日本テレビ系ドキュメンタリー番組『NNNドキュメント’23』(毎週日曜24:55~)では、学校の先生の働き方改革の現在地と課題を探っていく『先生がいなくなる』(福岡放送制作)を、きょう19日に放送する。

  • 過労の末に倒れて命を落とした夫に手を合わせる安藤晴美さん

福岡市立中学校に勤務する稗田千紗先生(23)は、採用1年目。定時より30分早く午前7時半ごろに出勤し、授業や部活などで日々忙しく働いている。3時間ほど残業して学校を出るという日がほとんど。それでも、稗田先生の表情は明るい。「少しでも子どもの成長が見られると、時間を割いてでもやってよかったと思うところは、たくさんあります」

子どもたちに学ぶことの大切さや喜びを教え、導く。やりがいにあふれた先生という仕事だが、今「どうしよう、やめたい」「やることありすぎて、もう限界」とSNSには悲鳴があふれている。名古屋大学の調査によると、公立学校の先生が1カ月に行う時間外労働は、小学校で平均98時間、中学校で114時間。過労死ラインを大幅に上回っている。

その背景には「定額働かせ放題」と揶揄される法律があった。1971年に制定された「給特法」は、月額給与の4%を基本給に上乗せする代わりに、時間勤務務手当と休日出勤手当は支給しないと定められている。この4%は、当時の平均的な残業時間の月8時間を反映したものだが、昨今の実態とはあまりにかけ離れていると指摘されている。

過酷な勤務の末に、命を落とした先生もいる。北九州市の県立高校に勤務していた安徳誠治さんは2002年、41歳のときに脳出血で倒れ、15年間一度も意識が戻らないまま、17年に息を引き取った。倒れる直前の1カ月の残業時間は125時間に達し、公務災害として認められた。「なんであんな働き方をさせてしまったのか…」妻の晴美さんは、今も後悔の念が消えない。息子の佑さんは、母や教え子たちから聞いた父の背中に憧れ、教員免許を取得したが、「自分も倒れてしまうのではないかと不安があります」と、まだ採用試験を受けられずにいる。

働き方改革の必要性が叫ばれる中、学校現場の労働環境に一石を投じた先生がいる。大阪府立高校に勤務する西本武史先生(34)は、長時間労働により適応障害を発症したとして、大阪府を相手取り損害賠償を求める訴えを起こした。問題の深刻さを広く知ってもらうため、実名で顔を出して裁判を闘い、勝訴。今は子どもが小さいため、職場に遅くまで残らずに、あえて早く帰宅する日を作っている。しかし、仕事量が減ったわけではなく、自宅でも仕事をせざるをえない。西本先生は「長時間労働は変わっていない。若い人たちにお薦めはできないですね…」と苦笑する。

採用1年目の稗田先生が勤める中学校では「ノー部活デー」を設け、先生たちが定時で帰れる日を作っている。国もようやく「給特法」の見直しに向け、本格的な議論を始めた。名古屋大学の内田良教授は「先生が忙しくて子どもに向き合えていないのは、日本全体の危機」と訴えている。