晴れを願って「てるてる坊主」を作り、吊るすことは、日本の子どもたちに昔から親しまれてきた習わしです。しかしそのとき、実はやってはいけないことがあるのをご存じでしょうか。
本記事ではてるてる坊主の「やってはいけないこと」や、そもそもの由来、広まった理由を解説します。簡単な作り方や正しい吊るし方、使い終わったらどうすればいいかもまとめました。
てるてる坊主にまつわる「やってはいけないこと」とは?
てるてる坊主に願いをかけるときには、いくつか「やってはいけない」といわれていることがあります。晴れを願う際の注意点を紹介します。
顔を描いてはいけない
古くから伝わるてるてる坊主ですが、江戸時代には、てるてる坊主にわざと目を入れずに、お天気になったら目を描くという習わしがありました。
喜多村節信(きたむらのぶよ)による江戸時代の随筆であり、当時の風俗習慣などを記した『嬉遊笑覧(きゆうしょうらん)』の中では、「てるてる法師月に目が明(あき)」という句が紹介されています。これは「願いがかなったので墨で目睛(ひとみ)を描いた」という旨の句だそうです。
当時のしきたりにならって、てるてる坊主はのっぺらぼうのままにしておきましょう。
逆さまに吊るしてはいけない
てるてる坊主を作るとき、首にひもをひっかけて吊るすと、頭の方が重くなってひっくり返ってしまいますね。しかし晴れを願うなら、逆さにならないように気を付けましょう。
というのも、逆さになると「てるてる坊主」とは逆の、雨を願う「ふれふれ坊主」になってしまうからです。
黒っぽい布や紙で作ってはいけない
ふれふれ坊主は、前述のようにてるてる坊主を逆さに吊るす他に、黒い布で作る場合もあります。そのため、晴れを願う場合は、黒っぽい布や紙で作るのも避け、白の布や紙を選びましょう。
そもそも、てるてる坊主の由来とは
日本で暮らす子どもたちにとってなじみ深い「てるてる坊主」ですが、晴れを願って吊るすのは、いつ頃から始まったおまじないなのでしょうか。てるてる坊主の起源とされる説をいくつか紹介します。
てるてる坊主は中国から伝わった?
てるてる坊主の由来として有力なものの一つに、中国の掃晴娘(そうせいじよう/サオチンニャン)伝説があります。
この掃晴娘伝説とはどんなものなのか、紹介しましょう。
掃晴娘はとある村に住む美しい少女でした。その村の人々が連日の大雨で困っているときに、掃晴娘は雨の神である龍神に、「雨を止めてください」と祈りました。すると、天から「龍神の妃になるなら雨を止めよう」という声が聞こえたのです。掃晴娘はこの言葉に従い、龍神の妃になるために天に昇りました。途端に空は晴れ、村は救われたといいます。
この伝説から、雨が続くと人々は、雲を払うほうきを持った掃晴娘を切り紙で作り、門にかけるようになりました。この風習がやがて日本にも伝わり、「てるてる坊主」となったというものです。
妖怪に起源を持つという説も
掃晴娘と並んで、てるてる坊主の起源とされるのが、日本古来の妖怪「日和坊(ひよりぼう)」「日和坊主」です。
江戸中期の画家であり、喜多川歌麿の師でもある鳥山石燕(とりやませきえん)は、『今昔画図続百鬼(こんじゃくがずぞくひゃっき)』の中で、常州(現在の茨城県)の山深くにすむ日和坊という妖怪について記しています。
絵の詞書(ことばがき)には、「常州(常陸国)の山中深くにいるという日和坊は、雨が降ると姿を隠し、晴れた日に姿を現すという。今(江戸時代)、女性や子どもたちがてるてる坊主というものを紙で作って晴れを祈願しているが、この霊を祀っているのではなかろうか」という旨の説明があります。
「明日天気にしておくれ」の歌詞で有名な童謡が登場し、呼び名が広まったとされる
かつててるてる坊主は地方ごとに「照々法師(てるてるぼうし)」「てりてり坊主」「てり雛」「日和坊主」などと呼ばれてきましたが、やがて「てるてる坊主」という呼び名に統一されるようになりました。
そのきっかけとなったのが、1921年(大正10年)に発表された童謡「てるてる坊主の歌」(作詞:浅原鏡村/作曲:中山晋平)といわれています。
さらにこの歌は1933年(昭和8年)、小学校の国語の教科書『小学国語読本』に掲載された「アシタ ハ エンソク」という話の中でも紹介されました。主人公の太郎さんが、翌日の遠足のため「てるてるぼうず、てるぼうず、あした天きにしておくれ」と歌いながら、晴れを祈願する描写があります。
このように、童謡や教科書を通じて、「てるてる坊主」という呼び名が日本全体に広がったと考えられます。
てるてる坊主の作り方と吊るし方
てるてる坊主の作り方と吊るし方を説明します。身近にある材料で簡単に作れるので、晴れてほしい前日には、童心に帰って作ってみましょう。
布で作る方法
雨にぬれても大丈夫なように、しっかり作りたいときは布でてるてる坊主を作りましょう。
頭が下にならないように、頭頂部に吊るすためのひもを縫い付けるのがポイントです。ここではヘアゴムを使っていますが、ひもやクラフトバンドを使うこともできます。
【用意するもの】
- 白いハンカチやガーゼ、はぎれなど
- ヘアゴムなど…2本
- 手芸用の綿、ティッシュペーパー、余った毛糸、ピンポン玉など(頭部の芯になるもの)
- 針、糸
【作り方】
(1)針と糸を使って、布の中央部にヘアゴムを縫い付けます。てるてる坊主が傾かないように、布の中心部をしっかりと確かめてから縫い付けましょう。
(2)ヘアゴムを縫い付けた側が外側になるようにひっくり返して、内側の中央部に、頭の芯となる材料を置きます。
(3)綿や丸めたティッシュを使う場合は、布の下から親指と人さし指で輪を作って、もう片方の手でそこに綿などを押し込むようにするとやりやすいでしょう。
(4)もう一つのヘアゴムで首を留めます。
(5)全体に形を整えて完成です。
ティッシュペーパーで作る方法
雨にぬれる心配がない場合は、ティッシュペーパーでもっと簡単にてるてる坊主を作ることもできます。
ここでは頭が下がらないように、ひもを首の輪ゴムにかけた後、頭頂部近くでテープ留めしていますが、輪にしたひもを頭頂部で留めるやり方もあります。
【用意するもの】
- ティッシュペーパー…3~4枚
- 輪ゴム
- ひも
- セロハンテープやマスキングテープ
【作り方】
(1)ティッシュペーパーを1枚、広げます。残ったティッシュペーパーを丸めて、中心部分に置きます。
(2)輪ゴムで首を留めます。
(3)ひもを首の輪ゴムに通します。
(4)てるてる坊主の頭頂部近くにて、通したひもをテープで留めます。
(5)全体に形を整えて完成です。
てるてる坊主の吊るし方
てるてる坊主が完成したら、次は吊るしてあげましょう。
てるてる坊主というと、軒先(屋根の下端の出っ張ったところ)にぶら下がっている絵をよく目にします。しかし、現代家屋では、軒先がないところもしばしばです。マンションなどにお住まいの方は、なるべく南側の窓辺に吊るすようにするといいでしょう。
また南天(なんてん)の木は、「難を転ずる」に通じるため、昔から縁起物として庭木によく植えられていました。てるてる坊主を吊るすのにも適しているといわれています。もしご自宅に南天の木がある方は、ぜひてるてる坊主を吊るしてみてください。
役目を終えたてるてる坊主はどうすればいい?
最後に、晴れてほしいという願いをかなえてくれたてるてる坊主は、どうしたらいいのでしょうか?
江戸時代には墨で瞳を入れ、神酒を供えて川に流していたそうです。現在では環境保護の点などを考えると、川に流すことはあまり好ましくないかもしれません。
役目を終えたてるてる坊主には顔を書き、感謝を伝えて、丁寧に片付けましょう。
てるてる坊主に晴れを願おう
時代が変わり、どれだけ世の中が便利になっても、お天気は思い通りにできないものです。気象観測システムや気象衛星などのおかげで、天気予報はかなりの精度で明日の天気を予測できるようになりました。
それでも「明日は大切な〇〇の日だから、どうしても晴れてほしい」という日はあるもの。そんなときには、てるてる坊主に願をかけてみませんか。
ティッシュペーパーやはぎれなど、身近な材料を使って、ぜひてるてる坊主を作ってみてください。吊るす際には、頭が下がらないように気を付けて。そして願い通りのお天気になったら、感謝しながら目を描き入れてあげてくださいね。