

ピクルス製造&販売に移行⇒利益率が大幅アップ!

そんな折、ある農家さんから「規格外野菜をどうにかしてほしい」という相談を受けます。また全国展開の大手スーパー担当者との会話から、「大手流通も商材を探している。良い商品を作れば向こうから買いに来てくれる」ということにも気づきました。
偶然ピクルスを作っている農家さんの講演会を聞く機会があり、「これだ!」と思った椋木さんは、そこから1年かけ、日本中のピクルスを買い集めて研究し、独学で加工品製造を学んで資格を取得。2014年に「萩野菜ピクルス」としてピクルスの販売を開始しました。売れるためにはデザインなど見せ方が重要という前職で得た教訓から、パッケージにも徹底的にこだわりました。

すると、一向に増える気配のなかった銀行の残高が面白いように増えていったと言います。「加工品は見せ方次第で価値を上げられるし、販路も広げていける」。椋木さんはこれを機に野菜の卸売りをやめ、ピクルス一本に絞っていきます。

パック包装で販売⇒利益率もブランド価値もダウン

ピクルスは順調に売れていきましたが、値段が高めなことから、贈答品やお土産としての需要がほとんどでした。より多くの人に手に取ってもらいたいという販売先からの要望もあり、瓶入りではなく袋型パックの包装にして価格を半分以下に下げた商品を作りました。
ところが、「利益率が大幅に下がり、売っても売っても儲からない。振り出しに戻ってしまいました」(椋木さん)。定番品も売れなくなり、「萩野菜ピクルス」というブランド価値を結果的に下げてしまうことに。パック販売は1カ月ですぐに取りやめました。

サンドイッチを商品化⇒現金収入アップ&客層が拡大!

ビールがふるまわれるイベントに出店した時のこと。ピクルスがつまみに喜んでもらえるだろうと思いきや、炭火焼き鳥の屋台にお客さんを取られて、惨敗したそうです。
そこで「TPOに合った提案が必要なのでは」と思い至り、次に出店した日本酒のイベントでは、タコぶつとピクルスを和えて提供。すると200食がすぐに完売しました。これを機に、「ピクルスをどう売るか」から、「ピクルスを使って何をするか、ピクルスを軸に事業をどう広げていくか」という考え方にシフトしていきます。
当時は、美しい断面を楽しむ“萌え断サンドイッチ”がブームの兆しを見せていた頃。たまたまその情報に触れた椋木さんは再び「これだ!」と思いつきます。翌日すぐに東京の話題の店に行き、一日中、厨房(ちゅうぼう)をのぞき込んで作り方を目と頭に焼き付けました。

「販売を始めると、これがまたすごい効果で」と椋木さんは振り返ります。
「粗利がさらに上がり、客層も広がりました。現金収入も毎日入ってくるようになり経営が安定しました」

グッドデザイン賞に応募⇒商品価値が明確に!

萩野菜ピクルスをインターネットの“ピクルス”検索で上位に上げるためにピクルスづくりのレシピを公開していたところ、模倣品が増加し、椋木さんはその対策を考えていました。また販売価格を上げたいという思いもあり、グッドデザイン賞に応募することに。
当初は、自信のあった商品パッケージ部門でエントリーを考えていました。しかし「優れたデザインは世の中にいくらでもある。でも“規格外品を加工して農家に還元する”というコンセプトはあまりない」と思い直し、地域貢献部門で勝負。自社商品の価値がどこにあるのかを客観的に評価しPRした結果、見事、受賞を果たしました。
「ものを売る上で欠かせないのが、なぜその商品が生まれたのかというストーリーです。それがないと人の心は動かせません。地域貢献というテーマはテレビや雑誌などでも取り上げやすいネタになります」と椋木さん。
知名度の高いこの賞を受賞したことで、狙い通りバイヤーからの評価が上がり、メディアの取材も一気に増えました。

スクールを開校⇒2年で6000万円以上の収益!

加工品を作り始めた当時、さまざまな悩みがあったことを思い出した椋木さん。「誰かに教えてもらえたら、もっとスムーズだった」という思いから、これまで培った経験とノウハウのすべてを教えるスクールを2018年に開校します。すると国内外から問い合わせが相次ぎ、開校からわずか2年で6000万円以上の収益に。事業をさらに拡大するための大きな足掛かりとなりました。

計画通りにいくわけがない

椋木さんには、トライを続ける上でのルールが2つあります。
1つは、「うまくいかなければ早めに見切りをつける」こと。「長く続ければ芽が出るのでは、という意見もあります。でも僕の性格もありますが、限られたリソースと財務状況を考えると、ロングスパンでの投資はできません。常に数字をチェックしながら、短期間で結果が出たやり方で勝負をします」
もう1つのルールは、「失敗してもリスクを回収できるよう、最小限のコストで始める」こと。軌道に乗るかわからなかった紅茶とサンドイッチのカフェも、水道工事以外はすべてDIYで作り上げました。
そんな椋木さんが、ここぞとばかりに3000万円もの融資を受けて建てたのが、販売店舗を兼ねた80人収容の大型カフェです。

「僕の事業の目的は、『萩野菜ピクルス』を地域のブランドとして確立させ、雇用を生み、地元に人を呼び込むことです。ブランドとしての知名度を上げるには、旗艦店の大きさは重要だと考えました」(椋木さん)
現在、このカフェではサンドイッチの他にも、萩野菜をたっぷり使ったランチプレートやサラダボウル、地元産の果物を使ったフルーツサンドなども販売し、多い日には200人を超えるお客さんでにぎわっています。
それでもまだまだ発展途上だと椋木さんは言います。「今のところ、従業員はほとんどアルバイトなので、正社員を雇える規模にしていきたいですね」

「事業なんて計画通りにいくわけがない」と話す椋木さん。雇用を生み、人口を増やし、にぎわいを取り戻す。描いたビジョン実現のため、粘っこく、泥臭く、この先もトライ&エラーは続きます。