国立西洋美術館で3月18日から、「憧憬の地 ブルターニュ ―モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷」展が始まりました。19世紀後半から20世紀初めにかけてフランスのブルターニュ地方を訪れた、ゴーガンやモネを始めとする画家たちが、ブルターニュを題材とした描いた約160点が集結。画家たちのまなざしを通して、“ブルターニュへの旅”を味わうことができる企画展となっています。
フランス北西部の大西洋に突き出た半島を核とするブルターニュ地方。断崖の連なる海岸や岩が覆う荒野、内陸部の深い森をはじめとする豊かな自然、各地に残された古代の巨石遺構、ケルトをルーツに持つ人々の素朴で信心深い生活様式などから、ブルターニュはフランスの人々にとっても“内なる異郷”でした。
展示は第1章「見出されたブルターニュ 異郷への旅」から始まります。ピクチャレスク・ツアー(絵になる風景を地方に探す旅)を背景に、19世紀初頭から、イギリスの風景画家ウィリアム・ターナーをはじめ、画家たちが新たな画題を求めてブルターニュを訪れ、ブルターニュを題材にした絵画が数多く描かれるようになりました。
やがて鉄道網の発達によって旅がより身近になっていくと、この地に“理想の田舎”を見出した画家たちによって、たとえばかぶり物を着けた女性の姿に見られるような、ある種ステレオタイプなブルターニュのイメージも形成されるように。展示されている絵葉書やポスター、ガイドブックなどから、「ブルターニュってこういう感じだよね」という当時流布していたイメージが伺えます。
そんな“わかりやすいブルターニュ”に対して、次の部屋では、ブルターニュ各地のありのままの自然を微妙な光の表現によって表した、旅する印象派世代の画家たちが紹介されます。印象派を代表する画家であるクロード・モネは、まだ絵画連作を確立していない1886年に、ブルターニュ半島の南にある「美しい島」という意味の小さな島ベリールの漁師の家に居を定め、10週間滞在して40点ほど制作。ここでは2点が展示されています。
つづく第2章「風土にはぐくまれる感性 ゴーガン、ポン=タヴェン派と土地の精神」では、ブルターニュ南西部の小さな村ポン=タヴェンを気に入って滞在を重ねたポール・ゴーガンと、彼と交流した画家たちが紹介されます。丘陵地帯、水車、古い建造物、民族衣装を着た人々といった画題の魅力はもちろん、滞在費やモデル代の安さも手伝って、すでに1860年代にはここに芸術家の共同体が形成されていました。
パリでの生活苦から逃れるようにポン=タヴェンにやってきたゴーガンは、この土地の独特な感性やキリスト教への信仰心、素朴な生活などに関心を寄せ、解釈を高めながら作品に昇華。彼にとってブルターニュは、やがて向かうタヒチへの旅の中間地点だったことが伺えます。
短期間の滞在だったモネ、何年もかけ何度も訪れて人々の精神性に触れたゴーガン……ときて、第3章のテーマは「土地に根を下ろす ブルターニュを見つめ続けた画家たち」。20世紀初頭にこの地に別荘やアトリエを構え、ブルターニュを“第二の故郷”とした、モーリス・ドニや「バンド・ノワール(黒の一団)」と呼ばれた画家たちが紹介されます。また、ジャポネズムに深い影響を受けた版画家アンリ・リヴィエールによって、まるで浮世絵のように描かれたブルターニュの風景にも注目です。
第4章は、「日本発、パリ経由、ブルターニュ行 日本出身画家たちのまなざし」。明治後期から大正期にかけて、日本の画学生の留学が爆発的に増えました。行き先は主にパリでしたが、ここで紹介される作家たちはすべて、ブルターニュにも足を延ばしていたことが確認されています。最終章では黒田清輝、久米桂一郎、藤田嗣治らの作品とともに、彼らがブルターニュから書き送った葉書なども展示し、同地での足跡をたどっています。
ブルターニュという土地が、なぜこれほど多くの芸術家たちをこんなにも惹きつけたのか。約160点の展示品を通して、彼らが見出したブルターニュの魅力に触れてみてはいかがでしょうか。
■information
「憧憬の地 ブルターニュ ―モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷」
会場:国立西洋美術館
期間:3月18日~6月11日(9:30~17:00 ※金土は20:00まで)/月曜休 ※ただし3/27・5/1は開館
観覧料:一般2,100円、大学生1,500円、高校生1,100円