ファッションにおける「裏原時代」を学生の時に通過した筆者。時が流れ、当時のスタイルが再注目されていると聞くと時代の流れを感じます。

はやり廃りを何度も経験して、「パトラッシュ、トレンドを追うのに疲れたよ……。普遍的なものがいい」。そんな考えに至った結果、トラディショナル、オーセンティックというキーワードがビシビシ刺さるオジサンの出来上がりです。

そこにカバンメーカーのエースがこの秋、「UNTRACK(アントラック)」という男性向けの新ブランドを始動する話が届きました。「得意とする多彩なファンクションを、時代を経ても飽きの来ないシンプルデザインにさり気なく配しております」という、バッグとウェアを展開するそう。

これは期待できるかも? と9月の立ち上げに先駆けて展示会が開催されたので、一足早く見てきました。

  • エースが秋にスタートする新ブランド「UNTRACK(アントラック)」展示会

新ブランド誕生の背景

同ブランドでリリースされるバッグ、ベンタイル生地が特徴の「CITY/VT」、自転車のクロスバイクに合わせた「CROSSBIKE/SP」、アウトドアバッグの機能性を街中利用に落とし込んだ「OUTDOOR/CBE」、丈夫で上品な風合いの9号帆布を使った「PARK/TC」の4種類で、すべてカジュアル寄りのものばかり。

  • 「CROSSBIKE/SP」シリーズ

エースの従来の製品は比較的ビジネスバッグのイメージが強かったので、その理由を広報PR担当を務める森川泉さんに尋ねました。

「ビジネスカジュアルが浸透する中、社内の若手から『自社製品だと少しビジネス寄りだと感じる』という声がありました。それであれば、カジュアルスタイルに合うバッグを提案していこう、と社内で機運が高まったのです」

一番身近なユーザーである若手社員たちの声、つまりボトムアップがきっかけだったようで、若手社員主体で意見交換する場を設けるなども最初の企画段階で実施したそうですよ。

そして、カジュアルスタイルに合う製品を求める声は若手だけでなく、中堅以上のメンバーからも「カジュアルな見た目に(エースが得意とする)機能性を持たせれば、すごく良い商品になるよね」と賛同の声が挙がっていたとか。モノづくりの会社ならではのエピソードですね。

  • 「OUTDOOR/CBE」シリーズ

ベンタイル生地に興奮

各シリーズを一通り説明してもらう中、特に気になったのがベンタイル生地を使ったバッグ。ユーロヴィンテージ好きは直ぐに反応するワードです。特にイギリス軍のミリタリーウェア好きだと「だいぶ前のめり」になるのでは?

有名どころではイギリス海軍で使われ、古着好きには王様とも称される「ロイヤル ネイビー ベンタイル スモック」があります。

耐水性・防風性・浸透性・通気性に優れた高機能素材のベンタイル。確か素材として扱うのが大変だと聞いたことがあります。そんな話をしたところ、本ブランド担当である生本紘史さんが開発エピソードを明かしてくれました。

  • ベンタイル生地を使ったヘルメットバッグタイプのトート、色はブラック

「一般的にバッグの素材ではナイロン、ポリエステルが中心です。ただ、今回UNTRACKをスタートするにあたり、カジュアルという部分でコットンの良さを使いたいと思い決めました。ところが何度もサンプルモデルを作る中、カバンにベンタイル素材を使うのは思った以上に難しいぞ、となったのです。その理由は素材の『くたっとした』特性でした」

ベンタイルスモックのようにアウターで使うことは珍しくないですが、カバンはどうも勝手が違う。素材をどう生かすかで、いろいろ試行錯誤が続いたそうです。

「最終的にインターロック裏加工を生地に施すことで解決しました。PVC(ポリ塩化ビニル)の素材を使うことでハリ感を出しつつ、ベンタイルの手触りの良さも表現できたのです」

こうして完成したのが、使う程に風合い、いわゆるエイジングが出て、かつ高密度の織りによる耐水性などの機能性を兼ね備えた本商品だと言います。

それではもう少しディテールを見てみましょう。

ここではデイパックを例にします。デザインはザ・定番の形状、オーセンティックな見た目ですが、それだけではないそうです。

  • ド定番といえるデイパック、色はマスタード

  • 背面はクッションパッド、ハーネスにチェストベルトも付く

「メイン収納部の手前に隠しポケットがあり、メッシュポケット、キーポケットがあります。これは満員電車の中で前持ちした時でも、すぐに取り出せるような設計です」(森川さん)

  • 収納機能を豊富に備える

またデイパックとして珍しく二気室となるほか、スリーブには別売りの「オフィスPCバッグ」を格納することもできます。見た目は定番デザインだけど、機能性も備えているということですね。

風合いを楽しめるトート

風合いという意味では「9 号帆布」を使ったシリーズもいい感じです。筆者は週末にジムで走ったり、泳いだりしていますが、その着替えをガバッと入れる時に重宝しそうな気がします。

  • 「PARK/TC」シリーズからブラックのトート

  • 丈夫で上品な風合いの「9号帆布」を用いたオフホワイトカラーのトート

ベルギー製のアンティークシャトル織機によって作られるセルビッチを生かしたという本シリーズ、帆布には蝋を染み込ませるパラフィン加工を施して撥水性を高めたり、レザーハンドルを採用したりするなど、オフだけでなく仕事でも使えるのでは。

特にカジュアルスタイルが定着している会社だと、まったく問題ないでしょうね。

  • アンティークシャトル織機によって作られるセルビッチが特徴

アパレルもオーセンティックで良し

そして、ゴルフ以外では初めてとなる同社のアパレル。ロングコート、ジャケット、シャツ、パンツ、上下スウェット、ニットとかなり豊富なラインナップが展開されます。

  • バッグと合わせてアパレルも展開

「手ごろな価格帯、バッグとの親和性が特徴です」と森川さん。また耐久性、撥水性に優れたコーデュラナイロン素材を使ったシリーズ、ポリエステル100%素材のデニム調のシリーズなど素材の特性を生かす高い機能性も注目したいところです。

「モンスターパーカーをイメージしたビッグシルエットです」とお勧めされた「ロングコート」(4万7,300円)を試着したところ、筆者のようなオジサンでも違和感は少なく着用できたのでデザインとしてもちょうど良い塩梅でした。

  • 「ロングコート」(4万7,300円)はM、Lサイズで展開

さらに細かいディテールでは、内側にアイコンがデザインされた機能ポケットが左右に配置されているのもポイントでしょう。

  • コート、フーディ、ジャケットは「イヤホン、スマートフォン、鍵、財布、パスポート、モバイルパッドなどが収納できる」多機能ポケット付き

手ぶらで歩きたい派には、これだけ収納があるのはありがたいですね! この辺りはカバンメーカーとして「機能性には手を抜かない」という強い意志を感じます。

それ以外にもベンチレーション、コートの前ボタンを留めたまま下に着たジャケットへアクセスできる仕様なども使い勝手の良い機能が満載。

  • 「フーディーカバーアップ」(4万7,300円)

アウターはブラックとネイビーで展開し、ビジネスカジュアルでも使えるのでオン・オフ兼用として着用シーンを選ばないところもいいですね。なお、自宅で洗濯できるイージーケア性も備えていますよ。

「こういうのでいいんだよ」

このセリフがぴったりなシリーズではないでしょうか。

エースがアパレルを出した理由

最後に改めて「なぜ、カバンメーカーのエースがウェアの展開をスタートしたのか」と生本さんにぶつけてみました。

「元々エースは『カバンを通して人の移動を快適にサポートする』という考えを持っていましたが、コロナ禍もあり、もう少し範囲を広くすることになりました。そして、ライフスタイル全体を考えようという議論の中、バッグだけでは限界がある、ユーザーさんにもトータルのスタイリングで提案するほうが共感してもらえるだろうと結論付けたのです」

カバンメーカーの同社として初めてのアパレル展開が、マーケットやユーザーにどう受け入れられるかについて、「ブランド名の『アントラック=未踏』のとおりの挑戦になるでしょう」と楽しげに話す生本さんが印象的でした。

秋からの販売形態は現時点で未定ですが、試着できる実店舗での展開も視野に入れているそうです。