「THE ROYAL EXPRESS ~HOKKAIDO CRUISE TRAIN~」の体験乗車取材会が2月1日に行われ、「THE ROYAL EXPRESS」(伊豆急行2100系)が横浜~伊豆高原間を走行した。4年目(第4期)となる今年は、7~9月に計9回の運行を予定。既存のコースに加え、宗谷本線を北上して稚内市を訪れるプランも新設される。

  • 横浜~伊豆高原間で「THE ROYAL EXPRESS」に乗車。北海道クルーズの一部を体験した

体験乗車取材会の列車は横浜駅を13時47分に発車。車内で北海道クルーズの一部を体験しつつ、プランの説明と関係者の挨拶が行われた。

■北海道クルーズのプランは3種類、水戸岡氏からコメントも

列車の走行中、東急社会インフラ事業部クルーズトレイン推進グループ統括部長の松田高広氏と、ドーンデザイン研究所主宰でデザイナーの水戸岡鋭治氏から、「THE ROYAL EXPRESS ~HOKKAIDO CRUISE TRAIN~」第4期プランについて説明が行われた。2020年の運行開始から3年半。同列車は好評を得ており、昨年度の申込み時のリピート率は30%を超えたという。

  • 東急の松田高広氏(写真左)、デザイナーの水戸岡鋭治氏(同右)がプランの説明・解説を行った

4年目(第4期)となる今年、7~9月にかけて3種類のプランを3回ずつ、計9回の運行を予定している。1つ目のプランは、運行開始時から続いている「HOKKAIDO CRUISE TRAIN」。帯広の大自然(1日目)、釧網本線沿いの釧路湿原(2日目)、オホーツク海を見ながら大雪山の麓へ入っていく風景の変化(3日目)、色彩豊かな富良野・美瑛(4日目)などを順に巡っていく。2名1室利用時の基本料金は82万円。3泊4日の行程で、出発日は8月18・25日と9月1日となっている。

2つ目のプランは、昨年から運行している「HOKKAIDO CRUISE LIMITED」。運行ルートは「HOKKAIDO CRUISE TRAIN」とおおむね同じだが、専用バスを活用しつつ、十勝・上士幌町の牧場でのディナー(1日目)、透き通るような釧路川の源流カヌー(2日目)、北見駅から旭川駅への列車旅(3日目)、美瑛の丘(4日目)など、ゆったりとした北海道の時間を楽しめる。2名1室利用時の基本料金は82万円。3泊4日の行程で、出発日は7月28日と8月4・11日となっている。

  • 釧路川の源流カヌー(写真提供 : 東急)

3つ目のプランは、今年新設される「日本最北端の旅」。宗谷本線を北上し、日本最北端・稚内をめざす中で、天塩川沿いの風景や利尻富士(利尻山)など、日本とは思えないような大自然の絶景を車窓から満喫できる。稚内の郷土料理「たこしゃぶ」をはじめ、日本最北端ならではの海の幸も堪能する。2名1室利用時の基本料金は88万円。こちらも3泊4日の行程で、出発日は9月8・15・22日とのこと。

「日本最北端の旅」の9月15・22日出発分のみ、前泊プランとして「銀鱗荘でのプレミアムな一刻」が用意される。小樽観光を楽しんだ後、石狩湾を見下ろす平磯岬に建つ「銀鱗荘」で宿泊し、日本最北端へのクルーズに臨む。料金は12万円からとなる。

「THE ROYAL EXPRESS ~HOKKAIDO CRUISE TRAIN~」では、料理、地域との連携、音楽で旅を演出している。停車駅では多くの地域住民らが出迎え・見送りに訪れる。松田氏によれば、地域の人々に喜んでもらえるように、少しでも停車時間があれば駅で演奏を行っているという。そのことを踏まえ、松田氏は「地域、我々、お客様もみんなが笑顔・感動であふれるような、どこにもないようなオンリーワンの旅を作っていければ」と語った。

  • 日本海にそびえ立つ利尻富士(写真提供 : 東急)

水戸岡氏からは、道北方面の新ルートや、リニューアルする道東方面の運行に対する期待が語られた。「THE ROYAL EXPRESS」はもともと伊豆方面へ走る観光列車だが、その車両がはるばる北海道まで行って走る。ほとんど非常識なことといえるが、しかし非常識なことに勇気を持って挑戦し、常識化することが新商品の始まりだと説明する。

水戸岡氏と、松田氏ら東急との関係は5年ほど続いている。水戸岡氏から見て、「THE ROYAL EXPRESS ~HOKKAIDO CRUISE TRAIN~」は、JR九州のクルーズトレイン「ななつ星 in 九州」よりはるかに小さなチームと少ない予算で、それ以上のサービスを提供しているという(もちろん「ななつ星 in 九州」も頑張っているが)。車両のメンテナンス状態の良さにも触れ、「整理整頓をきちんとしてお客を出迎えるもてなしの心が、このチームにはあります」と評価した。

水戸岡氏は今後もこの旅をサポートしていく姿勢を示した。「ローカル線は要らないのではないか」という昨今の問いにも触れつつ、「もっと新しい観光列車をつくって、北海道を応援したい。北海道に行きたいという人がたくさんおられるので、その人たちに北海道の最高の自然・環境・人・ものを提供して、北海道の旅を演出できたらいいと思います」と語った。

最後に、水戸岡氏は「皆さんの応援があることによって、もっともっと楽しい旅が、鉄道の旅が、ローカル線が生き返ることができると思います。ぜひよろしくお願いします」と呼びかけ、概要説明を締めくくった。

■新規参加するシェフ、稚内市関係者からのコメントは

この日の体験乗車取材会では、「THE ROYAL EXPRESS ~HOKKAIDO CRUISE TRAIN~」における車内昼食の新しい料理人と、稚内市関係者からのコメントも紹介された。新しい料理人は4人。その中から、フレンチ料理「AGRISCAPE」シェフの吉田夏織氏と、創作料理「ハートンツリー」シェフの服部大地氏が登壇した。

「AGRISCAPE」は札幌市西区の小別沢にある。農家を引き継ぎ、野菜・食肉・蜂蜜などの食材を生産しながら、その時期ならではの料理を提供している。吉田シェフは「THE ROYAL EXPRESS ~HOKKAIDO CRUISE TRAIN~」に料理人として参加するにあたり、「自然が相手なので、毎年同じものが作れるわけではありません。それでも、9月の北海道を表現できる料理を作っていきたい」とコメントした。吉田シェフの料理は、「日本最北端の旅」1日目の車内昼食で提供される。

「ハートンツリー」は道東の鶴居村にあり、人口より牛が多いほど自然豊かで食材も豊富だという。「THE ROYAL EXPRESS ~HOKKAIDO CRUISE TRAIN~」の運行時、季節は夏になり、多くの野菜が採れると説明した上で、「その時期を感じてもらえるような料理を作っていきたい」と服部シェフ。「いまの北海道を僕が見た形をできるだけ伝えられるような料理をしていきたい」と語った。服部シェフの料理は、「HOKKAIDO CRUISE TRAIN」2日目の車内昼食で提供される。

  • 「THE ROYAL EXPRESS ~HOKKAIDO CRUISE TRAIN~」の料理人に加わる服部大地氏(写真左)と吉田夏織氏(同右)

続いて「日本最北端の旅」で訪問する稚内市から、稚内市企画総務部企画調整課計画経営グループ主査の柴田憲一氏、稚内観光協会事務局次長の岩木直人氏が登壇した。「日本最北端の旅」の新設を受け、「我々としても大歓迎であり、皆さんに楽しんでいただけるよう精一杯協力していきたい」と柴田氏。稚内市は人口約3万1,500人の町だが、水産・酪農・観光を主産業とし、豊富な資源がそろっているという。

岩木氏から市内観光地と食の紹介も行われた。日本海とオホーツク海が交わる稚内市では、多くの魚介類が水揚げされ、季節によってさまざまな海の幸を味わえる。中でもホッケ、カジカ、カレイなどは1年を通じて獲ることができ、「日本最北端の旅」の運行時はとくに脂がのって美味しいという。

  • 稚内市の柴田憲一氏(写真左)と、稚内観光協会の岩木直人氏(同右)

  • 日本最北端の宗谷岬(写真提供 : 東急)

「日本最北端の旅」の2日目で観光する宗谷岬に関して、ホタテの貝殻を粉砕して敷き詰めた「白い道」についての解説もあり、道の白、空・海の青、草木の緑のコントラストが非常に美しいとのことだった。3日目に通る稚内西海岸は、利尻礼文サロベツ国立公園に含まれ、原生花をはじめ多くの自然が残っている。「稚内市・民間を挙げて、『THE ROYAL EXPRESS』の到着を歓迎してお待ちしたいと思います」と岩木氏は語った。

■車内昼食と生演奏、車内でのひとときを体験

体験乗車取材会の列車が横浜駅を発車した後、「THE ROYAL EXPRESS ~HOKKAIDO CRUISE TRAIN~」の車内で提供される一部料理の試食時間が設けられた。1品目は「AGRISCAPE」(札幌市)による「ポワローネギと黒豚のテリーヌ ~山葵の香り~」。ポワローネギで黒豚のほほ肉と耳肉をサンドしたテリーヌは、ネギの甘味を感じつつ、ときおり姿を現す黒豚の食感がやさしい一品となっている。

付け合わせに4種類の大根のサラダも付いている。いずれも大根特有の辛みがなく、みずみずしい食感と風味を感じられた。そこに山わさびがさわやかな香りを添える。ソースはジャガイモとポワロ―ネギを合わせたもので、その上にネギ油がのっている。これを付けることでテリーヌもサラダもクリーミーになり、ネギ油を付けると香ばしさがさらに引き立つ。

後で「AGRISCAPE」の吉田シェフに尋ねたところ、今回提供した大根とポワロ―ネギは昨年11月に収穫したものを越冬させたという。そのおかげか、どちらも辛みが取れ、やさしい甘味とみずみずしさが感じられた。

  • 「ポワローネギと黒豚のテリーヌ ~山葵の香り~」

2品目は「ハートンツリー」(鶴居村)による「シタカラ農園 無農薬無肥料豆のタルト」。3色の豆がひとつずつ皿の外側に置かれ、皿の真ん中のタルトにも3色の豆がひとつずつ置かれている。塩だけで味付けされたこれらの豆は、決して主張の強い味ではないものの、しっかり味わうことで、優しく香る豆本来の風味に気づける。

「ハートンツリー」の服部シェフに尋ねたところ、味覚で感じるにはわずかだが、3種類とも微妙な味の違いがあるという。ただし、3種類の豆はいずれも同じ土で育っているとのことだった。「同じ土で生まれ、同じテロワール(自然環境)で育っているのに、この変化があるということにぜひ感動してもらいたい」と服部シェフはコメントした。

  • 「シタカラ農園 無農薬無肥料豆のタルト」

  • 「羊のヨーグルト ビーツのシロップ」

3品目も「ハートンツリー」から、デザート「羊のヨーグルト ビーツのシロップ」。羊乳は牛乳より油脂分が多いため、生クリームなどを使用せずとも、なめらかな食感とフォルムを実現できると服部シェフは説明する。ビーツのシロップは、煮詰める時間によって3段階の色になり、甘味の強さに違いがある。ヨーグルトだけでもシンプルな味で美味しかったが、シロップも合わせることでほんのり甘い香りがプラスされ、より楽しめるだろう。

ドリンクには、「ドメーヌ・タカヒコ」(余市町)の赤ワイン「ナナ・ツ・モリ ピノ・ノワール 2018」、「池田町ブドウ・ブドウ酒研究所」(池田町)のデザートワイン「山幸アイスワイン 2020」、「CheerS」(士幌町)のソフトドリンク「シーベリーソーダ」が提供された。

「ナナ・ツ・モリ」は「ピノ・ノワール」という品種のブドウを使用した一品。メニュー表の解説によると、かつて7種類の果樹が育っていた七ツ森の歴史を紡ぐ畑で育てられたとのことで、豊かな香りと繊細な味わいを感じられる。

「山幸アイスワイン」には、池田町産のワイン用ぶどう「山幸」が使用されている。解説によると、十勝の大地で自然に凍った果実を収穫後すぐに圧搾しており、甘味が凝縮されているという。そのためワインとしては非常に甘く、色もかなり濃い。甘いものが好きな筆者にとって、これくらいの強い甘味はむしろ好みだが、本当に甘いのでデザートとして楽しむくらいがちょうど良いかもしれない。

「シーベリーソーダ」は純粋なソフトドリンクとなっており、アルコールが苦手な人も美味しくいただける。シーベリーはビタミンやミネラルが豊富で、甘酸っぱい味わいが特徴的。そこに微炭酸のほどよい刺激が合わさり、美味しい一杯だった。

  • (写真左から)「ナナ・ツ・モリ ピノ・ノワール 2018」「山幸アイスワイン 2020」「シーベリーソーダ」

  • 音旅演出家・ヴァイオリニストの大迫淳英氏による演奏も

  • 体験乗車取材会で筆者が着席した5号車「ダイニングカー」

  • 1号車の親子席。奥にこども用の木のプールが見える

料理の提供中とプラン概要の説明後、音旅演出家・ヴァイオリニストの大迫淳英氏による演奏も行われた。ピアノの伴奏に合わせ、「THE ROYAL EXPRESS 北海道の旅」「愛の挨拶」などを演奏。実際の北海道クルーズでは、3日目の夕食時にディナーコンサートとして大迫氏による演奏が行われる予定となっている。ちなみに、東急の松田氏が説明していた駅での演奏と地域住民らとの交流に関して、大迫氏のYouTubeチャンネル「おとたびチャンネル」でも紹介されている。

体験乗車取材会の列車が伊豆急行線内に入ったあたりで自由見学の時間が設けられ、わずかな時間ながら豪華観光列車の車窓風景を楽しめた。今回は遠方に太平洋の広がる風景だったが、北海道ではさらに壮大な自然の風景になるはず。実際に「THE ROYAL EXPRESS ~HOKKAIDO CRUISE TRAIN~」に乗車できたら、列車から眺める大自然も素晴らしい思い出になるに違いない。「THE ROYAL EXPRESS」は15時41分、伊豆高原駅に到着した。

  • 1号車の展望席

  • 乗務員室の後方から前面展望も楽しめる

  • 川奈~富戸間を走行中の車窓風景。北海道ではどんな風景が見られるだろうか

  • 「THE ROYAL EXPRESS」の外観。北海道クルーズでの運行時は5両編成に短縮され、ディーゼル機関車2両と電源車を連結した編成になる

「THE ROYAL EXPRESS ~HOKKAIDO CRUISE TRAIN~」第4期の販売期間は2月6日から4月17日まで。公式サイトまたは郵送で申込みを受け付けた後、抽選販売となる。抽選結果は「THE ROYAL EXPRESS」ツアーデスクからのはがきで発表される。その他、各プランの詳細や「THE ROYAL EXPRESS」そのものについて知りたい人は、「THE ROYAL EXPRESS」の公式サイトを確認してみてほしい。