駒の動かし方と基本的な戦法は分かったけど、ネット対局などで人と対戦するとなかなか勝てない‥‥なんとことありませんか? この記事では、マイナビ出版刊行の将棋に関する書籍より、対局に活かせる戦法や考え方に関する内容を抜粋して、お伝えします。
石田流からの攻めなど、軽いさばきが魅力でアマチュアにも人気の高い「三間飛車」。玉の堅さで美濃囲いを上回る「居飛車穴熊」の猛威に押されがちではありますが、一部スペシャリストともいえる三間飛車党がさまざまな対策を編み出し、プロ間でも今日に至るまで指し続けられています。
本稿では、プロ公式戦で現れた三間飛車VS居飛車穴熊における、スペシャリスト達の美技・巧技をご覧いただきます(段位はすべて対局当時のもの)。
じっくり戦うのも一策
西山朋佳女流の将棋から。令和2年6月23日、奨励会員だった当時に三段枠で参加した第51期新人王戦本戦の西山三段―青嶋未来六段戦。
角の頭の歩を狙って▲6七銀~▲5六銀~▲4五銀(後手なら△6五銀)と進出するのも、有効な居飛車穴熊対策のひとつ。西山三段もその順を採用し、迎えた第1図。
第1図からの指し手
▲3六歩 △同 歩 ▲4五銀 △2二角
▲3六銀 (第2図)
3四に出た銀を自玉方面へ引き上げ、手厚い陣形を築きました。銀を前線へ繰り出すこの戦法は速攻狙いに見えますが、穴熊側が的確に対処した場合はじっくりとした戦いに落ち着く傾向にあるようです。相手は青嶋六段。そう簡単に崩れるわけもありません。数手進んだ第3図は、完全に先手の厚さ、後手の堅さという図式で、しっかりバランスが取れています。派手な手ではありませんが、居飛車穴熊への対抗策としてこういう考え方もあるということをぜひ知っていただきたいのと、陣形の美しさをご覧いただきたく、手順を紹介しました。
将棋はこの後、難解なねじり合いが続きましたが、最後は西山三段が強敵に競り勝っています。
三間飛車による穴熊攻略60局+「本当に」ためになるエッセー24編を収録
今年の6月に発売された『三間飛車勝局集』は、プロ公式戦における「三間飛車」VS「居飛車穴熊」で、三間飛車が勝利を収めた対局のみを60局収録した実戦集となっています。書籍紹介はこちら。
このコーナーで手順の一部を紹介した5局は、すべてこの『三間飛車勝局集』に収録の対局から。本書にはもちろん、初手から終局まで、すべての指し手が掲載されています。ポイントとなる指し手には解説が付き、棋譜を並べている途中で意味のわかりづらい手が出現しても、納得しながら読み進めていくことができます。
キャプション:※▲井出△中座戦の、手順を紹介した付近の解説
60局の戦型別内訳は以下の通り。
第1章 先手石田流 19局
第2章 後手石田流 24局
第3章 ▲4五銀・△6五銀 4局
第4章 コーヤン流 6局
第5章 その他 7局
石田流に重きを置きつつ、他の戦型もカバーしています。
特筆すべき点は、「エッセー」が非常に充実しているという点。棋書のエッセー、コラムというと、棋士の日常やちょっとしたエピソードなど、悪く言えば「ヒマネタ」的なものが多いのですが(それも楽しいのですが)、本書に収録されている24編のエッセーは、本当に、本当に半端ではありません。どれもためになるものばかりです。「今日は棋譜を並べる気力がないなー」という日でも、これを読むだけでもかなり良い勉強になるでしょう。ためになるエッセーのラインナップは以下の通りです。
居飛車穴熊に手を焼いている三間飛車党の方をはじめ、広く振り飛車党の方に、また逆に、プロが考えた三間飛車対策を知りたい居飛車党の方にもおすすめできる一冊です。ぜひ1局1局ご堪能いただき、棋力アップを目指してください。
執筆:富士波草佑(将棋ライター)