終身雇用が常識だった時代には、退職といえば「定年退職」が一般的でした。しかし昨今では、「早期退職優遇制度」を実施する企業が増えており、この制度を活用して定年より早く会社を辞める人も少なくありません。

では、早期退職優遇制度を利用すると、退職金はどのくらいになるのでしょうか。早期退職優遇制度の概要やメリットとデメリット、早期退職の場合の退職金の相場などを解説します。

■早期退職優遇制度とは

早期退職優遇制度とは、定年前の退職を望む社員に対し、優遇的な措置を設けて自主的な退職をうながす制度です。基本的には、福利厚生の意味合いが強く、社員のキャリア形成を後押しする目的で恒常的に運用されています。

早期退職優遇制度では、退職金の割り増しや有給休暇の買い取り、再就職支援サービスなどの優遇措置が設けられています。社員にキャリアの選択肢を与えるだけでなく、企業側としても「組織の新陳代謝」が期待できるメリットがあります。

一方、「希望退職制度」や「選択定年制」とは、以下のような制度です。

・希望退職制度

希望退職制度は、企業が人件費を削減する目的で早期退職者を募る制度です。早期退職優遇制度とは異なり、福利厚生や社員のキャリア形成の支援という意味合いはありません。また、早期退職優遇制度は自己都合での退職になるのに対し、希望退職制度は会社都合での退職となります。

自己都合による退職は、会社都合による退職と比べて、失業保険(雇用保険の基本手当)の所定給付日数が少なくなります。また、給付制限期間が発生しますので、すぐには失業保険がもらえません。一方、会社都合による退職には給付制限期間はなく、7日間の待機期間後すぐに失業保険が受け取れます。

・選択定年制

選択定年制とは、定年退職の前に、従業員が自分の意思で退職の年齢を決められる制度です。具体的には、60歳から65歳の間で定年退職する年齢を自由に決められます。

近年では多くの企業で従業員の平均年齢が上昇しており、組織の硬直化が見られるため、大企業を中心に取り入れられている制度です。

また、選択定年制は、早期退職優遇制度とほぼ同じ意味合いで使われ、大枠である選択定年制の中に早期退職優遇制度が含まれるといったイメージになります。

■早期退職優遇制度における退職金の相場は 

退職金とは

退職金とは、退職の時に企業から支払われるお金です。「退職金」と呼ばれるのが一般的ですが、「退職手当」「退職慰労金」「退職功労報奨金」などさまざまな呼び方があります。ただし、退職金は法律で定められているものではなく、退職金のない企業も存在します。

退職金は、勤続年数や会社の規模、退職方法などによって金額が異なります。一般的な「定年退職」の場合、1,000~2,000万円が相場です。

なお、退職金を受け取れる時期は、就業規則で定められています。たとえば、就業規則に「支給事由の生じた日から6ヶ月以内に支払われる」という文言があれば、退職して6ヶ月以内に退職金が支払われます。

支払期日が指定されていない場合は、会社に問い合わせましょう。支払期日を過ぎても退職金が支払われない場合は、遅延損害金を受け取ることができます。

早期退職優遇制度でもらえる退職金の相場

では、早期退職優遇制度で退職すると、どのくらいの退職金がもらえるのでしょうか。厚生労働省の「平成30年就労条件総合調査 結果の概要」から、退職方法ごとの退職金の相場を見てみましょう。

<従業員数30人以上の退職理由別の退職金の平均額>

定年退職…1,983万円
会社都合退職…2,156万円
自己都合退職…1,519万円
早期優遇退職…2,326万円

※対象者は勤続20年以上かつ年齢45歳以上、大学卒(管理・事務・技術職)の退職者

退職方法別の退職金の平均額を見ると、早期退職優遇制度で退職した場合は退職金が割り増され、定年退職、そして会社都合退職の退職金よりも高くなっています。また、自己都合退職と比べると、800万円以上も多く退職金を受け取れることがわかります。

「退職金が多くもらえる」というだけで早期退職優遇制度を選択するのは危険ですが、退職後の生活や再就職の見通しが立てば、利用を検討してみるといいでしょう。

ただし、早期退職を勧奨していても優遇制度がない会社や、そもそも退職金自体がない会社もありますので、自分の会社の制度をよく確認しておきましょう。

■早期退職優遇制度のメリットとデメリット

次に、早期退職優遇制度のメリットとデメリットを見てみましょう。

<メリット>

1.退職金が割り増しされる

早期退職優遇制度を利用する最大のメリットは、退職金が割り増しされ、定年退職と比べて多くの退職金が受け取れる点です。

退職金の割り増し額は会社によって異なりますが、定年退職よりも多くの退職金がもらえることで、転職や起業などセカンドキャリアのための準備金として活用できます。また、経済的に余裕があれば、割り増し退職金を受け取って早期リタイアを選択することもできるでしょう。

2.退職のタイミングを自分で決められる

早期退職優遇制度は、退職するタイミングを自分で決められる点もメリットです。制度を利用する時期を自分で決められれば、退職後の計画を立てやすいですね。

また、後述しますが、早期退職優遇制度では、従業員のキャリアアップや再就職支援に力を入れている場合も多くあります。転職を希望した時に、会社のサポートを受けながら、スムーズに求職活動を進めていけるのは嬉しいポイントでしょう。

3.再就職支援が受けられる

会社に早期退職優遇制度があれば、多くの場合、退職から転職・再就職まで道のりをフォローしてもらえます。

早期退職優遇制度の対象者は、40代以降のミドル~シニア層がメインです。一般的に、再就職しようとしても、年齢が上がるごとに難易度は増すため、再就職に苦戦するケースも少なくありません。そのため、早期退職の優遇措置として、再就職支援サービスを提供している企業も多くあります。

再就職支援サービスとは、企業が人材紹介会社や再就職支援会社と提携し、退職者の再就職を支援してくれるサービスのことです。退職後に再就職を考えている人は、企業がこうした再就職支援を行っているか確認しておきましょう。

<デメリット>

1.経済的に困窮するリスクがある

早期退職優遇制度を利用するデメリットは、経済的に困窮する可能性がある点です。早期退職優遇制度では、退職金が割り増しでもらえ、再就職の支援も受けられることが多いですが、その先の生活や収入が保証されているわけではありません。

早期退職優遇制度を利用しても、「再就職先が見つからない」「転職したら給料が下がった」というように、これまでよりも経済状況が悪くなる可能性は否定できないのです。

2.再就職しないと老齢厚生年金の支給額が減額される

早期退職優遇制度は退職金が割り増しされますが、それだけで早期リタイアできるほど資産がある人は限られています。

再就職して厚生年金に加入しない限り、早期退職によって老齢厚生年金の支給額が減額されてしまう点も考慮しましょう。

3.失業保険を受け取るまでに時間がかかる

早期退職優遇制度は、自己都合による退職となります。先ほどもあったように、自己都合による退職は、失業保険を受け取るまでに給付制限があるため、受給手続き日から7日後の翌日から2ヶ月間、失業保険を受け取れない期間が発生します。

すぐに再就職する場合や、当面の生活費を準備できる場合は問題ありませんが、再就職の予定がない、当面の生活費の工面も難しいという場合は注意が必要です。

■早期退職優遇制度を利用するときの注意点

最後に、早期退職優遇制度を利用する時に気を付けたい点について解説します。

1.退職金を無計画に使わない

退職金というまとまった金額を手にすると、これまで手が出なかった高額な買い物をしてしまいがちです。しかし、退職後は、再就職しない限り、公的年金と貯金の切り崩しで生活することになります。退職金をもらって浮かれてしまい、高額な買い物を繰り返すと、その先の生活に困る恐れもあります。

退職金をもらったら、何に使うか考える前に、これからの生活の計画を立てましょう。自分は今いくらの資産があり、毎月の収支はどのくらいになるのかなど、資産や生活費について把握することが大切です。

2.ハイリスクな投資には手を出さない

「せっかくもらった退職金をもっと増やしたい」と、ハイリスクな投資に手を出してしまう人も少なくありません。退職金を計画的に運用することは大切ですが、FXや仮想通貨などリスクの高い投資に退職金の大部分を使ってしまう、といった行為は絶対に避けましょう。また、内容のよくわからない儲け話にも注意が必要です。

リスクの高い投資で失敗してしまうと、せっかく割り増しでもらった退職金が減り、老後の生活に影響が及ぶ恐れもあります。退職金で投資がしたい場合は、少額投資や分散投資を意識し、リスクを抑えながらの運用を心がけましょう。

3.退職後の収支や再就職の見込みをよく検討する

先ほどもあったように、早期退職優遇制度で再就職支援サービスを受けたとしても、必ずしも転職が叶うとは限りません。また、転職によって前職より収入が下がることもあります。

早期退職優遇制度を利用する前に、住宅ローンなどの負債や退職金を含む資産状況をよく把握し、退職後の収支、再就職の見込みなどをよく検討してから制度の活用を決めましょう。

■早期退職優遇制度をセカンドキャリアにうまく活用しよう

早期退職優遇制度には、退職金の割り増しや有給休暇の買い取りなど、さまざまな優遇措置が設けられています。一方、定年よりも前に退職するため、退職後の生活設計は綿密に立てる必要があります。また、老齢厚生年金の支給額が減額する点も盲点になりがちですので、注意しましょう。

定年を前に、転職や起業など新たな環境に飛び込みたいという人は、早期退職優遇制度の活用をおすすめします。利用の前に会社の制度をよく調べ、今後の生活についても見通しを立てておきましょう。