先月、2022年の転職活動、中途採用の振り返りと、今後の展望について、マイナビ キャリアリサーチラボから発表があった。その一部を紹介する。
正社員の転職率は過去最高を更新、若年層を中心に活発化
まず、マイナビ キャリアリサーチラボ 主任研究員の早川朋さんから「2022年、転職者(20~50代)の転職活動の振り返り」について説明された。
「2022年、正社員の転職率7.6%は、調査開始以来、最高値を更新。性年代別にみると、若年層(20代)を中心に転職が活発化しました」。
この背景には、「企業の採用ニーズの高さや、転職をスキルアップのチャンスや待遇改善など、ポジティブな事柄として捉えている若者の意識がある」と言う。
今や「給与の増加」が転職活動や入社のきっかけに
転職活動を始めた理由や入社を決めた理由について、どうだろうか。
「まず『転職を決めた理由』については、2022年では、『給与が低かった』が前年より4.4pt増加しトップになり、特に20代が約3割を占める結果になりました」。
これには「物価が上昇する中で、転職者の給与に対する不満が高まったものの、それに対する企業の給与改善への対応が遅れたことで、転職活動を決意した人が増加した様子が伺えます」と、解説した。
「入社を決めた理由」についても、前年比で「給料が良い」が増加。2021年までは、「休日・残業」「勤務地」などの勤務環境も強い決め手となっていたが、2022年に関しては、それよりも生活に必要な収入が優先されるようになってきた。
早川さんは「この『給与(収入)』重視の志向は、転職後の年収の変化としても表れている」と言う。「転職により、年収が上がった割合が2019年以降、年々増加傾向にあり、2022年は39.5%となり、性年代別では『男性20代、30代』、職種別では『クリエイター・エンジニア職』に顕著な増加が見られました」。
転職者の前職の就業期間がさらに短縮化
続いて、異職種への転職の傾向について説明した。異なる職種へ転職した割合は全体で35.6%となり、未経験採や第二新卒枠として採用されやすい20代に関しては、44.3%と全体よりも高めになっている。
それに対して50代では、70%以上が同職種での転職となっており、高年代層では引き続き、異職種への転職ハードルが高い状況にあるようだ。
また、転職者の前職の就業期間については、年々短縮化されており、20代においては、男性、女性両方とも3年未満で転職を実現していると言う。
「就業から転職を決意するまでの期間の早期化が起こっており、転職がより身近なイベントになっている様子が伺えます」。
在職中に転職した割合についても、2022年は74.8%と年々増加している。
この背景には、「転職サービスの多様化や、在宅ワークの拡充など働き方の変化により、働きながら次の転職先を探す環境が整ってきたことが挙げられる」と、早川さんは考察する。
企業の求人件数はコロナ禍前を上回り増加傾向に
次に、2022年における企業の中途採用活動について、同じく研究員である関根貴広さんが説明した。
2022年の平均求人件数(マイナビ転職の求人掲載数をもとに)は、2018年の平均に比べて1.4倍に増加。
「コロナ禍で一旦減少したものの、コロナ以前の求人掲載数の平均よりも多くなっています。昨年末12月に関しては1.5倍に増え、企業の求人活動が非常に活発になってきたことが見てとれます」と、解説した。
企業の求人の採用数については、2022年では、約4割の企業が「中途採用人数が前年より増えた」と回答。コロナ禍の2020年と比較しても、10ポイント以上増加している。
業種別では、中途採用人数が前年より増えたと回答した割合が最も高かったのが「IT・通信・インターネット」となり、5割以上の企業が「中途採用人数が前年と比べて増えた」とのこと。
「Web面接の定着」などで、採用までの期間が短期化
2022年の中途採用状況における特徴の1つとしてあるのが、採用までに掛かった期間の短期化である。
「全17職種中15職種が最短2ケ月未満で採用入社となった数値が前年より増えました。その中で、前年より5ポイント以上増加した職種が『技能工・設備・配送・農林水産』『Web・インターネット・ゲーム』『公共サービス』『美容・ブライダル・ホテル・交通』『建築・土木』『クリエイティブ』の6職種です」と話す関根さん。
この短期化傾向が起きた要因としては、2つのことが考えられると言う。
「1つ目は『Web面接の定着』です。これにより求職者の時間や場所の制限が緩和され、以前より効率的に求職活動が行えるようになりました。2つ目はダイレクトスカウトサービスなど『転職サービスの多様化』です。選考・募集において、効率的かつ効果的に中途採用を進めながら優秀な人材を早めに確保する姿勢がとれたことが、起因していると考えられます」。
採用基準「高」で、企業は「採用が厳しかった」という声が増加
次に、企業が中途採用を行った理由については、「『組織強化、活性化のため』『年齢など人員適正化』『コア人材の確保』が上位に挙がっており、今後の組織成長を見据えた中途採用が行われていた傾向が見える」とのこと。
しかし、2022年の中途採用活動の印象については、「前年より厳しかった」と答えた企業が8割を超え、2年連続で増加している。
採用数が増えたにもかかわらず、企業から『前年よりも厳しかった』という声が多く上がっている。
この現状については、関根さんは「企業は『組織強化のため』『コア人材の確保』などの観点で中途採用を行っていた傾向があり、求職者の選定においてハードルが高まったと考えられる」との見解を示した。
一方募集年収においては、「前年より募集年収を上げた、もしく上げる予定の企業が約7割」となっており、従業員数が多いと企業ほど、上げる予定の割合が高くなっている。この募集年収をあげる理由においては 『高度専門知識を持つ人材』『IT人材』『マネージメントスキルのある人材』など、いわゆるハイクラス層の採用を目的に、年収を上げた割合が高くなってきており、従業員数が多い企業ほど、その傾向が顕著であると言う。
これにより、企業側でも優秀人材を求めると同時に、募集年収をしっかり上げていたことが見えてくる。
未経験者の採用は増加しているが、企業の即戦力ニーズ大
先ほど2022年の転職者の動向で、「異業種への『転職』が増加している」と紹介されていたが、企業での未経験者採用においても同じく増加傾向にある。
しかし、業種別にみると「IT・通信・インターネット」「サービス・レジャー」「医療・福祉・介護」では未経験者採用率が減少しており、即戦力のニーズが高い印象だ。
特に「IT・通信・インターネット」では、未経験者採用率が1割未満と特に低くなっている。
即戦力やハイクラスが収入アップの鍵に
最後に、2022年の転職市場における今後の展望として、次の4つのことが紹介された。
1.若年層、即戦力、ハイクラス層を中心とした転職市場は、さらに活発化するだろう
2.優秀な人材を獲得するために年収を上げる企業がさらに増加するだろう
3.獲得した人材をどう定着させるかが課題になるだろう
4.特にミドル層の異業種の人材流動は引き続きハードルが高くなるだろう
人材不足が叫ばれるなかでも、「若年層」「即戦力」や「ハイクラス人材」など、企業成長に向けた組織の核となる人材確保への意欲が高まっているようだ。
若手なら、未経験でのスキルチェンジの可能性もあるが、収入アップを目指すなら、これまでの経験をさらに活かした転職を狙うのがいいだろう。