「物価上昇」「金利上昇」「不動産価格上昇」の"トリプル高"により、改めて注目が集まる住宅ローン。2022年12月に日銀がイールドカーブ・コントロールの柔軟化を決めたこともあり、「変動金利も早晩上昇する」など、さまざまな予測が飛び交っている。

実際のところ、近々、変動金利が上昇する可能性はあるのだろうか。また、直近2年で上昇傾向にある固定金利はどうなっていくのだろうか。

住宅ローン比較サービス「モゲチェック」を提供する株式会社MFSが開催したメディア向け勉強会の内容を踏まえて、住宅ローン金利の現状と今後の見通しを紹介する。

■変動金利の引き下げ合戦は当面継続か

足元の金利動向を見てみると、固定金利は上昇、変動金利は下落傾向が続いている。直近の変動金利は0.44%、10年固定は1.41%、フラット35は1.68%と、固定と変動で利率に大きな差が生じている状況だ。

変動金利をめぐっては銀行間で引き下げ競争が続いており、三菱UFJ銀行は借り換え金利を0.475%から0.345%に引き下げ、SBI新生銀行は新規借り入れ金利を 0.35%から0.32%に引き下げた。

こうした背景に、都銀の預貸率(貸出金残高を預金残高で割ったもの)が10年以上にわたって低下し続けていることがある。つまり、銀行は多少利幅を削ってでも融資を増やしたい状況に置かれているのだ。

さらに、最近ではNTTドコモやJR東日本といった異業種の大企業が住宅ローンビジネスへの参入を表明しており、モゲチェックは変動金利の引き下げ合戦は当面続くとみている。

■金利上昇を機に借り換えを検討するユーザーが急増

2022年12月20日、日銀が事前予想に反してイールドカーブ・コントロールの柔軟化を決め、長短金利操作の運営一部見直しを表明した。

これを受けて、モゲチェックに寄せられる相談メッセージも従来の2.5倍ほどに増加。特に、今後の変動金利の見通しについて質問されるケースが多いという。

一部で「変動金利の上昇」もささやかれてはいるものの、2023年1月18日以降もモゲチェックユーザーの約半数が変動金利を希望しており、固定金利希望者の目立った増加はみられない(変動:50.9%、固定:4.3%、わからない:44.4%)。

2022年10~12月においては、モゲチェックを利用した住宅ローンの借り換えユーザーは1.2倍に増えており、「金利上昇をきっかけに借り換えを検討した」と回答しているユーザーが急増している。今後、電気代などの生活コストがさらに上がれば、「物価上昇」をきっかけとした借り換えの割合が増える可能性もある。

■気になる今後の金利、2023年以降も金融緩和継続か

多くの人が気になっているのが、「今後の金利がどうなるか」ではないだろうか。

前提として、日銀は「賃金上昇を伴う持続的なインフレ2%」を金融緩和解除の条件として挙げている。ここでのポイントは「賃金が上がることで需要が増え、物価が上がる」という経済のよい循環が起きることだ。

2023年春闘では賃上げ率が高水準になるとのニュースも流れているが、モゲチェックは「賃金が上がったとしても、金融緩和を解除するほどではない」と考えている。なぜなら、物価上昇率に対してベースアップの規模が不十分であることに加えて、今回の賃上げが物価上昇に伴う一時的な賃上げに終わる可能性があるからだ。

「優秀な人材を採用したい」といった前向きな理由で行われる賃上げには持続性があるが、「物価が上がって家計が大変だから」という理由では、賃上げの持続性に疑問がある。 今後の海外経済、特に欧米経済の下振れリスクを考えても、昨今の賃上げの流れは長続きしない可能性が高い。

こうした材料を踏まえると、モゲチェックは2023年以降もまだ金融緩和が続くとみている。

では、金融緩和はいつ終了するのか。金融緩和政策が終了するターニングポイントとして挙げられるのが、バブル世代が退職する2030年だ。2030年以降、バブル世代が退職し、人手不足から持続的な賃金の上昇が実現すれば、金融緩和が終了すると考えられる。

■もしゼロ金利になっても、借入中のユーザーには影響なし?

モゲチェックは「可能性は相当低い」としているものの、予想に反して2023~2024年中にマイナス金利からゼロ金利になった場合のシナリオも披露した。

過去の政策金利と短期プライムレート(変動金利は短期プライムレートに連動)の動きを振り返ると、短期プライムレートは政策金利が0.1%を超えたときに上昇している。

つまり、マイナス金利がゼロ金利になったとしても短期プライムレートは変動しないと想定され、その場合、すでに変動金利で借り入れをしているユーザーの金利負担は変わらない。

ただし、ゼロ金利になった場合、銀行が金利の引き下げ幅を縮小する可能性が高いことから、新規で借り入れをするユーザーの変動金利はわずかに上昇すると考えられる。

■固定金利も2023年後半に下落の可能性

2023~2024年に変動金利に大きな動きがある可能性は低そうだが、直近2年間で上昇傾向にある固定金利はどうなるのだろうか。

今後の固定金利の動向を占う上でおさえておきたいのが、「直近の日本の長期金利の上昇は、アメリカの利上げが大きく影響している」ということだ。

モゲチェックは、アメリカは夏前には利上げを打ち止め、2023年後半には利下げへとシフトするとみている。そうなれば、アメリカの金利に連動して、日本の長期金利も下落するだろう。

2023年1月の固定金利(目安)は1.68%だが、2月には長期金利の低下を受けて、1.67%に下がるとモゲチェックは予想する。

その後6月までは、日銀新総裁の人事発表に伴ってイールドカーブ・コントロール修正の憶測が広まり、国債の金利上昇圧力が高まることから、固定金利も1.7~2.0%まで上昇する可能性がある。ただ、これは一時的なもので、秋以降にアメリカが不景気に入り、利下げに動いた場合、それに連動して長期金利も下がるため、固定金利が1.2~1.5%程度まで下がる可能性があるという。

■変動金利で借りるなら「比較」と「資産運用」はセット

住宅購入は家計における最大の支出であることから、「どの金利タイプを選ぶか」「どの金融機関で借りるか」といった判断は、家計支出に大きな影響を及ぼすことになる。

それほど重要な選択にもかかわらず、モゲチェックが実施した一般の住宅ローンユーザーへのアンケートでは、48%が「住宅ローン選びで後悔していることがある」と回答。

その理由として、「もっと金利の低い金融機関を選べばよかった(25%)」「違う金利タイプを選べばよかった(14%)」「不動産会社に言われるがままに選んでしまった(14%)」が上位に挙がっている。

元本3,500万円・35年払いの場合、わずか0.1%の金利差で総返済額に70万円もの差が出る。住宅ローンを借り入れる際は、不動産会社に言われるままに契約するのではなく、自ら情報を集めて、しっかりと比較した上で契約先を選ぶことが大切だ。

それに加えて、「特に変動金利で借り入れをする際は、資産運用とセットで考えてほしい」とモゲチェックの塩澤氏は語る。

一般論として、中長期で資産運用を行うと、運用の利回りがローン金利を上回るため、手元資金は消費や繰り上げ返済に使うのではなく、運用に回して将来の金利上昇に備えるべきだという。

長年にわたって低金利が続いている日本では、金利上昇に慣れていない人が多い。ところが、「金利が上昇する」ことは「経済に成長力がある」ということであり、本来、金利上昇は“悪”ではないのだ。

「一定の金利上昇はあって当然」と考えておいたほうが気持ちがラクになるし、金利が上がる前提で将来への備えをしておけば、そのときが来ても焦らずに対処できるのではないだろうか。