JR東海は、東海道新幹線における大規模災害や不測の事態に備え、各系統の社員およびグループ会社の社員らと合同で、総合事故対応訓練を毎年実施している。2022年度の総合事故対応訓練が11月9日に三島車両所で行われ、訓練の模様が報道公開された。

  • 今年も東海道新幹線の総合事故対応訓練を実施。保守用車が作業現場に到着

■構造物の点検作業、ドローンを活用

2022年度の総合事故対応訓練では、自然災害を想定した従来の訓練に加え、ドローンを活用した点検の訓練も行われた。今回、報道公開された訓練項目は、「地震を想定した構造物健全度判定訓練」「飛来物除去訓練・線路設備復旧訓練」「不測の事態が発生した場合における警察と連携訓練」の3項目となる。

「地震を想定した構造物健全度判定訓練」では、地震発生およびそれによる周辺地盤のゆるみを想定し、早期運転再開に必要な構造物の調査と、その健全度を判定する試験の訓練が行われた。いち早く構造物の状態を把握するため、今回の訓練でドローンを活用した点検が試行された。

ドローン班が復旧現場に到着した想定で訓練を開始。IP無線機を使用してドローン班責任者が復旧本部施設班に連絡を取り、点検開始の指示が降りた。現場の班員らでドローン飛行ルートの確認を行った後、操縦者は操縦の準備、監視員は監視の配置につく。ドローンは青い機体で、社用自動車の上部に置かれた黒いケースに離着陸させる。

  • 今回の訓練で使用したドローン

  • 社用自動車の上部に置かれた黒のケースに離着陸させる

  • 操縦者がドローンの操縦を開始。責任者と監視員が見守る

  • 高架橋の橋桁をドローンで撮影し、状態を点検。モニターに映像が映し出された

「ドローンの飛行を開始してください」(責任者)、「離陸します」(操縦者)と声をかけ合い、操縦者はドローンの操縦を開始。高架の桁橋にドローンを近づけながら、桁橋がずれていないか、コンクリートにヒビが入っていないかなど、映像を通して桁部の8カ所を点検し、いずれも異常がないことを確認した。8カ所すべての点検が終わった後、黒いケースの上にドローンを着陸させ、復旧本部に点検結果を報告。ドローンを使った構造物点検が終了した。

■人力・クレーンで飛来物を撤去、線路設備復旧も

続いて「飛来物除去訓練・線路設備復旧訓練」を実施。飛来物除去訓練では、台風の影響で線路内に飛来物が散乱した状況を想定し、人力および保守用車を使用した除去作業を行った。台風接近に伴う計画運休のため、在線列車はないが、終日運転時間帯であるため、架線は通電中。飛来物除去用の保守用車に保線所社員が添乗し、巡行中に飛来物を発見したという想定で訓練を開始した。

現場の保線所社員が施設指令と連絡を取り、状況の共有と、飛来物の回収方法等を確認する。今回、パレットの回収に鉄製トロ(15トン・クレーン付き)を使用するため、き電停止の手配を現場から要請した。解説によると、指令間協議にて被害状況の見解と緊急き電停止を行うことを全指令に周知し、電力指令が緊急き電停止に対応するという。保守用車の編成に作業員も添乗しており、被害状況の確認、き電停止の手配完了後、すぐに飛来物撤去作業を開始できるという。

  • 飛来物を種類ごとに分けて撤去。ブルーシートは折りたたんでから回収した

  • 大型の飛来物はクレーンで吊り上げ、作業員が補助しながら撤去した

撤去作業を開始すると、まずは人力で作業可能な小さなみかん箱など回収した。ブルーシートは小さく折り畳んだ上で、鉄製トロに積み込んだ。大型のパレットを撤去するためにクレーンを使用し、作業員2人が補助しながら鉄製トロの荷台まで運んだ。最後に竹を回収し、撤去作業が完了。保線所社員が施設指令に報告した。なお、大型の飛来物はチェーンソー等で切断し、小分けにした上で撤去することもあるという。

線路設備復旧訓練では、豪雨の影響で線路内のバラストが流出した状況を想定。人力および保守用車両を活用し、車両を運転可能な状態に復旧する訓練を行った。保線所社員が線路点検実施中、道床(バラスト)の流出と軌道狂いを発見した想定で訓練を開始。施設指令に連絡を取り、被害状況と復旧方法を確認した後、指令が保守用車の手配を行うことになり、到着を待つ。

施設指令の手配により、保守用車が現場に到着。軌道モータカーが、鉄製トロ用簡易型運搬BOX(バラストBOX)を積載した10tトロを連結している。作業員らがバラストBOXの荷台を傾け、道床流出箇所にバラストを投入した。保守用車が撤退した後、バラストを慣らし、突き固めて埋め戻す作業を実施。あわせて「LR-S100」という機器を用いた軌道狂いの検測を行い、その後、軌道の修正作業も行われた。作業後に「LR-S100」で再び検測し、指令へ報告した。

  • 保線所社員が道床流出を確認

  • 指令の手配を受けた保守用車が現場に到着

  • バラストBOXを開き、流出箇所にバラストを投入

  • 保守用車撤退後、人力で道床と軌道の整備を行う。検測には「LR-S100」(中央の写真)を使用

軌道検測に使用された機器「LR-S100」は、仕上がりの精度向上と軌道検測の効率化を目的に導入された。解説によれば、従来は3人1組の作業係と1人の記録係で検測していたが、「LR-S100」の導入により、1人で正確な測定を行えるようになったという。分解が可能で運搬もしやすいため、さまざまな現場で使用されている。今回は道床流出による軌道狂いも想定した訓練のため、軌道整備の事前検測として「LR-S100」が使用された。

■不審者に対処するための訓練、静岡県警と連携

最後に「不測の事態が発生した場合における警察との連携訓練」が公開された。走行中の新幹線の車内で不審者が周囲に危害を加えていることを想定し、防護装備品を用い、警察と連携して不審者への対応など行う。今回は静岡県警察と連携して訓練が行われた。

訓練場所は新幹線の15号車。車両は停止しているが、走行中という想定で訓練が開始された。客室内で大声で通話していた不審者を隣の乗客が注意すると、不審者が逆上し、声をかけた乗客に襲いかかった(訓練のための演技)。その瞬間、客室内に悲鳴が上がり、他の乗客が一斉に避難した。逃げる乗客から、「逃げろ!」「押すな!」との声も聞こえ、一気に緊張感が高まる。

  • 不審者が刃物を突き付け、車内は騒然(訓練のための演技)

  • 警備員が「危ないものは捨ててください!」と牽制する

  • 乗客全員が避難した後、客室を封鎖。「開けろぉ!」(不審者)と怒号が響く

乗客の避難後、巡回中のパーサーや警備員が防護装備品を装備して不審者と対峙。警備員は、さすまたを用いて不審者と距離を取りつつ、逃げ遅れた乗客の避難も促した。あわせてグループ通話システムを利用し、乗務員、パーサー、警備員、指令員らが状況を共有しつつ、臨時停車、救急車、警察などの手配を行う。これを踏まえ、車掌は車内トラブルおよび安全確認として乗務員らが対応していること、そのために三島駅で臨時停車することを放送した。

この訓練は、事件が発生した列車を三島駅に臨時停車させる想定で進行している。停車後、運転士がドアを開け、駅に待機していた鉄道警察隊が前後から客室内に突入。公務執行妨害として、警察が不審者を確保した。

  • 不審者のいる15号車の客室を封鎖したまま、三島駅に臨時停車。突入した警察が不審者を取り押さえた

訓練の合間に囲み取材が行われ、JR東海新幹線事業本部長の辻村厚氏が対応。訓練で使用したドローンに関する質問が多く寄せられた。ドローンを使うメリットについて、従来の高所作業車による作業が減り、ある程度のコストダウンが見込めるという。ただし、ドローンは風に弱く、加えて精密な検査は人の手で行う必要があるため、高所作業車での作業は完全にはなくならない。

ドローンを使った訓練を振り返り、「画像が鮮明だった」と辻村氏。一方、課題として雨天・強風を挙げ、「ドローンを研究しているメンバーと議論しながら、どういう場面で使えるのかこれからも探っていきたい」とコメントした。新幹線の安全で最も重視することとして、辻村氏は「利用者の安全」を挙げ、「お客様がお怪我をする、場合によっては死亡することは絶対にあってはならないこと。今回のような訓練を通して錬度を高めていきたい」と語った。