コロナ禍3年目の今、新卒採用市場では何が起こっている? これから就活に挑む学生が心得ておくべきこととは? 『すごい採用―考え方を変えれば採用はうまくいく』(技術評論社)の著者で、ウォンテッドリーの人事責任者である大谷昌継さんに、採用側の視点から話を伺いました。

  • 配属ガチャが話題となるのは?

働く会社を選ぶ際に必要なのは投資の目線

最近、就活生の間で話題になっている「配属ガチャ」。入社後の配属先が見通せない不安な心境を表した言葉で、実際、ガチャにはずれたことによる内定辞退や、早期離職も起こっているようです。

こうした状況を、採用の最前線で活躍している大谷さんはどう見ているのでしょうか。

「就職する会社を決めることは、その会社の株を買うこととよく似ています。働くとは、時間という有限な資産をその会社に投資することだからです。

例えば、日系の大企業に投資=入社するというのは、基本的には、中長期的に株を保有することによって利益を得ること、つまり、長い期間その会社で働き、育ててもらうことを信じての選択になると思います。それなのに、最初の配属で当たり外れを決めてしまっていいのか。40代50代でキャリアのピークが来るような会社に入っているのに、短期的な視点で判断してしまうのはどうなのかと思うところがあります。

逆に、外資系企業やスタートアップなどで働くのは、比較的短期間で利益を求める判断ですから、自ら積極的にキャリアを積み上げていかなければならない。会社が何かしてくれるだろうと思っていると、裏切られたという気持ちになってしまうわけです。

最初のガチャに外れたと思った時点で次のところに行くというのは、合理的な選択ではあります。ただ一方で、自分が何に投資しているのかきちんと理解しておく必要もあるのではないか。キャリアに対するリテラシー不足の部分もあるように感じています」。

  • 就職することは、その会社の株を買うことに似ている

キャリア形成に絶対的な必勝法はなし

とはいえ、もはや終身雇用は崩壊しており、大企業でさえ長期的なキャリアは見通しづらいのが現実です。最初の配属で思うような職種に就けなかった時、留まるべきか去るべきか、どう判断すべきでしょうか。大谷さんはこう話します。

「それは、本質的には分かりません。その株がずっと上がり続けることが分かっていたら、全財産をそこに賭ければいいわけですから。絶対に勝てる投資がないように、キャリアにおける選択も、絶対的な必勝法はありません。

その会社を信じて踏ん張るのも選択。他方、今は転職のハードルが下がってきており、チャレンジしやすい土壌もある。どちらが正解というのはあまりなく、失敗しながら学び続けるしかないのです。それは、今も昔も変わりありません。

自ら考え、主体的に選択し、責任も取る。常に自分で自分のハンドルを握っているという意識を持つことが、何より大事なことだと思います」。

リアルな体験は、より良いマッチングにつながる

もう一つ、配属ガチャという言葉がトレンドになっている背景には、コロナ禍による影響もあるのではないかと大谷さん。

「面談もオンラインが主体で、就活生と企業がリアルにつながる機会が減ってしまい、お互い、肌感覚での判断がしづらくなっている。結果、就活をする中で実感した自分にとって良い企業ではなく、みんなが良いと言っている無難な企業を選択しがちになり、後で『こんなはずじゃなかった』とがっかりするようなことが起こりやすくなっているように思います」。

コロナ禍のフェーズも変わってきている中、まさにこれから就活に本腰を入れていく24卒の学生は、どんな姿勢で挑むべきでしょうか。大谷さんはこうアドバイスします。

「就業体験型のインターンシップには、ぜひ参加するといいと思います。実際に働いてみることで、自分の実力や可能性が見えたり、職場の雰囲気や社風を感じられたり、その会社の本当の姿を見極めることもできる。やはり、リアルな体験はより良いマッチングにつながると思います」。

  • コロナ禍での企業の動き方にも注目するといい

また、企業研究においては、その会社のコロナ禍の動きにも注目するといいと大谷さん。

「例えば、コロナ禍を機にリモートワークが急速に広まりましたが、同じ職種でも、積極的に取り入れている会社もあれば、あえて取り入れていない会社もあり、それぞれの企業の違いが見えやすくなったと思います。理想の働き方や心地よい職場環境は人それぞれですので、自分の軸に合った会社を見極めるポイントとして、チェックしてみるといいでしょう」。

少子高齢化が進む日本では、労働人口は減少の一途。採用市場は学生優位の状況ではありますが、だからこそ企業側は、新卒であっても即戦力に近い人材を求めるなど、よりシビアな採用を行っています。理想の就職先に出会うためには、刻々と変化する世の中をしっかりと見つめながら、主体的な姿勢で就活に挑んでいくことが重要です。

取材協力:大谷昌継(おおたに・あきつぐ)

ウォンテッドリー株式会社人事責任者
1974年生まれ。東京都出身。東京大学経済学部経営学科卒業。新卒でソフトバンクに入社し、5年間勤務。2001年にオイシックスへ。物流責任者として基礎を作ったのち、2005年から人事を担当。2014年、ウォンテッドリーに人事責任者として入社。二度の東証マザーズ上場を経験。現在は、採用、労務、人事制度の作成まで、人事全般に携わる。