就活において、面接はとても重要な関門ですから、対策本からインターネット上の回答マニュアルなど数多く存在します。

ただ、どれだけ準備をしても、当日にどんな面接官が出てきて、どんな質問をされるのかはわかりません。

大切なのは、当日に実力が100パーセント出せるようなメンタルを持つことです。不安や心配に負けず、自分をしっかりアピールできる人になれば、そこを評価してくれる会社は増えるでしょう。

今回は、ここぞという面接やグループワークの時に役立つ、自信のない自分を変えられる魔法の言葉をご紹介します。

「私は大丈夫」よりも、もっと自分を励ませる言葉

2017年、世界的に有名なNature(ネイチャー)が運営する権威ある学術誌に、「不安とストレスを軽減するための実験」に関する驚きの結果が報告されました。その実験の参加者には、自分に対して次の2種類の言葉を言ってもらいました。

A.「私は大丈夫」
B.「あなたは大丈夫」

その結果、

• Bの「あなたは大丈夫」と2人称で自分に声をかけたグループのほうが、不安の感情がより落ち着いた。
• 脳画像の分析から、「私」と1人称で言うよりも、「あなた」と2人称で言うほうが、脳内の自制心を司る部分がより活性化していた。

不安は、脳の扁桃体と呼ばれる部分から生まれますが、自分に向けて「あなた」と言ったほうが、扁桃体の活動がより抑えられたのです。

つまり、主語を2人称(あなた)にしただけで、ストレスが軽減されてしまいました。

「私は大丈夫」ではなく、「あなたは大丈夫」と2人称で(時には3人称で)、まるで他者に話すように自分に語りかけると、外側から自分を眺めることができるため、感情をコントロールしやすくなることがわかっています(心理学の専門用語でサードアイ/セルフ・ディスタンシングとも言われます)。

出来事の中に入り込んで主観的に体験すると、楽しい経験は「楽しさが倍増」しますが、不安や恐れなどマイナスの感情の場合、自分の視点から見てしまうと、負の感情を大きく感じられるようになり、脳がダメージを受けやすくなります。

そんなとき、一歩引いて「第3の目線」で眺めることで、脳への感情の影響を少なくできることが近年の研究でわかってきているのです。

いろいろなストレスに遭遇したとき、「私はがんばる」ではなく、こう言ってみます。

「あなたはがんばる!」

もしくは、「あなた」ではなく、次のように「3人称」(自分の名前、愛称やニックネームなど)を使っても効果があります。

「けんたはがんばる/けんた、がんばれ!」
「みさき、もう一息だから!」
「なおさん、いつもよくやってるよ!」

こうした言葉をかけると、自分ではなく、他人から声をかけられるような感覚になるため、より客観的に自分を把握して、ストレスもなくなり、適切な行動ができるようになります。

「ここ一番のシーン」に強くなれる言葉

面接を控え、超緊張しているあなたの頭の中はどんな言葉が飛び交っているでしょうか。

「こんなの無理」
「不安でたまらない」
「緊張しすぎて震える」

自然に、こんな言葉が出てきてしまうかもしれません。過剰な緊張状態にあるとき、脳は大きなストレスを受けているため、本来の能力を発揮しにくくなることがわかっています。

練習ではうまくできても、本番に弱いという人がいますが、これはまさに脳が緊張状態になってしまうからです。

こんなとき、どうしたらいいでしょうか。実は、脳内での言葉を換えるだけで、この緊張状態を自分の力に変えることができるのです。

米国ハーバード・ビジネス・スクールの教授、アーサー・ブルックス氏の研究で、こんな実験をしました。

まず、100名以上の人に突然、「歌を歌ってもらう」という課題を与えて、緊張状態をつくりました。そして、本番前に、次のことを3つのグループにやってもらいました。

(1)「私は興奮している!」と声に出す
(2)「私は不安だ!」と声に出す
(3)何も言わない

そのあと、彼らの歌の正確度をチェックすると、次のような結果が出ました。

(1)「私は興奮している!」と言ったグループ→80.52%の正確性
(2)「私は不安だ!」と言ったグループ→52.98%の正確性
(3)「何も言わなかった」グループ→69.27%の正確性

この結果は、かなり大きな話題を呼びました。たった一言、違う言葉を言っただけで、正確度が変わってしまったのです。

(2)の「私は不安だ!」は、最低の正解率でした。

たった一言ですが、緊張して不安なときは、脳内で自分に向けて「興奮している!」と言ってあげるのがおすすめです。

もしくは、第三者の目線で「しょうたさんは、興奮している!」と自分の名前を入れて言うと、サードアイの力でより効果を期待できるでしょう。

先のハーバード・ビジネス・スクールの研究によると、人間は「不安からリラックスする」よりも、「不安から興奮状態に移行する」ほうが、パフォーマンスが高くなることもわかっています。

私たちは「興奮している!」と「脳内トーク」した瞬間、脳に「今、私は興奮している状態なんだ」というシグナルが送られ、今起きていることのとらえ方と生理反応が変わります。

また、脳には「先に行なったなんらかの処理が,次に行なう他の処理に促進的な効果を及ぼす」という現象の「プライミング効果」があります。

このため、「興奮」という言葉に引きずられて、興奮状態、つまり、脳が活性化する状態になりやすくなる効果も期待できます。脳の状態がよくなって、本来の能力が発揮されやすくなるのです。

「興奮」と言って、すぐに変化を感じられなかったとしても、実際の歌の正確度は上がっていて驚くケースもたくさん見てきました。

相手からの印象を「ハナマル」にする言葉

「プラットフォール効果」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

米国カリフォルニア大学の社会心理学者 エリオット・アロンソン氏が発見したもので、簡単に言うと「人は完璧すぎるよりも、ミスや失敗をしたほうが、好感度が上昇する」という効果です。うっかりさんが喜びそうなものですよね。

この実験では、ある録音テープを聞いてもらいます。

録音テープは、回答者が常識クイズに次から次へと答えていく内容で、その正解率は90%以上。そして最後に、クイズの回答者に自分の経歴についても話してもらうと、誰が聞いても一流の経歴、という内容でした。

次は、同じ内容のテープなのですが、テープの最後に、回答者がコーヒーカップをひっくり返して、新品のスーツが台無しになるという場面まで収録されているのを聞いてもらいました。

そのあと、被験者に、クイズに答えた人についての印象を聞いたのですが、後者のコーヒーカップをひっくり返してしまったほうに、好感度を持つことがわかったのです。

私たちは完璧な人を見ると、「自分とは違う」「近寄り難い」という印象を持ってしまいますが、そういう人が実はうっかり者だったり、失敗をしたりするところを見ると、その人に対してよい印象を持ちやすくなります。

ロボットに対しても、このプラットフォール効果は発揮されるようで、ミスのない完璧なロボットより、ミスをしてしまうロボットに人はひかれるようです。

ほかの研究でも、自分の弱みを最初に話して、その後に強みを話したほうが好感度は上がりやすく、プレゼンも成功しやすくなることが示されています。

完璧にふるまおうとするほど、人は魅力が下がっていきますので、相手からの印象をよくしたいときは、

「完璧にふるまうほど、印象が悪くなる」
「むしろ、少しヘマをしてもよいくらいだ」
と脳内で自分に言ってあげてください。

肩の力も抜けてリラックスすることで、より本来の魅力が相手にも伝わりやすくなるため、あなたの好感度は自然とアップしていくでしょう。

著者プロフィール:西剛志(にし・たけゆき)

脳科学者(工学博士)、分子生物学者
T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。
1975年宮崎県高千穂生まれ。東京工業大学大学院生命情報専攻卒。博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。著書に『世界一やさしい 自分を変える方法』(アスコム)など。