「鶴の一声」は、よく見聞きすることわざの一つです。しかし正しい使い方を知っていると自信を持って言える人は多くないかもしれません。「鶴の一声」は使い方によっては失礼になってしまう場面もあるため、意味をちゃんと知っておきたい言葉です。

今回は、その「鶴の一声」の意味や語源、使い方と例文、類語や英語表現などをご紹介します。

「鶴の一声」の意味とは

  • 鶴の一声とは

    「鶴の一声」は、主に力を持った人物の一言として使われています

「鶴の一声」の読み方は「つるのひとこえ」です。

意味としては、多くの人の議論や意見を抑える、権威者や有力者などの力を持った人物の一言です。

例えば、会社内で会議をしているとき、多くの意見が出て一向にまとまらない中、社長の一言で結論が出ることがあります。「鶴の一声」は、このときの社長の一言を表す言葉です。

「鶴の一声」の由来・語源

  • 鶴の一声の語源

    「鶴の一声」は、鶴の鳴き声の力強さから生まれた言葉と言われています

言葉の語源は社会人の教養として知っておいて損はしない上、語源から理解しておくと意味や使い方を間違うことも減るでしょう。「鶴の一声」はどういった成り立ちなのでしょうか。

鶴はあまり鳴かない動物

鶴は、ことわざや昔話などでなじみのある動物ですが、実際に見たことがある人は少数でしょう。

日本でよくイメージされる、胴体が白色、首が黒くて頭が赤色の鶴を「タンチョウ」といい、北海道で生息・繁殖します。その他にも、冬になると山口県や鹿児島に渡来する「ナベヅル」や「マナヅル」が有名です。いずれも特別天然記念物とされています。

鳥はよく鳴くイメージがありますが、鶴はそれに反して、あまり鳴かない特徴を持っています。ただしひとたび鳴くと、甲高く驚くほど大きい声を出します。

鶴の鳴き声の力強さから「鶴の一声」は生まれた

前述のように鶴は、大きくて甲高い声で鳴く鳥です。鶴の首、気管は長いため、他の鳥より鳴管(めいかん)と呼ばれる発声に使う器官が発達しています。そのため、トランペットなどの金管楽器のようによく響く大きな声で鳴けるのです。

その鳴き声は力強い、大きい、よく響く、遠くまで聞こえるなどの特徴があります。このため、発言力を持つ人の一声に使われる「鶴の一声」という言葉が生まれました。

「鶴の一声」の使い方・例文

「鶴の一声」は、基本的には上の立場の人間から発せられる言葉です。以下の例文を基に、使い方のイメージをとらえましょう。

  • スポンサーの鶴の一声で、人気番組の打ち切りが決定した
  • 会議でなかなか意見がまとまらない中、社長の鶴の一声で会議が終わった
  • それまで黙っていた社長が鶴の一声を入れた
  • 選手たちが黙った理由は、監督の鶴の一声があったからだ
  • 多数決よりも、鶴の一声の方が重要視されることもある

「鶴の一声」は失礼な表現?

  • 鶴の一声は失礼な表現?

    「鶴の一声」は使い方によっては失礼にあたります

「鶴の一声」を使う際に注意したいことは、使い方によっては相手に失礼な表現になるということです。

多くの場合、「鶴の一声」はその場をまとめる一言や、一人の意見で決定した際に使われる言葉です。そして、「鶴の一声」には有力者が他者の意見を聞かずに意思決定をする、否応無しに従わざるをえない状況にする、といったニュアンスも含むこともあります。

例えば「データを基にプランの比較検討を進めたが、結局は社長の鶴の一声で決定した」などと言うと、皮肉を込めた表現として受け止められることも多いでしょう。結果として相手に失礼な表現になることがあるので、使い方には気を付けましょう。

「鶴の一声」の類語・言い換え表現

「鶴の一声」の類語についてご紹介します。上位者一人が何かを決定するという意味で考えると、以下のような言葉や単語が類義語にあたります。

  • 天の声(てんのこえ):天が人に伝え教える声。転じて権力者や、影響力が強い人の意見
  • 一存:自分一人だけの考え、一方的な考え
  • 恣意(しい):自分勝手な考え、自分の思うように振る舞う心

これらを使った例文は以下の通りです。

  • 映画のキャストは、スポンサーからの天の声で決まったようだ
  • この会社の行く末は、彼の一存にかかっている
  • 今回の計画は、彼の恣意によって変更された可能性がある

「鶴の一声」の対義語

  • 鶴の一声の対義語

    「鶴の一声」の対義語を紹介します

ここでは、「雀」が出てくる「鶴の一声」の対義語をご紹介します。

対義語は「雀の千声」

「鶴の一声」の対義語にあたる言葉は、「雀の千声(すずめのせんこえ)」です。

上の立場の人間から発せられる言葉が鶴の一声ならば、雀の千声は下の立場にあたる、たくさんの人間の言葉を表す言葉です。「上の立場の人間」を鶴、「下の立場の人間」を雀と例えています。

ただ、「雀の千声」が単体で使われる場面はあまりありません。次項で、「雀の千声」と「鶴の一声」の意外な関係をご紹介します。

鶴の一声はことわざの一部? 実は「雀の千声鶴の一声」で一つのことわざ

実は、「鶴の一声」と「雀の千声」は同じことわざの一部なのです。正式には、「雀の千声鶴の一声」で一つのことわざです。

意味も二つの言葉を合わせた「下の立場にあたるたくさんの人間の言葉よりも、上の立場の優れた人間から発せられる言葉に価値がある」です。

雀はよく鳴く生き物として、めったに鳴かない鶴と比較される形で使われています。現実の社会では、「鶴の一声」の方を使う場面が多いため、独立して使われるようになったと考えられます。

「鶴の一声」の英語表現は?

  • 鶴の一声の英語表現

    「鶴の一声」を英語で直訳しても意味は通じません

最近は、ビジネスで英語を使う場面が増えてきました。そこで、「鶴の一声」を英語で表現するとどのようになるのかを最後にご紹介します。

「鶴の一声」をそのまま英訳すると「the cries of cranes」などとなりますが、これでは英語圏の人には伝わりません。

英語で表現するには「a word from the throne」や「voice of authority」のように、「権力者からの声」といったストレートな表現にします。 また、「最終決定」を表す「final word」を用いてもいいでしょう。

このように、英語で表現する場合は、逆らえない意見というニュアンスを持たせた表現をします。

慣用句「鶴の一声」を使いこなそう

「鶴の一声」についてご紹介してきました。「雀の千声鶴の一声」が正式なことわざであることは知らなかった人も少なくないでしょう。

意味をしっかりと理解し、正しく使いましょう。