『さよならテレビ』(東海テレビ)と『エルピス-希望、あるいは災い-』(カンテレ)。ドキュメンタリーとドラマでジャンルは異なるものの、“テレビ報道”の裏側を描くというタブーに切り込んだ自己批判の姿勢に、業界内外で大きな反響があがったが、それぞれのプロデューサーを務めた阿武野勝彦氏(東海テレビ)と佐野亜裕美氏(カンテレ)は、互いの作品に強く励まされていたという。
今回、そんな2人の初対談が実現。全4回シリーズの第3回は、ドラマや報道の現場でも起こっている“指標の変化”の話題に。『エルピス』脚本の渡辺あや氏が佐野氏に伝えた「“やるべき”では続かない」という言葉が意味するものとは――。
■ドラマプロデューサーが最も心血を注ぐこと
阿武野:“これをやらなければドラマプロデューサーとは言えない”というものは、何ですか?
佐野:脚本作りですかね。ドラマは脚本家と監督が違う方が担当するのがほとんどなので、脚本を読んだ100人くらいのスタッフがそれぞれいろんなイメージをしながら、ちゃんと同じところに向かっていけるようなものを作らなきゃいけないというのがあるんです。プロデューサーにはキャスティングが好きな人も、現場の管理が得意な方もいると思うのですが、企画を立ち上げたプロデューサーが一番心血を注がなきゃいけないのは、脚本作りかなと個人的には思っています。
渡辺あやさんともまた一緒にドラマを作りたいなと思って、自分としては「これだ!」と思って打ち合わせに持って行ったんですけれど、「それはあなたが“やるべき”だと思ってるもので、“やりたい”ことではない。“やりたい”ことをやらなきゃダメです。全身全霊をかけて作品を作るのに、“やるべき”では続かないです」と言われました。「例えば高校球児たちも、本当はサッカーが好きなのに野球をやってたら甲子園なんか行けません」って。阿武野さんはこれまで、本当にいろんなテーマのドキュメンタリーを作ってこられてると思っているんですが、どうやってテーマを決めて作ってらっしゃるんだろうというのを、今日はぜひ聞きたいと思って来たんです。
阿武野:僕がディレクターのときは、本気で伝えたいこと、知りたいこと、会いたい人ですよね。今はプロデューサーになって、東海テレビの場合は報道局に記者と呼ばれる人たちがたくさんいるんですけど、その中で、「どうしてもこれを番組にしたい」と思ったら僕の席に来て、「ヤクザ(についての番組)やりたいっすよ!」とか言うんです。僕は「ああ、いいね」って答えることにしています。それは、どんな話でも。やっぱり年齢を重ねてきたせいで、「あの人には言いづらい」っていう妙なものを纏(まと)ってしまったのが分かるんです。それでも僕の席に来てくれたわけで、ディレクターのハートはすでに熱くなってるわけで、本気なんです。だから話を聞いて、「それはやんないほうがいい」というようなマイナスの話を出したことは、この10年くらい一度もないですね。
――佐野さんのようなドラマプロデューサーは自分で企画を立ち上げるのに対して、阿武野さんは企画を受けて推進するという形ですね。
阿武野:目いっぱいやりたいことを持ってくるので、スタッフを組んで取材が始まったら、放置するんです。たまにカメラマンが状況を教えにきてくれて、頃合いを見計らって僕がディレクターに「こういうふうにしたらどうなの?」って言ってみたりする。そんなコントロールの仕方で、ほとんど放置です。で、編集第一稿が上がってきたら、「みんな集まれー」ってチームのメンバー全員でモニター(試写)して、ああでもないこうでもないって言うのを1時間以内でやって、「さあ行こうかー」ってみんなで酒飲んじゃう。会議っていうのは全くやらないですね。
佐野:それぞれと話しながら進めていくんですね。
阿武野:席に座ってグジュグジュ言い合うの、わざわざ集めて面倒くさいじゃないですか。それよりみんなで楽しくご飯食べてるほうがいろんなアイデアが出るし、酒入ってケンカが始まったりすると、何だか面白いし(笑)。1本番組が終わるとスタッフはまた強固な関係になっていく。