今回は、4月から入社する方をはじめとした働く社会人に『残業代』の基礎知識をお届けします。
ブラックな上司は「まだ仕事を覚えていないキミが残業代? なに言ってんの?」と、言ってくる可能性がありますが、ホワイト企業なら新入社員にもキチンと残業代を払っています。
この記事では、弁護士の林 孝匡が分かりやすい法律解説を武器に、残業代についての基礎知識をひも解いていきます。相談する機関なども紹介するので、悩んだときはぜひこちらもチェックしてみてください。
■残業代をもらえるのはどんなとき?
残業代をもらえるのは、休憩時間を除いた労働が【1日に8時間を超えたとき】または【1週間で40時間を超えたとき】です(労働基準法32条)。これを法定労働時間と言います。
例えば……
Q. 私は9時から17時(休憩1時間)で働いています。17時を超えたら残業代をもらえるんですよね?
A. このケースはもらえないんです。休憩時間を除いた労働時間は7時間ですよね。労働時間8時間になるまでは残業代は発生しないんです。あなたの場合は18時を超えた時点で残業代が発生します。
■いくらの残業代をもらえるの?
では、どんなときにいくらの残業代が払えるのかみていきましょう。これは、残業の種類によってマシマシ率が変わります。
・一般の残業: 25%割増
・1カ月の残業時間が60時間を超えた場合: 50%
・法定休日労働: 35%割増
・深夜労働(22時~5時): 25%増
また、「マシマシスパイラル」という現象も起こります。
・深夜労働(25%)+ 法定労働時間を超えた残業(25%)=50%増
・深夜労働(25%)+ 休日労働(+35%)=60%増
・深夜労働(25%)+ 残業時間が60時間を超えてる(+50%)= 75%増
■計算してみよう!
フレッシュ翔平さん(仮名・22歳・母が陽気なアメリカ人)のケースで計算してみましょう。会社との契約は以下のとおり。
・勤務時間:平日の9時~18時(休憩1時間)
・給料:20万円
・1カ月の所定労働時間:160時間(週に40時間×4)
・休日:土日と祝日
ある日、フレッシュ翔平さんがめちゃくちゃ忙しく、「9時~23時まで」働いたとします。そのケースの残業代を計算していきます。
▼時間単価をはじき出す
まずは時間単価をはじき出します。フレッシュ翔平の時間単価は「1,250円」です(20万円÷160時間)。
▼マシマシ率をかける
1,250円という時間単価にマシマシ率をかけます。
・18時~22時:
1.250円×1.25×4時間=6,250円
・22時~23時:
深夜労働と一般の残業がスパイラルしている場合、割増率は50%
1,250円×1.5×1時間=1,875円
※休日ではなく、残業時間が60時間超えていないとして計算をしています
とういわけで、この日の翔平の残業代は「8,125円」となります。翔平さんおつかれさまでした。そのお金で金曜にパーっと飲みに行ってください。
■残業代を払ってくれない"あるある"
会社が「その時間は労働時間じゃないんだから残業代は出ないですよ」と言ってくることがあります。あるあるは以下のとおり。
【事例1】 休憩なのに顧客対応……
お昼休みでホッと一息をつきたいのに、「客が来店したり電話をかけてきたら一応の対応はしといてね」と、会社側から言われることがあります。ぜんぜん気持ちが休まらねーよ!ってやつです。
この時間は労働時間にあたる可能性があります(クアトロガソリンスタンド事件:東京地裁 H17.11.11)。
Q. 労働時間にあたればどうなるんですか?
A. 残業代発生のゴールが近づきます。休憩のうち30分が労働時間と認定されれば、月に10時間も労働時間が増えることになります(30分×週5×4週)。となると【1日に8時間を超えたとき】【1週間で40時間を超えたとき】という残業代のゴールに近づきやすくなるわけです。
【事例2】 準備行為や後かたづけの時間
これも会社が払わないケースがありますね。タイムカードを押す前や押した後に何だかんだやらされるケースです。裁判所は「会社の指揮命令下にあれば労働時間だ」と言っているので、これらも労働時間にあたる可能性があります。 最近のニュースを一例にあげましょう。
ある飲食店でタイムカードを押す前に「手洗いや着替えなどを済ますよう」に指示されていました。その準備時間で10~15分かかっていたようです。会社はその時間分の給料は払っておらず。
労働組合が「その時間分も払えー!」と申し入れました。まだ結果は出てないようですが、同じような目に遭っている方はもらえる可能性が高いと思います。私は会社の指揮命令下にあると考えています。
【事例3】 研修やめんどくさい会社飲み会
「事実上、参加が強制されているときは」労働時間にあたります。「自由参加だよ~」とか言っておきながら、参加しなければ仕事ができないケースってあるじゃないですか。
上司が「参加しないとかマジか? まぁ自由参加だけどありえないよな~」とか言ってくるケースです。そんなときは「会社の指揮命令下にある」と言えるので労働時間にあたる可能性が高いです。
■裁判例
裁判所が「このセミナーは労働時間だ!」と認定したケースを1つ紹介します。ドラッグストアのPB商品を従業員に説明するセミナーでした。メールには「自由参加です」と書かれていたのですが裁判所は「上司は『正社員になるためには受講が必要』って言ってたし、そのほかの点も考慮すると事実上、強制されていたじゃん」と労働時間と認定しています(ダイレックス事件:長崎地裁 R3.2.26)。
■持ち帰り残業は?
自主的な持ち帰り残業は、労働時間にはならないんです。なので、責任感の強い方は要注意です。
これに対して、会社から「持ち帰ってやれ!」と命令があれば労働時間にあたります。ですが、持ち帰り残業の命令があっても応じる義務はないので「無理っす! サイナラ!」と断るのもありです。
■残業代を払ってもらえないときは?
1. 労働基準監督署へ
労基に駆け込むと会社に「コラー!払いなさい!」と言ってくれることがあります(是正勧告)。でも労働基準監督署ってとっても忙しいんです。相当悪質なケース以外は動いてくれないことがあります。
2. 労働局へ
なので、そういうときは労働局に申し立てしましょう(相談無料、解決依頼も無料)。残業代を請求できる可能性があります。労働局は全国にあるので検索してみてください。
■証拠が命
残業代請求を成功させるには証拠が必要です。本当に証拠が命です。これは「どれだけ残業したか」という証拠です。困ったときは、以下のような証拠を確保しておきましょう。
・タイムカード
・PCのログイン・ログオフ履歴
・メール送受信履歴
・LINEなどのメッセージ(父母に「今から帰る」など)
・日報
・日記
証拠は合わせ技で強くなります。1本の枝ならポキッと折れるけど3本あれば折れにくい、そんな感じです。いろんな証拠を確保しておくことをオススメします。
■さいごに
今回は残業代の基礎知識をお届けしました。「これは労働時間なのか?」についてもある程度の感覚をつかんでもらえたらと思います。
労働時間にあたるかどうかは、訴えを起こしてみないとわからないこともありますが、「残業代を請求したいな〜」と思った方はまず、"証拠を確保"するようにしてみてください。
証拠がなければ裁判官は冷たいです。能面のような顔でこんなことを言います、「働いたと認めるに足りる証拠はない」。というわけで、みなさま! "証拠が命です"。しつこいですが覚えておいてくださいね。
それでは、またお会いしましょう! これからも働く方に知恵をお届けしていきます。