伊藤園は、「お~いお茶」商品パッケージに掲載する「第三十三回伊藤園お~いお茶新俳句大賞」入賞作品2,000句を決定した。
三十三回目を迎えた今回は、国内と海外64カ国をあわせ517,367人より1,946,459句の作品の応募があったという。その数ある応募作品から、最高位の文部科学大臣賞に選ばれたのは、兵庫県川辺郡の小柳 咲姫(こやなぎ さき)さん(10歳) の作品「雪がふる一つ一つに雪の神」だ。
作者である小柳さんは、「この俳句は冬に雪をイメージしてつくりました。もともと雪が多い地域ではないのですが、珍しく雪が降り、校庭一面が真っ白になりました。そんな景色を見ながら、なぜ雪は空から降ってくるのか不思議に感じ、神様が宿っているのかなと思ったことを詠みました。」とコメントしている。
選評を担当した最終審査員の安西篤さんは、「雪がふる。その一つ一つの雪片は、六花の結晶で、空から音もなくきらきらと舞い降りて来ます。その途中でぶつかり合ったり重なり合ったりして、大きな雪片となって降ってくるのです。降り注ぐ一つ一つの雪片を、神様の降臨のような、大自然の意志のようにも見て、おごそかな気持ちで両手で受け止め、あるいは腕を広げて体全体で浴びているのではないでしょうか。不思議さに有難さが溶け込んで、しーんとした気分になりますね。」と評した。
また金子兜太賞に選ばれた句は、神奈川県大和市の杉山 結菜(すぎやま ゆな)さん(15歳)の作品「秋の夜獣になって走りけり」。
作者である杉山さんは、「コロナの影響を受けて2度延期になった修学旅行に、10月行くことができ、その時のことを詠みました。京都、奈良の二泊三日の旅の間友だちと一緒に行動でき、また宿泊先では、修学旅行に行けた歓びやそれまでの行動制限で我慢していたものが弾け、友人たちと廊下や部屋中をはしゃぎ回りました。その様子が、まるで周囲を気にしないで走り回る獣のようだったなあと思い返し「獣」と表現しました。とても楽しかったので、消灯後も走り回っていたため先生にも叱られましたが、それも良い思い出になりました。」とコメントしている。
審査員は、「秋の夜、急に何かに憑かれたように体の中に衝動が込み上げてきたのでしょう。それは思春期特有の故知らぬ衝動なのかもしれません。思わず声を挙げたくなるような気持ちで、夜の闇に身を揉みこむように、獣になった気分で走り込んでいく。それを『獣になって走りけり』といったのです。若いいのちの叫びのような全心身運動といえるものかも知れません。」と選評を寄せた。
また、「小学生の部」「中学生の部」「高校生の部」「一般の部A(40歳未満)」「一般の部B(40歳以上)」「英語俳句の部」から大賞が選ばれた。
「小学生の部(幼児含む)」では応募総数492,423句の中から、愛媛県北宇和郡の松浦 弘樹(まつうら ひろき)さん(10歳)の作品「ロボットのむねの歯車春を待つ」が選ばれた。審査員は「動くロボット人形が、玩具箱か倉庫の隅に置かれています。外は雪でしょうか。今は動くこともなく、一個の静止したモノとなっているのです。やがて春になれば、子供たちの遊び相手として、むねの歯車の螺子を巻いて動き出すのでしょう。それまではひたすら静かに、じっと我慢の子となって春を待っています。」と選評を寄せた。
「中学生の部」では応募総数495,549句の中から、福岡県八女市の栗原 唯奈(くりはら ゆいな)さん(12歳)の作品「単身の父住む街の冬銀河」が選ばれた。審査員は、「お父さんが地方へ転勤となり、今は家族と別れて暮らしています。見上げる夜空の冬銀河は、お父さんの住む街にもかかっていて、同じようにこの冬銀河を見上げ、家族のことを思っているのかもしれません。単身赴任のお父さんも淋しいでしょう。早く会いたいなあという気持ちが、冬銀河に照り映えています。」と選評を寄せた。
「高校生の部」では、応募総数799,630句の中から、東京都葛飾区の斉藤 弥来(さいとう みく)さん(17歳)の作品 「石こうと夏の教室二人きり」が選ばれた。 審査員は「放課後も教室に居残って、図工の課題の石膏像と取り組んでいます。この場合、「二人きり」の中味をどう受け取るのか。文脈からは、石膏像と二人きりと読めます。石膏像を作っている間に、いつか相棒のように呼びかけていたのかもしれません。この思い入れが、夏の教室をいのちの通い合いのように感じさせたのです。」と選評を寄せた。
「一般の部A(40歳未満)」では、応募総数42,857句の中から埼玉県さいたま市の柴崎※ 誠也(しばざき せいや)さん(33歳、※正式にはたつさき)の 作品「カマキリの目力無人直売所」が選ばれた。審査員は「無人直売所は、畑に近い路傍の小さな屋台風の掘立て小屋です。そこに置かれている野菜は新鮮で、おそらく朝採りのものでしょう。カマキリはその野菜を狙う生きものたちを許せないとみているのです。まだ誰も来る気配はありません。カマキリの目力がらんらんと輝いて来て、そろりと足を踏み出したところでしょうか。」と選評を寄せた。
「一般の部B(40歳以上)」では、応募総数79,070句の中から福井県福井市の松井 よしみ(まつい よしみ)さん(58歳)の作品「二才児のうずまきだけの年賀状」が選ばれた。審査員は「二才児は、作者の年齢からみておそらくお孫さんでしょう。両親の年賀状に添え書きした孫のうずまきは、まだ字は書けないながら、精一杯のご挨拶の気持ちを表しています。舌のよく回らない言葉そのもののようにも受け取れて、たまらなく可愛い。その肉声に触れてみるように、筆跡をなぞっています。うずまきにいのちの渦を感じながら。」と選評を寄せた。
「英語俳句の部」では、応募総数33,941句の中からアメリカのEdward Huddlestonさん (29歳)の作品「looking for girl names we pick wildflowers (直訳)娘の名を求めながら野の花を摘むわたしたち」が選ばれた。最終審査員の星野 恒彦さんは「授かるかもしれない娘のため、よい名前を探し求めながら、野に出て可憐な花を摘む二人。花の名にあやかりたいのか、とにかく何かインスピレーションを得たいわけです。素朴な親の愛情が、野花をめでる心と重なり、美しい景のもと、味わい深い句となりました。『野の花』は秋の季語とされますが、アメリカ人の作ですから、春や夏の野かも知れませんね。」と選評を寄せた。
さらに、「新俳句フォトの部」では、応募総数2,989句の中から兵庫県川西市の林 愛美(はやし まなみ)さん(24歳)の作品「切れかけた蛍光灯を置いて行く」が選ばれた。
最終審査員の浅井愼平さんは「誰もが人生の中で経験する引っ越しのような写真や俳句にしないところに視点を向け、その時のちょっとした気持ち、気づいても俳句にするかという際どいところを表現している。見過ごしそうな話であるのに、でも人生の中のいくつかの句読点の中に入れ込んできた作者の感受性の豊かさというか、個性が感じられました。このような情景を言葉に残すのは俳句の技の一つですが、人の心に印象を残せる作者の人柄が好ましい。写真も凡庸に見えますが、実は結構神経使っていて、人物の顔が映ってないのも技がありますね。俳句と写真のディテールが、ものすごく繊細でありながら無理なく非常にすんなりと入ってきます。」と選評を寄せた。
コロナ禍も3年目を迎え、コロナに関連した応募作品も多かった。今回の金子兜太賞の作品は「2度延期となってしまった修学旅行に行けた歓びや行動制限で我慢していたものが弾けた」時の気持ちを詠んだ作品で、その影響は残りつつも少しずつ日常生活や心境に変化がみられる作品が見受けられたという。10月30日のオンライン入賞作品発表会では、文部科学大臣賞、金子兜太賞、各部門大賞作品と最終審査員による選評のほか、その他各部門の入賞者を含めた合計2,000名を発表した。なお配信映像のアーカイブは、YouTubeにて視聴できる。
また11月3日より「第三十四回伊藤園お~いお茶新俳句大賞」の募集を開始する。詳細は新俳句大賞ホームページにて発表される。