1993年4月17日に公開された映画『仮面ライダーZO(ゼットオー)』が、今年(2023年)でめでたく30周年を迎えた。『仮面ライダー』(1971~73年)誕生20周年を記念した本作は、東映にとっても、原作者・石ノ森章太郎氏にとっても、長年の悲願がついに達成された記念すべき作品。ここからは、『仮面ライダーZO』がいかにして誕生したのか、その経緯を振り返ってみたい。

  • バンダイビジュアル『仮面ライダーZO』ビデオパッケージ(著者私物)

70年代、テレビ界に空前の「変身ブーム」を巻き起こした超ヒット作品『仮面ライダー』は、『仮面ライダーV3』『仮面ライダーX』……とシリーズ化され、長きにわたって愛された。『仮面ライダー』の年表を眺めると、第1作『仮面ライダー』から第5作『仮面ライダーストロンガー』(1975年)までの4年9か月でシリーズはひと区切りとなっているが、その後、『ウルトラマン』や『ゴジラ』など往年の人気特撮作品にふたたび人気が集まる「リバイバルブーム」が1978~79年に勃発。この時点で7人ものヒーローキャラクターを有するわれらが「仮面ライダー」もまた子どもたちから熱い視線が注がれ、1979年秋に『仮面ライダー(新)』と題された「第二期」テレビシリーズが生まれた。

『仮面ライダー(新)』(1979~80年)は『仮面ライダースーパー1』(1980~81年)に橋渡しをすることができたものの、連続テレビシリーズは『スーパー1』で一旦終了し、代わりに雑誌グラビアや漫画で活躍する『仮面ライダーZX』(1982~83年掲載)が登場した。この時期の特徴は、10年前『仮面ライダー』や『仮面ライダーV3』を見ていたかつてのファンが青年に成長し、現役の子どもたちとは別の視点から「仮面ライダー」を楽しむようになったことが挙げられる。テレビシリーズが終了してもなお、『ZX』という企画が立ち上がったきっかけになったのが、仮面ライダー復活を祈る青年ファンたちが中心となって行なった「復活祭」イベントだというのも、この時代ならではの出来事といえる。

『仮面ライダーZX』は1年以上にわたる雑誌展開の後、仮面ライダーの総決算的意味合いを持つ1時間スペシャル『10号誕生!仮面ライダー全員集合!!』(1984年)が製作された。ここまで、13年にわたって繰り広げられてきた仮面ライダーの戦いは、10号の誕生と共に一つの区切りを迎えたのだが、同じころ、家庭用ビデオデッキの普及にともなう「レトロブーム」が起き始めたことで、仮面ライダーの歴史がさらなる展開を見せるようになった。

当初は『力道山』や『ゴジラ』(第1作)など「昭和20~30年代」のモノクロヒーローたちを中年世代が懐かしむブームだったものが、日本全国に広がっていった「レンタルビデオ」人気のおかげで、昭和40年代の特撮・アニメ諸作品にもふたたび熱い視線がそそがれ始めた。まだ懐かしのヒーローと呼べるかどうか、微妙なライン上にいたはずの『仮面ライダー』だったが、東映ビデオからビデオソフトが発売されるや大ヒットを記録し、子どもから大人まで幅広い年代に『仮面ライダー』の魅力を知らしめる結果となった。

こうしたレトロブーム、レンタルビデオによる再評価によって「新しい仮面ライダーが見たい」という視聴者の気運がまたもや高まり、これまでのシリーズから原作者・石ノ森章太郎氏以外のスタッフ(プロデューサー、美術、アクション、音楽、脚本、監督など)を一新し、原点に還りつつもまったく新しいヒーローとして『仮面ライダー』が復活。それが『仮面ライダーBLACK』(1987~88年)である。当初は「仮面ライダー0号」をイメージし、歴代の先輩仮面ライダーがいる世界とは別な物語展開だった『BLACK』だったが、仮面ライダーBLACK/南光太郎が太陽の力でパワーアップを果たした続編『仮面ライダーBLACK RX』(1988~89年)の後半から、世界各地から10人ライダーが結集し、RXを助けに現れたという展開を導入。10人ライダーと出会ったRXが「11番目のライダー」にカウントされるようになった。

『RX』のテレビ放送は、元号が昭和から平成に代わった1989年で終了。しかし、雑誌展開や玩具の世界では、1号からRXまでの「11人ライダー(BLACKは設定上、RXと同一人物なので除外)」による漫画連載やバンダイ「ライダーヒーローシリーズ」の発売が行われ、テレビメディア以外での「仮面ライダー」人気はずっと健在だった。

そんな中『仮面ライダー』誕生20年となる1991年には、大人に成長したかつての「仮面ライダー世代」に向けた、本格的SFホラー風味の映画を作りたいという原作者・石ノ森章太郎氏の願望を実現させるべくプロジェクトが始動。それが、オリジナルビデオ作品として結実した『真・仮面ライダー 序章(プロローグ)』(1992年)である。子どもを中心とした家庭全般に向けたテレビ放送では表現できないようなバイオレンスアクション描写や、ハイレベルな特殊メイクを駆使した生々しい「変身」シークエンスの追求など、すべてのシーンに「こういう仮面ライダーが作りたかった」という実験精神が込められた本作は、いろいろな意味で仮面ライダーファンや特撮ヒーローファンに強いインパクトを与え、そのチャレンジ精神が高く評価された。

『仮面ライダーZO』が劇場公開されるまで20年間には、およそこのような出来事があった。『真・仮面ライダー 序章』がリリースされた後も、歴代仮面ライダー11人(1号~RX)をSD(スーパーディフォルメ)化した商品展開『仮面ライダーSD』が人気となり、仮面ライダー20年の歴史を展示やアトラクションで振り返る全国巡回イベント『仮面ライダーワールド』の開催、そしてビデオソフトのみならず、高画質の「レーザーディスク」で『仮面ライダー』全98話やシリーズ劇場版がセット販売されたのも特筆すべき事項である。

この時期、『仮面ライダー年表』の「テレビシリーズ」欄は空白なのだが、決して世の中から仮面ライダーの存在が無くなっていたわけではなかった。むしろ雑誌、書籍、CD、ビデオなどで歴代「仮面ライダーシリーズ」は人気を維持しており、子どもたちだけのヒーローから「懐かしのヒーロー」を経て「親子2世代で楽しめるヒーローの王道」的存在にまで登りつめていたといっても過言ではあるまい。2世代ヒーローとして成長した「仮面ライダー」の盛り上がりをさらに高めようと、企画されたのが『仮面ライダーZO』だったのだ。

  • 「93東映スーパーヒーローフェア」パンフレット(著者私物)

『仮面ライダーZO』は、1993年「第1回 東映スーパーヒーローフェア」のメインプログラムとして上映された。東映スーパーヒーローフェアとは、70~80年代に人気を博した子ども向け映画興行「東映まんがまつり」の流れを汲む、初の東映特撮ヒーロー作品三本立て興行のこと。当初は「仮面ライダーを単独長編映画として作る」という、2023年の『シン・仮面ライダー』にも似たアイデアが出されたが、興行的に万全を期したいという意見によって、1993年にスタートした2つのテレビ作品『五星戦隊ダイレンジャー』『特捜ロボ ジャンパーソン』の劇場用新作映画が同時上映されることとなった。『仮面ライダーZO』の上映時間は48分とタイトにまとめられたが、その分展開がスピーディとなり、やや説明不足の感はあるものの各キャラクターの個性も濃く描き出されていて、非常に見ごたえのあるヒーローアクション映画に仕上がっている。

監督を務めたのは、後に『牙狼<GARO>』シリーズで熱烈なファンを得ることになる映像クリエイター・雨宮慶太氏。雨宮氏は美術デザイナーとして『巨獣特捜ジャスピオン』(1985~86年)『時空戦士スピルバン』(1986~87年)『超人機メタルダー』(1987~88年)『仮面ライダーBLACK RX』などの東映特撮作品で手腕をふるう一方、『未来忍者』『ゼイラム』などSF特撮映画の監督をも手がけ、その実績と卓越した映像感覚を見込まれ『鳥人戦隊ジェットマン』(1991~92年)では「東映連続テレビドラマ」デビューながらメイン監督に大抜擢されている。少年時代から大の『仮面ライダー』ファンだという雨宮氏は、『真・仮面ライダー 序章』では「変身コーディネイト」として、人間の体がバッタ男に変化するという作品の大きな見せ場を創り上げたが、監督となった本作では第1作『仮面ライダー』にオマージュをささげつつ、海外SF映画を強く意識した敵怪人(ドラス)の不気味な特殊能力や、「人間を超えた存在同士が生死をかけて激しく争いあう」迫力のアクションを独自の美学によって描き出している。

麻生勝(演:土門廣)が仮面ライダーZOに変身すると同時に、彼の乗るオートバイが専用マシン・Zブリンガーに変形していくシーンなどは、まさに『仮面ライダー』第1話でサイクロン変形と同時に本郷猛が仮面ライダーになる、あのカッコよさをより洗練した形で表現したものだという。他にも、ドラスの“クリーチャー”然とした生々しい動き、仮面ライダーシリーズ初の「モデルアニメーション」で表現されたクモ女の奇怪な動作、敵・ネオ生命体の本拠内におけるZOとドラスの1分40秒にも及ぶ驚異の「ワンカット」長回し戦闘など、特撮アクション作品『仮面ライダーZO』の映像的見どころは数多い。

少年・宏(演:柴田翔平)をドラスや怪人たちから守るため、凄絶な戦いに挑み続ける仮面ライダーZO/麻生勝の頼もしさ・力強さはこの映画の大きな魅力のひとつ。後に『ブルースワット』(1994~95年)で主人公チームのひとり・シグ役となる土門廣の、悪を射抜くかのような目力や、ふと見せる優しい微笑み、剛柔流空手で鍛えたたくましい肉体などには、まさに仮面ライダーの理想形ここにあり、と言いたくなるほどの説得力が備わっていた。『仮面ライダーBLACK』から東映特撮に参加し、当時『五星戦隊ダイレンジャー』でも血沸き肉躍る熱い音楽を数々生み出した川村栄二氏による主題歌「愛が止まらない」挿入歌「微笑みの行方」そして劇中音楽のオルゴール曲を含む珠玉のBGM群も、本作を語る上で忘れてはならない要素である。

2023年の現在、庵野秀明監督が『仮面ライダー』の原点を見つめ、新しいエネルギーを入れ込んで作り上げた「誕生50周年記念」の映画『シン・仮面ライダー』が世間の話題を集めている。そんな今だからこそ、30年前に雨宮慶太監督が精鋭スタッフと力を合わせて生み出した『仮面ライダー』の「ひとつの進化形」というべき意欲作『仮面ライダーZO』にも今一度注目してもらいたい。

(C)石森プロ・東映