渡辺明名人に藤井聡太竜王が挑戦する第81期名人戦七番勝負(主催:毎日新聞社・朝日新聞社)は、第4局が5月21日(日)福岡県飯塚市の「麻生大浦荘」で始まりました。渡辺名人がスコアをタイに戻すか、藤井竜王が奪取に王手をかけるか。雁木対早繰り銀の力戦となった本局は、翌22日(月)夕方以降の決着が見込まれます。
渡辺名人が雁木を連採
渡辺名人の1勝2敗で迎えた本局は、後手となった渡辺名人が4手目に角道を止める趣向を見せる出だしとなりました。これで開幕から4局連続で矢倉・雁木系の力戦となった本シリーズは、角換わり腰掛け銀の研究合戦を避けた実力勝負の様相を呈しています。渡辺名人が雁木囲いに態度を決めたのを受け、先手の藤井竜王は早繰り銀の攻撃陣を築きました。
盤上は今年2月に両者の間で指された朝日杯将棋オープン戦決勝と類似の展開をなぞりますが、渡辺名人は右銀の活用を保留しているのが工夫。代わりに桂の活用を急いで先手の攻めを相対化する狙いがあり、このあたりから長考合戦が始まります。98分の考慮でじっと飛車を浮いた藤井竜王に対し、渡辺名人も53分の考慮ののちに角引きで応じました。
先手の藤井竜王が3筋の歩を取り込んで攻めの形を築いた局面で、後手の渡辺名人はこの歩を放置して9筋の歩を突き捨てる決断の一手を繰り出しました。こうなると全面戦争は避けられません。この直後、タダのところに香を走った渡辺名人はこれによって得た貴重な一歩を桂頭に打って攻めを継続。これに対する次の一手が藤井竜王の封じ手となりました。
戦いは2日目に。渡辺名人の攻めを藤井竜王が受け止める展開
封じ手の局面はひとつの分岐点で、実戦で藤井竜王が選んだ桂跳ねは桂交換を迫って反撃を目指す強い反発です。対して渡辺名人は桂交換の後にいったん角を引き揚げて攻め手を緩めました。一気の攻めでは少し足りないと見て、曲線的な手順で局面の複雑化を図った一手です。しかし後手は後戻りのできない桂香が中心の細い攻め。貴重な攻め駒の香は今にも取られそうです。藤井竜王にしっかりと受け止められてしまったら攻め駒不足で完封される心配が出てきました。
後手の攻め手を緩和すべく藤井竜王が飛車の頭にたたきの歩を放ったところで昼食休憩に入りました。細い攻めを通すのは渡辺名人がもっとも得意とするところ。午後からの戦いで、渡辺名人の手腕が問われそうです。本局の持ち時間は各9時間。22日夕方以降の終局が見込まれています。
水留 啓(将棋情報局)
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