第35期竜王戦6組昇級者決定戦(主催:読売新聞社)は出口若武六段-服部慎一郎五段戦が10月19日(水)に関西将棋会館で行われました。結果は、千日手指し直し局を89手で制した服部五段が6組5位の座を獲得し、5組への昇級を決めました。
■負けられない戦い
出口六段は兵庫県出身の27歳。デビュー4年目の今年、叡王戦の挑戦者となり藤井聡太叡王との五番勝負を戦いました。対する服部五段は富山県出身の23歳。デビュー3年目の今年、勝数ランキング(30勝)と対局数ランキング(39対局)の2部門で首位につけています(対局前時点)。好調同士の二人ですが、これまでの対戦成績は出口六段から見て3勝0敗と、出口六段が先輩の貫禄を見せる形になっています。二人は今期竜王戦のランキング戦では2回戦で、また先述の叡王戦では挑戦者決定戦でぶつかっており、服部五段にとっては絶好のリベンジの機会になりました。
本局の序盤は相掛かりの出だしとなりました。先手となった出口六段は銀を中央に腰掛けて角道を閉じ穏やかな駒組みを志向。しかし、後手の服部五段の金銀が立ち遅れていると見るや、すぐさま▲4五銀と出て盤面右方からの飛車先突破を見せます。速攻を見せられた服部五段は守りの金を上がって急場をしのぎますが、これで角を使う目途が立たなくなってしまいました。役目を果たした出口六段の銀は盤面右側に駆けつけ、今度は1筋からの端攻めを見せます。先手の銀の処置は難しいと見た服部五段は盤面左方から攻めを繰り出すことでこれに対抗しました。局面は徐々に攻め合いの様相を呈してきましたが、攻めの主役となる双方の角は依然として自陣に眠ったままです。おたがいに決め手となる攻めを繰り出せないまま、16時55分、対局は千日手を迎えました。
■決着は指し直し局へ
千日手指し直し局は千日手成立の30分後に、先後を入れ替えて再開されました。5時間あった持ち時間は、先手の服部五段が2時間18分、後手の出口六段が1時間52分になっています。局面は先手の矢倉対後手の雁木にスラスラ進んでいきます。この戦型では漫然と駒組みを進めると矢倉の方が手詰まりになりやすい特徴があり、本局でも服部五段が手詰まりを避けるべく、積極的に歩をぶつけて戦端を開きました。
この攻めに呼応するように、出口六段も盤面左方から桂を跳ねていって戦いを起こします。盤上は激しい攻め合いになりました。局面は銀桂交換の駒得をしながら角を中央にさばいた出口六段が有利に思われましたが、戦いを起こすために自玉付近の歩を何枚も犠牲にしており、この点で厳密には服部五段の方に利があったようです。
しばらく小競り合いが続いたあと、後手の角に先手の角をぶつけた▲5五角が服部五段の勝着になりました。先手玉の守り駒が金1枚しかいないという懸念はありますが、後手の角を盤上から取り除くことで飛車が敵陣に成り込めるようになるメリットがこれを上回ったのです。出口六段としては、ここでも自陣を守るべき歩を欠いていたことが不都合に働きました。飛車を成り込んでからの服部五段の攻めはよどみないもので、21時39分、89手までで出口六段を投了に追い込みました。服部五段は対出口六段戦4戦目にしてうれしい初勝利を得るとともに、順位戦・竜王戦合わせて自身初となる昇級を決めました。
水留啓(将棋情報局)