今の自分を越えたい! と、心が叫んでいることはありませんか。特にこの春は、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で世界一になった侍ジャパンに刺激されて、自分ももっと成長したいという人は多いのではないでしょうか。

とはいえ、どうしたらいいのか分からなくて一歩が踏み出せないと、もやもやとジレンマを抱えるものです。そんなもやもやを晴らしてくれる、またはヒントを与えてくれるかもしれないという講演が開かれたので紹介します。

自分を変えるキーワードは「越境」!?

講演のタイトルは「可愛い社員には『越境』をさせよ」。

登壇したのは、リクルートマネジメントソリューションズのエグゼクティブ・プランナーとして人と組織の領域のコンサルティングに携わっている井上功(いのうえ・こう)さんです。

「所属している領域やコミュニティの心理的・物理的な境界を越えて新しい領域へ移る。それが、『越境』のイメージです」(井上さん)

身の周りに新しい領域やコミュニティはたくさんあり、越境はいつでもどこでもできると井上さんは言います。

  • 提供:リクルートマネジメントソリューションズ

テクノロジーやSNSの発達によってリモートワークをはじめとする「場所を選ばない働き方」が可能となりました。特に、コロナ禍や働き方改革を機に、この流れは急速に進んでいます。また、副業・兼業を推進する企業も増えて、日本経団連の調査によるとその割合は83.9%にのぼっています。

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越境の難易度にはレベルがある!

家と会社の往復以外にあまり選択肢がなかった時代と比べると、いまは圧倒的に「越境しやすい」環境が整っていると分かります。

それでも「外の世界に興味はあるが、転職はハードルが高い」「副業ができるようになっても何をしたらいいのか分からない」「起業した友人は楽しそうに頑張っているが、自分にできるだろうか」と、自分と周りとのギャップを感じてもやもやしてしまうものです。

「いきなりの転職は厳しいでしょう。越境の方法は10種類あると考えています。そのうち経済活動に関わるものが7種類、社会生活に関わるのは3種類です。それぞれに着手する難易度が変わるので、まず自分が取り組めそうなことに挑戦するのがいいでしょう」

  • 「越境」の10種類 提供:リクルートマネジメントソリューションズ

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確かに、自分が所属している企業内で新しいプロジェクト・メンバーになるとか、ボランティアや自治会の活動に参加するとかならば、すぐに挑戦できそうです。

「個人内越境は、誰でもいつでも簡単にできます。その際のポイントは、過去の振り返りです。例えば、社会人になってからこれまでに経験した異動などを越境ととらえて、モチベーションの上がり下がりを記入してみると、自分はどんなときに喜んだり、落ち込んだりするのかを客観視できて、今とこれからを自分らしく過ごすにはどうしたらいいのか未来感がつかみやすくなります」

そして、井上さん自身のモチベーション曲線を公開してくれました。

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自分の未来像を考えるポイントは過去にある、というのは大変興味深いです。

企業間の越境で会社への愛着はむしろ高まる!?

次に、企業間の越境はどうなっているのか。導入している企業の具体例が紹介されました。

よく知られている例では、「Googleの20%ルール」。業務時間の20%を自分の好きなことに使っていいというルールで、いつ、どのように使うかは各人の自由です。

また、野村グループでは、ベンチャー企業への出向研修を取り入れるなど、外の世界を積極的に体験して、刺激を持ち帰る機会を提供することで「野村の殻」をやぶろうと取り組んでいます。

三菱商事では人事制度を大幅に見直し、国内外の大学・大学院で学位を取得しようとする社員には最長2年間の休暇を認める制度や業務時間の15%を別の部署の業務に充てることができる仕組みなどを導入しています。

「管理しない時間を意図的につくること、すなわち越境を促進することで社員の創造性を高め、社員の多様なスキル取得を応援して会社の競争力を強化しようとする企業は確実に増えています」

このような取り組みは、転職よりハードルは低いので社員としては挑戦しやすいものの、企業としては社外への人材流出を心配していないのでしょうか。

井上さんは「企業側は、社外への送出、すなわち『越境を認めること』で多様な働き方へのニーズを尊重し、自律的なキャリア形成、知識・スキルの習得、人材の定着などの効果を感じています」と説明します。

実際に、異業種の30代社員が集まる同社のリーダーシップ研修「Jammin'(ジャミン)」に参加した人たちからは、研修前より自分の会社への愛着度が高まったというアンケート結果が得られています。

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人生100年時代、「越境」でより豊かな人生を

多くの企業が社員の越境を推進し、政府も令和元年以来の「成長戦略実行計画」の中で価値創造社会の実現のために越境は必要だと言及している一方で、実際には「目の前の仕事で精一杯」「新しい場所に興味はない」と、個人はどんどん越境しなくなっているそうです。

「越境することでモノの見方が転換する、新しいつながりができる、新しい世界にワクワクするなど多くの刺激や学びが得られます。そもそも、人類は洞窟から平原へ、そして海を渡って『越境』しながら歴史を築いてきました。人生100年時代、仕事を終えたら老後ではなく、新しいスキルを習得したり、新しい環境でのつながりをつくったりなどすることで、より豊かな人生を送れるかもしれません」