早いもので、2022年も残りわずか。今年3月に放送開始した『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』も年明けにはいよいよクライマックスを迎えることと思われる。今回のコラムでは、直近の放送回であるドン39話「たなからボタンぽち」を中心に、一筋縄ではいかない本作のストーリー展開と魅力的なキャラクター描写について、特撮ファン的な視点から称賛を込めたコラムをご披露したい。

ドン39話「たなからボタンぽち」のストーリーは、喫茶「どんぶら」の大掃除中にオニシスター/鬼頭はるか(演:志田こはく)がひとつの「金庫」を見つけたことから始まった。はるか、サルブラザー/猿原真一(演:別府由来)、キジブラザー/雉野つよし(演:鈴木浩文)がそれぞれ自分の誕生日を順番に入力してみると、偶然にもそれが暗証番号と合致しており、金庫が開いてしまった。中に入っていたのは、バスの降車ボタンにも似た不思議な押しボタン。何よりも奇妙なのは、ものすごく押しやすそうなボタンなのに大きく「押すな」と書かれていたこと。わざわざ「押すな」と書いてあるのにも関わらず、そのボタンを何も躊躇もなく押してしまったのは、ドンドラゴクウ/ドントラボルト/桃谷ジロウ(演:石川雷蔵)だった。

  • 桃谷ジロウを演じる石川雷蔵

ジロウがボタンを「ピンポ~ン」と押してしまった直後、上部の表示窓に「出撃」サインが出て、大きなサイレンの音が聞こえてきた。外出していたマスターの五色田介人(演:駒木根葵汰)は「どんぶら」に戻ってきたとたん、ただならぬ緊張感をたたえながら「来るぞ……ドン・キラーが」とつぶやいた。その言葉どおり、配達の仕事を行っている最中のドンモモタロウ/桃井タロウの目の前に、なぜかタロウとそっくりな姿を備えたドン・キラーが出現した。

  • 桃井タロウを演じる樋口幸平

介人によれば、ドン・キラーとは「脳人(ノート)」の王家たるドン家が科学の粋を集めて作ったアンドロイドだという。ドンブラザーズが本来の使命を忘れ、暴走したときに出撃し、抹殺する使命を帯びている。本来ならば金庫の中へ厳重にしまい込まれていたものだったが、ちょっとした好奇心と驚異的な偶然によって扉が開き、さらには「押すな」とまで書いてあったのに4人がノリで気軽に押してしまったため、「ドンブラザーズがこの世から消滅するかもしれない」という最大の危機を迎えることになった。

タロウそっくりの顔でありながら、一切の人間的感情を持たないドン・キラーの強さははかりしれず、ドンモモタロウのザングラソードを指2本でつまみ、目からは直撃すると確実に命を絶たれてしまうほど強力なビームを乱射する。ドンブラザーズにはなすすべもない、まさに絶望的なまでの強さを見せつけられた。

ひとつの「押しボタン」がきっかけとなり、ただならぬ不幸な出来事がふりそそぐという今回のシチュエーションから、昔ながらの特撮ファンは『キカイダー01』(1973年)の1エピソードを思い出すかもしれない。それは、キカイダーゼロワン/イチロー(演:池田駿介)を抹殺することに執念を燃やす邪悪な人造人間ハカイダー(声:飯塚昭三)が部下のレッドハカイダー、ブルーハカイダー、シルバーハカイダーを従えて結成した「ハカイダー部隊」が完全に壊滅する第10話「大首領ビッグシャドウの怪奇!?」のことである。

ハカイダー部隊は世界征服の野望に燃え、兵士アンドロボット工場やマジックレーダーを備えた基地などをいくつも建設していて、そのエリアは北海道から九州・沖縄まで広範囲にわたっていた。プロフェッサー・ギル(演:安藤三男)の脳を組み込んで死から甦ったハカイダーは、3年という短期間で全国展開を成し遂げるという、人気ラーメンチェーンのように見事な経営手腕を発揮していたわけだ。しかし、そんなハカイダー部隊もゼロワンの正義の戦いと、大犯罪組織シャドウの出現という2重の脅威により、次第にその勢いを失っていった。すでにレッドハカイダー、ブルーハカイダーは倒され、残ったハカイダー(ボス)とシルバーハカイダーはゼロワンを迎え撃とうとするが、ハカイダー基地に乗り込んだゼロワンは、壁に示された「日本地図」の上で点滅するいくつもの光と、その下部の「非常用/押す」と書かれた押しボタンに目が向いた。ハカイダーが止めようとする中、一瞬の隙をついてゼロワンがそのボタンを押すと、基地内に大きなサイレンの音が鳴り響き、やがて日本全国のハカイダー基地が一斉に「自爆」し始めた。ゼロワンにとっては、すべての基地を一個一個潰していくよりも手間がかからず、最高に効率のいい戦い方ができた(ボタンを押しただけ)ことになるが、ハカイダーにしてみれば、3年かけて築き上げた基地のすべてをゼロワンの「指1本」で破壊されたのだからたまらない。結局この基地全滅と、シルバーハカイダーを失ったことが大ダメージとなって、ハカイダーはビッグシャドウの軍門に下り、シャドウ大幹部として新たな戦いの道を歩んでいく。今にして思えば、なぜハカイダーはセキュリティロックも何もつけず、誰でも押し放題の自爆ボタンを壁にセットしていたのか……。世界征服を企む悪の人造人間には、われわれ凡人の理解を超えた考えがあったのかもしれない。

話を『ドンブラザーズ』に戻すと、ドンブラザーズ全員を抹殺するためにやってきたドン・キラーには一切の攻撃が通用せず、タロウたちはもはや倒されるのを覚悟して待つしかない状況に陥ってしまった。逃げる仲間とはぐれたイヌブラザー/犬塚翼(演:柊太朗)はドン・キラーに捕まってしまい、体を何度も何度も地面に叩きつけられ、重傷を負って病院送りとなった。やがて真一、つよしも同じような目に遭い、3人は病室で顔を合わせている。どんなに強い敵が現れ、痛めつけられたとしても、持ち前の超パワーや起死回生の武器、さらには仲間同士信じ合う力などによって奇跡的な大逆転を行うケースが、歴代スーパー戦隊シリーズにはよく見られた。しかし長いシリーズの中には、ヒーローがどれだけ頑張ったとしてもどうにもならず「絶対に手を出してはいけない」敵というものも存在している。そんな例を2つご紹介しよう。

『超電子バイオマン』(1984年)は500年前に滅亡した超科学の惑星・バイオ星で生み出された「バイオ粒子」を身体に浴びて強化した戦士が、世界征服を狙う新帝国ギアのドクターマン(演:幸田宗丸)と戦う物語である。バイオマンの強化スーツや超電子頭脳はバイオ粒子エネルギーで作動しているのだが、ドクターマンはバイオマンを抹殺するべく、バイオ粒子を打ち消す「反バイオ粒子」を宇宙空間から採取。反バイオ粒子を熱線に変えて発射する「バイオキラーガン」を作り出した。第10話「さよならイエロー」では、イエローフォー/小泉ミカ(演:矢島由紀)が仲間をかばってバイオキラーガンの直撃を何度も受け、ついには命を失ってしまう。このエピソードによって、反バイオ粒子にはバイオマンであっても対抗する手段がない(=絶対に倒される)という強烈な印象が与えられた。次回からバイオマンは新イエロー・矢吹ジュン(演:田中澄子)を迎えてふたたび5人に戻るが、第37話「殺し屋シルバ!」では反バイオ粒子を体内に持つバイオハンター・シルバ(声:林一夫)が宇宙より飛来した。バイオ星人の対抗勢力「反バイオ同盟」が滅亡前に作りあげたシルバは、愛用銃バイバスターを乱射しながらバイオマンをつけ狙う危険なロボット戦士。バイオキラーガンと同等の威力を備えるバイバスターの直撃を受ければ、初代イエローのように命を失うかもしれない。シルバとバイオマンとの戦いは、常に生死をかけた緊張感の中で行われた。

2つ目は、『五星戦隊ダイレンジャー』(1993年)に登場した「大神龍」である。ダイレンジャーは、人間社会を襲う邪悪なゴーマ族に戦いを挑む5人の拳士=ダイレンジャーの戦いを描いているが、第37話「必見!でけェ奴」では巨大化したゴーマ怪人やダイレンジャーと共に戦う気伝武人・龍星王をはるかに凌ぐスケールの超巨大龍=大神龍が宇宙から飛来し、地上のあらゆるものを破壊し始めた。ダイレンジャーを導く道士・嘉挧(演:中康次)によると、宇宙の秩序を守るため誕生した大神龍は、争いを続ける地球がやがて宇宙の災いになると判断し、滅ぼすためにやってきたのだという。大神龍にとってはダイレンジャーが正義、ゴーマが悪ということなどはどうでもよく、両者が争っている限り、地球全体を滅ぼすため破壊をし続ける。これを回避するべく、ダイレンジャーとゴーマとの間に「停戦協定」を結ぶといった、大人のかけひきを思わせる展開になるのがものすごい。大神龍をやりすごそうと、表立っての対立をしなくなったダイレンジャーとゴーマだが、その間に魔拳士ジン(演:広瀬匠)とリュウレンジャー/亮(演:和田圭市)、三バカ(神風大将、墓石社長、電話先生)とテンマレンジャー/将児(演:羽村英)、クジャク(演:森下雅子)とシシレンジャー/大五(演:能見達也)、キバレンジャー/コウ(演:酒井寿)と母(演:三輝みきこ)といった「宿命の相手」との決着がつけられ、強い印象を残すエピソードを連発した。最終回には「正義と悪との戦いに終わりはなく、時代を越えて永遠に続けられる」ことが示唆されるが、このように壮大なテーマを語る上で欠かせないのが、善悪を超越した大神龍の存在といえる。

『ドンブラザーズ』のドン・キラーはまさに、反バイオ粒子や大神龍なみにドンブラザーズにとって「ヤバすぎる」相手だったが、たまたま里帰り中だったジロウが育ての親である警察官・寺崎(演:一三)の駐在所を訪れた際、仏壇に供えられているボタンを発見。こちらでもジロウは躊躇せずボタンを押すと、「出撃」サインとサイレンに続いて天空からドン・キラー・キラーが飛来した。ドン・キラーが暴走したときのために用意されたというドン・キラー・キラーは、なぜか猿原真一と同じ顔かたちをしているなど謎の要素が多いが、両者は互角の戦いを繰り広げ、やがて戦闘の舞台は地上から宇宙空間へと移っていく。おそらくドン・キラーとドン・キラー・キラーは未来永劫、果てしなく戦い続けることだろう、と介人が語ってこの物語は一旦幕を閉じる。ジロウの無思慮なボタン押しから始まった今回の大きな危機が、同じくジロウの無思慮なボタン押しのおかげで回避されるという、ストーリーの妙味にうならされる。

  • 猿原真一を演じる別府由来

今後の『ドンブラザーズ』は、翼の恋人・夏美の姿をコピーした鶴の獣人(ジュート)=つよしの妻・みほ(演:新田桃子)の真意や、はるかの漫画が盗作扱いされる原因となった謎の人気マンガ家・椎名ナオキの正体、そしてタロウの育ての親・桃井陣(演:和田聰宏)と彼が「トゥルーヒーロー」「フォーエバーヒーロー」と称える五色田介人との関係、さらには「桃井タロウをこの手で倒す」といいながらもお互い仲のいい友達同士のような付き合い方をしているソノイ(演:富永勇也)とタロウのこれから、などがどうなるか、まだまだ気になる要素が満載だ。そして12月11日放送のドン40話「キケンなあいのり」では、視力を失った翼に「私は夏美」と嘘をつき、彼の愛を手に入れようとするソノニ(演:宮崎あみさ)が描かれるという。ここへ来て、翼と女性2人との三角関係まで勃発し、ますます目が離せなくなった。

  • ソノニを演じる宮崎あみさ

三角関係といえば、かつて『仮面ライダーキバ』(2008年)第25話「ファンファーレ・女王の目覚め」で、一時的に記憶を失くした紅音也(演:武田航平)に強い興味を持ったファンガイアのクイーン・真夜(演:加賀美早紀)が、彼の愛する女性・麻生ゆり(演:高橋ユウ)の名を騙って心を奪おうとするシーンが忘れられない。ドンブラザーズとヒトツ鬼、脳人と獣人など、さまざまな戦いが繰り広げられる中、翼・ソノニ・夏美の「愛の戦い」にこれからどのような決着がつけられるのか、今後も興味深く見守っていきたい。

(C)石森プロ・東映