「ひよる」という言葉の意味を「怖じ気づく(おじけづく)」だと覚えてはいませんか。これは流行した漫画のフレーズなどから使われるようになった新しい意味で、本来の意味は異なります。
本記事では、「ひよる」の本来の意味や若者言葉としての意味、由来や、それぞれの意味での使い方と例文を解説します。類語や英語表現もまとめました。
「ひよる」の意味や由来とは
言葉の持つ意味は、時代の流れで変化をしていくものです。動詞「ひよる」も、由来となった言葉の意味は現在使われているものと少し異なります。
言葉の由来を交えながら、「ひよる」の意味をご説明します。
「ひよる」の本来の意味
「ひよる(日和る)」とは、「有利な方につこうと、成り行きを伺いながら自分の行動を決める様子」、またそこから「物事に対して積極的に関わらず、傍観する姿勢」を意味します。
「ひよる」の由来・語源
「ひよる(日和る)」とは、名詞である「日和見(ひよりみ)」を動詞化した言葉で、「日和見をする」が変化したものです。
そもそも「日和」とは、空模様や何かをする際に都合の良い天候、また晴天を意味します。「行楽日和」「待てば海路の日和あり」などの言葉を聞いたことがあるでしょう。
この「日和」から生まれた「日和見」とは、もともとは天気の状況を確認する言葉です。江戸時代、天候の具合を見て船の航路などを決める様子から、「状況をよく観察して物事を決めること」、そして「自分の立場をすぐに決めずに、物事の優勢な方につくこと」という意味になりました。
そんな「日和見」「日和見する」から、「ひよる」という言葉ができたのです。
「ひよる」のネガティブな意味合いが強まったのは、学生運動が原因?
「自分の立場をすぐに決めずに、状況をよく観察して物事の優勢な方につく」という行動は、前述の由来からも読み取れるように、一見すると賢い選択のように思えます。
しかし現在「ひよる」というと、「自分の信念を持たず、強い者の方に流れるひきょう者」、さらには「怖じ気づく」というような、ネガティブな意味合いが強いようです。
この背景には、1960年代ごろに起きた学生運動が関係しているのではないかともいわれています。
当時の学生運動は、多くが政治・社会に対する問題提起から、体制や権力に対して革命を起こすことを目的に行われていました。ただし、全ての学生が革命思想を抱き行動したわけではありません。多くの学生は学生運動に参加せず、状況を伺っていました。
革命思想から運動を行った学生たちは、そんなどっちつかずの学生を批判する意図で「日和見主義」と呼んだため、「ひよる」のネガティブな意味合いが強まったのではないかと考えられます。
若者言葉として流行している「ひよる」の意味
さらに最近では、人気漫画『東京リベンジャーズ』に出てくるフレーズ「日和ってる奴いる?(ひよってるやついる?)」が流行したことをきっかけとして、若者言葉としても「ひよる」は注目されています。
漫画内では、仲間の一人が敵対グループにひどい目に遭ったことをきっかけに、その敵対グループに立ち向かうことをリーダーがメンバー全体に示すシーンで、「ひよってるやついる? いねえよなぁ!?」と、鼓舞する形で使われています。
ここでの「ひよる」は、「怖じ気づく」、そして「ビビる」「ひ弱になる」というような意味が含まれているといわれます。
「ひよる」の使い方と例文
「日和見する」が転じた「ひよる」は、前述の通り、周囲の状況を一歩引いたところから観察した上で、有利になる側につく姿勢などを示します。
自分自身の立場を決め切らないまま、どちらにも良い顔をしておき、善しあしの分かったところで姿勢を決めるといった、ネガティブで批判的なニュアンスで使われることが多いでしょう。優柔不断であることや、強い立場の相手にへりくだる行動や言動をした際も使用します。
「ひよる」を活用した正しい例文
- 自分の考えがない彼は、いつもひよって態度を変えてばかりいる
- A社とB社のどちらともに良い顔をしていたら、ひよっていると非難された
- (派閥争いの場面において)これまで専務にあんなにお世話になったのに今さらひよるなんて、優柔不断な人だ
このように、「ひよる」が使われる場面には、行動や態度に対して批判する意図があるといえます。
若者言葉における「ひよる」の使い方と例文
前述した「怖じ気づく」「ビビる」といった意味で使われている、若者言葉の「ひよる」の例文も紹介します。
- けんかをして殴られた彼は、すっかりひよってしまった
- 態度の大きい後輩は、先輩を見るとすぐにひよって友達の陰に隠れてしまう
- 負けてすぐ引き下がるなんて、ひよってんじゃねぇよ
「ひよる」は、若い世代には「びびる」と近いニュアンスで使われていることがお分かりいただけたことでしょう。
「ひよる」の類義語・言い換え表現
さらに「ひよる」の意味をご理解いただくため、類義語を意味とともに説明します。
長い物には巻かれろ・長い物には巻かれよ
「長い物には巻かれろ」「長い物には巻かれよ」とは、自分より力のある者、上位の者に対しては、逆らわないことが得策である、という例えです。
「ひよる」の「一歩引いた地点から他者を観察し、優勢な立場の相手につく姿勢」に近い意味があるといえるでしょう。
「強い相手には逆らわない方がいい」とする意味のため、自ら優勢な方につく「ひよる」と比べ、姿勢の決め方にやや違いがあるともいえます。
勝ち馬に乗る
「勝ち馬に乗る」とは、勝負事に勝った人や成功者など、立場の強い相手に味方し、恩恵を受けようとする態度を意味します。
力のある人かどうかを見定め、強い側につこうとする姿勢は「ひよる」と通ずるものがあります。「勝ち馬に乗る」は、勝者の側に味方することにより、自分自身も優勢な立場にあろうとする、便乗するといった意味合いが強まります。
ご都合主義
「ご都合主義」とは、物事に対する態度に一貫性がなく、場に応じて都合の良いようにふるまうことです。
状況次第で、身の振り方や主義・主張を変える点が「ひよる」と同様だといえます。
自分の考えに芯がなく、外側から相手を観察しつつ状況に応じて都合の良い方へ流れようとする姿勢を、蔑む意味で使われる言葉です。
風見鶏
「風見鶏(かざみどり)」とは、西洋の教会の塔の上、屋根や船のマストなどに取り付けられる、鶏の形をした風向計から生まれた言葉です。
風向きを知るための道具から派生し、周囲の状況を客観的に眺め、自分にとって都合の良い方へ味方する意味がつきました。
天候の良しあしから判断する「日和見」と同様に、「風見鶏」は風向きから次の行動を決める、一歩引いて観察するところが「ひよる」と類似する表現です。
静観する
「物事に対して積極的に関わらず、傍観する姿勢」という意味の類語としては、「静観(せいかん)する」が当てはまるでしょう。
「静観」とは、静かに観察すること、物事の成り行きを見守ることを意味します。転じて、物事の奥にある本質的なものを見極めるという意味も持ちます。
チキン
若者言葉の「怖じ気づく」「ビビる」「ひ弱になる」といった意味の類語としては、「チキン」も当てはまるといえるでしょう。
「チキン」とは、臆病であったり弱気であったりすることや、その様子を指す言葉です。「あいつはチキンな奴だ」などの形で使用します。
その他、「怯む(ひるむ)」「たじろぐ」「尻込みする」なども、若者言葉の「ひよる」の類語といえるでしょう。
「ひよる」の英語表現
「ひよる」の英語表現を紹介します。
- sit on the fence:どっちつかずな・決めかねている
- opportunism:ご都合主義、日和見主義
- weathercock:風見鶏、移り気の人、日和見主義者
- wait and see:傍観する・成り行きを見守る・様子を伺う
いずれも「ひよる」の、一歩引いた姿勢を表した英語表現です。
「ひよる(日和る)」とは、時代とともにさまざまな意味を持つ言葉
「ひよる」とは、「日和見する」を由来とする言葉です。離れたところから状況を見守り、自らの立ち位置を決めずに優勢と分かった方へ味方する在り方、また物事に深入りせず傍観する姿勢を表します。
最近では若者を中心としたスラングとして、「びびる」と近しい意味でも使われています。