10月11日から政府の観光促進策「全国旅行支援」が始まり、コロナの水際対策も緩和され、観光需要の急速な回復が見込まれている。コロナ禍ではアウトドアレジャーの人気も高まり、世界的に拡大しているアドベンチャーツーリズム・自然体験型観光が、ポストコロナの観光復興で注目されている。
ニュージーランドやスイスなどがその本場とされているようだが、世界的にアウトドア観光の熱い視線を集めるエリアが日本にもあるという。羽田空港から1時間30分の北海道・十勝エリアだ。
今回は9月下旬に実施された1泊2日のプレスツアーに参加。「アウトドアビジネスキャンプ」などで体験した十勝の魅力を前後編で紹介する。
アウトドア目線で十勝をリブランディング
十勝は帯広市をはじめとする19市町村からなる北海道東部エリアの名称だ。大雪山国立公園・阿寒摩周国立公園・日高山脈襟裳国定公園が織りなす手つかずの大自然に囲まれ、200以上の支流を持つ十勝川、畑作や酪農を中心とする大規模農業が展開。パッチワーク状に広がる農地が独自の景観を形成する。
今回のプレスツアーを企画したのは、アウトドアメーカー・スノーピークを筆頭出資会社に、2017年設立されたデスティネーション十勝。スノーピークの山井太会長が、世界に引けを取らない十勝のアウトドア観光の可能性や親和性の高さに着目したことなどが、その設立の契機となっているという。
同社は官民一体で地域観光マネジメントなどを行う地域連携DMO事業者として、観光庁から昨年度末に正式認可を受け、アウトドア観光を軸とした事業を展開。十勝の環境や食、スノーピークのリソースを活かしながら、広大な十勝エリアに存在する観光コンテンツをアウトドア視点で捉え直し、国内外から宿泊利用者を呼び込むための企画・開発、情報発信などを行う。
富良野や美瑛、旭川や東川、阿寒や釧路といった観光名所に囲まれた十勝エリアは北海道の中央部に位置し、日帰り観光客の割合が圧倒的に高い "通過型観光地"とされてきた。
一方で農畜産物の生産者や食品加工・製造会社が多く所在しており、とかち帯広空港の利用者には単身から数人単位で出張に訪れるビジネスパーソンが多い。
そこでデスティネーション十勝は首都圏ファミリー層、インバウンドに次ぐ、第3のターゲットにビジネスユースを掲げ、企業・団体向けプログラムとして提供しているのが「アウトドアビジネスキャンプ」だ。
ビジネス×キャンプを体験
アウトドアビジネスキャンプの会場は十勝・ポロシリ高原にある自然加工体験施設と、その周囲に広がるフィールド。帯広市の果樹園跡地だったポロシリ自然公園の高台に広がる敷地で、麓の「スノーピーク十勝ポロシリキャンプフィールド」と併せ、スノーピークが管理・運営している土地だ。
今回体験したのは「テント設営」や「アウトドアミーティング」がセットになった1泊2日のテント宿泊という、アウトドアビジネスキャンプの基本プラン。2人1組で実際にテントを設営した。テント設営には息を合わせた共同作業もあり、チームビルディング的要素があるようだ。
会議室での会議と違い、開放的な屋外にチェアやデスクなどミーティングができる設備を用意するアウトドアミーティングは、コミュニケーションが生まれやすく、自ずと活発な会議ができるという。
1泊2日のモデルスケジュールも用意されているが、ミーティング内容やテーマはクローズドなかたちで各企業・団体が自由に行え、プログラムの自由度は高い。スノーピーク直営キャンプ場のトレーラーハウス「住箱」に宿泊するプランもある。
麓のキャンプ場と違い、アウトドアビジネスキャンプのフィールドは1団体の貸切利用で、周囲に民家もないので、過去の実施事例ではウッドデッキにDJブースを設置したケースもあるという。また、1団体70名ほどが宿泊利用したこともあり、備品の融通などはスノーピーク直営のキャンプ場と連携している。
企業・団体に向けた研修プランのほか、日帰りプランや個人向けワーケーションプランもあり、個人向けプランでは、とかち帯広空港とJR帯広駅のレンタカー事業者「トヨタレンタリース」と連携。テント宿泊に必要な備品付きで手ぶらでの利用も可能だ。
夜も朝も大満足のアクティビティ&グルメ
アウトドアビジネスキャンプ参加者の大きな楽しみのひとつは、やはり十勝産や北海道産を中心に食材が用意される食事だろう。日本を代表する食糧生産基地としての役割を担う十勝。多くのチーズ工房やブランド牛、品質の高い野菜といったグルメを楽しめる。
今回の夕食では十勝マッシュのアヒージョと十勝小麦でつくったバケット、清水町の十勝若牛のロースステーキや帯広の豊西牛のサーロインステーキ、帯広の老舗焼肉店「平和園」のジンギスカンなど、絶品メニューの数々が次々と卓に展開。
小ぶりで舌触りの良さや甘さ・風味が特徴のじゃがいも「インカのめざめ」、たまねぎ、にんじん、ブロッコリーなど十勝産の野菜を、十勝野フロマージュのラクレットチーズをかけて堪能した。十勝池田町の冷涼な風土で育った「清見種」「山幸種」などの葡萄の酸味を生かした、「十勝ワイン」の風味が料理の味を引き立てる。
熱気球、スノーモービル、パラグライダー、ラフティングなどのアウトドアアクティビティが全国的に見ても飛び抜けて多い十勝。デスティネーション十勝は宿泊施設・交通手段の手配を行える旅行業者として、より観光要素を取り入れた2泊以上のアウトドアビジネスキャンプにも注力している。
2日目の朝に筆者が体験したのはテンカラフィッシング。北海道自体が釣りのメッカとして知られているが、十勝川やその支流などで美しく大型のニジマスなどが釣れるだけではなく、世界でもこのエリアにしか棲息していない然別湖の「湖の宝石」とも称されるミヤベイワナを求めて世界中からアングラーが訪れることも。
毛針を使うフライフィッシングなどが人気で、初心者でもテンカラフィッシングなどをアウトドアビジネスキャンプエリアからほど近い川で楽しめる。スポットや時間帯によっては簡単に釣れるらしく、そこかしこに釣りスポットがある十勝は、アングラーにとってテーマパークのような環境だろう。
キャンプ場などの宿泊施設や飲食店などの平日利用による収益向上が見込め、ビジネスユースの団体客という新たな観光客層を生み出すべく、デスティネーション十勝では、アクティビティ、自然、文化を組み合わせたアドベンチャートラベルの商品として、テンカラフィッシングなどを中心としたコンテンツを地元フィッシングガイドや関係者とともに造成中だそうだ。
アウトドアビジネスキャンプの新拠点として、帯広から車で1時間ほどの新得町のキャンプ場を併設した温泉ホテル「レイクイン」敷地内でテント宿泊が行える環境を整備。テント宿泊に抵抗のある人もより気軽に参加でき、100〜200名規模の団体も受け入れ可能なキャンプ事業を昨年から開始した。
こちらでは4種類のサウナと、冬には凍った湖にチェーンソーで穴を開け、水風呂代わりにする本場フィンランドの「アヴァント」が楽しめることが最大のウリ。もともとは地元のサウナ好きの遊びだったそうだが、今年1月15日から2カ月限定で商品化され、サウナーの間で大きな話題となった。
そんな冬期の十勝のキラーコンテンツとなる可能性を秘めたアヴァントと、アウトドアビジネスキャンプを掛け合わせたプランも検討中とのことで、後編はサウナの聖地・十勝の魅力などを紹介する。