シトロエンの「ベルランゴ」とプジョーの「リフター」は同じステランティスグループに属するMPV(マルチパーパスビークル)であり、「兄弟車」とひとまとめにされることも多いのだが、実際のところどのくらい違うのだろうか。双方のロングボディバージョンを乗り比べてみた。

  • シトロエン「ベルランゴ ロング」とプジョー「リフター ロング」

    「ベルランゴ」と「リフター」のロングボディを比較!

外見は個性派と正統派

ルノー「カングー」の新型モデルが上陸したこともあり、にわかに活気づくフレンチMPVの世界。春の行楽シーズンを前に、新車の購入を検討されている方も多いと思われるが、「ベルランゴ ロング」と「リフター ロング」は多人数で乗れて荷物もたくさん積める使い勝手のいいクルマだ。いってしまえば同じクルマをシトロエンとプジョーが仕立て分けた感じの2台なのだが、違いはどのあたりなのか。

比べたのは、ベルランゴがディープブルーの「シャイン」グレードで、リフターはこちらもディープブルーの「GT」グレード。ボディサイズ(全長×全幅×全高、ホイールベース)は前者が4,770mm×1,850mm×1,870mm、2,975mm、後者が4,760mm×1,850mm×1,900mm、2,975mm。全長や車高がわずかに異なるのは、バンパー形状の違いや採用しているタイヤサイズなどによるものだ。

  • シトロエン「ベルランゴ ロング」

    シトロエン「ベルランゴ ロング」

  • プジョー「リフター ロング」

    プジョー「リフター ロング」

エクステリアでいえば、まず顔つきが大きく異なる。

ベルランゴは70年前にデビューしたシトロエンのキャブオーバー型商用車「H(アッシュ)バン」をモチーフにしたような愛嬌のある表情が特徴。大きなダブルシェブロン(シトロエンのエンブレム)型グリルの下側左右に楕円に近い形状のヘッドライトを配し、その形を反復するような白い枠内に小型のフォグランプを備えている。国産ミニバンによくあるオラオラ系とは完全に別路線のおしゃれな顔で、見ていると思わず笑顔になってしまう個性的な表情だ。

  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」の顔は個性で勝負

一方、「ブルーライオン」をグリルセンターに掲げるリフターはベルランゴに比べるとおとなし目で、いわゆる自動車らしい正統派の顔つきともいえる。最近のプジョーといえばヘッドライト外側から下に向かって大きく伸びる「セイバー」と呼ばれるデイタイムランニングライトがアイコンになっているけれども、リフターのそれはヘッドライト内の中央に短めに配置されているだけ。個性爆発の兄弟に対して、まるで真逆の魅力で対抗しようとしているようだ。

  • プジョー「リフター ロング」
  • プジョー「リフター ロング」
  • プジョー「リフター ロング」の顔は正統派?

Aピラーをブラックアウトしているのはベルランゴだけで、逆にフェンダーアーチモールを樹脂ブラックで覆っているのはリフターだけ。サイドのモール形状やリアライト内のデザインにも違いがある。2台ともルーフレールを備えているが、ベルランゴは先端が前方に飛び出た形状であるのに対し、リフターは根本から滑らかに伸びるタイプだ。車名のエンブレムはベルランゴがリアドアの右側、リフターが左側に装着。リフターの右側には「GT」のバッヂが取り付けられている。

  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • 「ベルランゴ ロング」はボディサイドの「エアバンプ」がデザインのアクセントになっている

  • プジョー「リフター ロング」
  • プジョー「リフター ロング」
  • プジョー「リフター ロング」
  • こちらは「リフター ロング」。2台のルーフレールの形状も見比べてみてほしい

内装はどう違う?

インテリアで個性を発揮しているのはリフターの方だ。こちらはプジョーお得意の「i-Cockpit」を採用していて、上下が平らな小径ステアリングの上側からコックピットメーターを見るスタイル。「208」などの背の低いモデルに乗ったときにはなんとなく違和感が拭えなかったけれども、リフターのように背が高くて見下ろすような形のコックピットに座ると、これはこれで自然な感じでなかなかいいのだ。こうしたスタイルは最近だとトヨタ自動車の「bZ4X」や「プリウス」にも採用されている。今後はポピュラーになるかもしれない。

  • プジョー「リフター ロング」
  • プジョー「リフター ロング」
  • プジョー「リフター ロング」
  • 「リフター ロング」はプジョー車らしく「i-Cockpit」を採用。小径ステアリングの上からメーターを見るスタイルだ

ベルランゴは2眼メーターが丸型ステアリングの奥に収まる通常のレイアウト。左から針式のタコメーター、燃料計、水温計、スピードメーター、中央に液晶モニターというメーター内の配置は同じで、字体のおしゃれ度はベルランゴ、数値の読み取りやすさはリフターという印象だ。ベルランゴのメーター裏側には、スマホなどちょっとした物を放り込める収納ボックスがある。

  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • こちらは「ベルランゴ ロング」

  • シトロエン「ベルランゴ ロング」

    メーターの裏側にちょっとした収納ボックスあり

ダッシュボード左右のカップホルダーは2台とも同じで、直径が細くて使いづらそう。ドライバーズシートの天井にある収納部も同じ形状になっている。

  • プジョー「リフター ロング」
  • プジョー「リフター ロング」
  • カップホルダーはサイズが小さくて置いておける飲み物が限られる。本国フランスではMT車が多くて運転中に飲み物を飲みづらいし、のどが乾いたら近くのカフェに入るから問題ないとの話も聞くが、はたして…

シートの仕立ては、ブラックとグレーに明るい差し色を入れてカジュアルな雰囲気のベルランゴに対して、ブラウン2トーンのファブリックでシックなのがリフター。2-3-2の3列シートの配置や折りたたみのやり方は同じだ。

  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • 「ベルランゴ ロング」のシートは差し色がおしゃれ

  • プジョー「リフター ロング」

    こちらは「リフター ロング」のシート

3列目を取り外して2列目シートを折りたたんだ時の最大荷室容量は2,693リッターで変わらず。開ければ屋根代わりになるほどの大きなバックドアに、小さな荷物の取り出しに便利なガラスハッチを備えているところも同じ構造だ。ドアといえば、電動ではなく手動式しかないスライドドアの重さだったり、ロングになったことで車内の空気の体積が増え、フロントドアを閉める際に半ドアになりやすくなったりしているところも両車共通の特徴である。

  • プジョー「リフター ロング」
  • プジョー「リフター ロング」
  • プジョー「リフター ロング」
  • 3列目を取り外して2列目を折りたためば広大なスペースが出現

  • プジョー「リフター ロング」

    ちょっとした物の出し入れにはガラスハッチを使えばいい

走ってみると足が違った!

最高出力130PS/3,750rpm、最大トルク300Nm/1,750rpmを発生するコモンレール式1.5L直列4気筒ディーゼルターボエンジンに8速ATを組み合わせて前輪を駆動するパワートレインは共通。車重はベルランゴの1,660kg(上位モデルは1,680kg)に対してリフターは1,700kgとわずかに重い。

センターコンソールにある丸いダイヤル式シフトセレクターは同じ形で、その下にあるボタンで「M」モードを選び、ステアリングの大型パドルシフト(形状はわずかに異なる)でシフトしてやれば、大きなボディにも関わらず2台ともけっこう活発に走ってくれる。違うのは、リフターにはドライブセレクターの左上に「アドバンスドグリップコントロール」と呼ばれる走行モードダイヤルが備わっていて、「ノーマル」のほか「スノー」「マッド」「サンド」など異なる路面状況に対応する5つのモード選択が行える点だ。

  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • プジョー「リフター ロング」
  • プジョー「リフター ロング」
  • 左端が「ベルランゴ ロング」、中央が「リフター ロング」。右端がリフター ロングに付いている走行モード選択用ダイヤル

タイヤサイズは205/60R16(上級モデルは205/55R17)で柔らかな乗り味を示すベルランゴに対して、リフターは一回り大きな215/60R17で骨太な印象を伝えてくる。車高が30mm高いのはこのタイヤのせいだが、それに応じてサスペンションのセッティングを変えている感じで、ステランティスジャパン広報によれば「品番が違っています」とのこと。リフターはSUV的要素を取り込むことで、よりハードな走行シーンにもしっかりと対応できる能力を身につけたようだ。

  • シトロエン「ベルランゴ ロング」
  • プジョー「リフター ロング」
  • 左が「ベルランゴ ロング」、右が「リフター ロング」

丸型ステアリングでいつもと同じようにのんびりとドライブできるベルランゴに対して、小径ステアリングによるクイックな走りが楽しめるのがリフター。高速に乗って制限速度で巡航を始めれば、8速1,700回転ほどで粛々と、かつ矢のように直進してくれるのはどちらも同じで、フランス車らしい美点だ。信号待ちなどで停車する場面で顔をだす、ちょっとギクシャクするアイシン製8速ATのクセはどちらにもある。まあ気にするほど大袈裟なモノでもないけれど。

ベルランゴロングが443.3万円(シャイン)と455.4万円(シャインXTRパック)、リフターロングが455万円で、価格面での差はほとんどない。でも、乗り比べてみると違うところはけっこうあった。さあ、悩もう!