第81期A級順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)6回戦は糸谷哲郎八段―斎藤慎太郎八段戦が12月9日(金)に関西将棋会館で行われ、126手で斎藤八段が勝利しました。この結果、今期成績は勝った斎藤八段が4勝2敗、敗れた糸谷八段が1勝5敗となりました。
糸谷八段の角換わり早繰り銀
先手となった糸谷八段は、玉の囲いもほどほどに早繰り銀から銀交換を狙う作戦を明示します。▲7八金の一手を保留してこの地点に玉を囲ったのが工夫で、玉の露出を避けることでこのあと銀交換に備える狙いを持っています。序盤戦は、両者の間で指された昨年度のA級順位戦と似た出だしになりました。
本局のもうひとつの類型として、糸谷八段が先手を持って藤井聡太竜王と指した昨年9月の公式戦が挙げられます。このときの進行をたどるように後手の斎藤八段が右桂の活用を図ったとき、かねてからの狙いの銀交換を実行したのが糸谷八段の用意でした。これに対し斎藤八段が銀交換を拒否したため、急な開戦は回避されました。
斎藤八段勝負の角打ち
数手の駒組みが続いたのち、糸谷八段が3筋で歩をぶつけて本格的な戦いが始まりました。まともに受けていてはきりがないと見た斎藤八段も積極的な歩突きで応じ、局面は盤面全体を使った攻め合いに突入します。おたがいに歩の手筋を駆使する白熱の攻防が進展したのち、斎藤八段が放った△8四角がしなやかな攻め方でした。斎藤八段は、この次の桂跳ねからの攻めに本局の命運を託した形です。
銀を上がって桂跳ねの攻めをかわした糸谷八段に対し、斎藤八段は構わず角を切り飛ばして攻めを続行します。立て続けに桂を成って攻めの拠点としました。この構想がうまく、それまで均衡を保っていた形勢の針は午後9時にしてはじめて斎藤八段のほうに触れました。糸谷八段としては後手からの攻めを丁寧に受けて切らすほかなく、辛抱の時間が続きます。
細い攻めをつないで斎藤八段が勝利
角を失った斎藤八段ですが、手にした銀と桂の持ち駒を最大限に活用して糸谷玉への寄せの網を絞っていきます。受けに回る糸谷八段が自陣に角を打ったのを見て、落ち着いて香を拾ったのが巧みな指し回し。手順に田楽刺しの狙いができて、先の駒損も解消できるめどが立ちました。ここまで進んでみると、斎藤八段の攻めが糸谷八段の受けを打ち破ったことが明らかになりました。
このあとも着実にポイントを稼いだ斎藤八段が手堅い指し回しで勝勢を築きます。終局時刻は午後11時24分、最後は斎藤八段が糸谷八段の玉を即詰みに討ち取りました。勝った斎藤八段は4勝2敗として名人挑戦権争いに踏みとどまりました。敗れた糸谷八段は1勝5敗でA級残留を目指す戦いが続きます。
次局7回戦では▲斎藤八段―△稲葉陽八段戦、▲菅井竜也八段―△糸谷八段戦が予定されています。
水留啓(将棋情報局)