2016年から3年ごとに岡山市を舞台に開催されている「岡山芸術交流 OKAYAMA ART SUMMIT」。第三回となる今回は、9月30日にメイン会場である旧内山下小学校にて、オープニングセレモニーが行われました。
当イベントの概要、オープン直後に行われたセレモニーやイベントの様子をレポート。また、作品が置かれている会場や展示の見どころは2つ目の記事でご紹介します。
目指したのは地域に開かれた美術展
メイン会場となったのは、岡山市内の中心部に位置する旧内山下小学校。校舎内の教室に加え、校庭や体育館にもさまざまな作品が並んでいます。オープニングセレモニーであるテープカットは、校庭にて行われました。
実行委員会会長で岡山市長の大森雅夫さんや、今回のイベントの全体を指揮するアーティスティックディレクターを務めるリクリット・ティラヴァーニャさんなどがそろい、青空のもとでの開幕となりました。
単なるアートイベントとして、現代美術を好きな人に興味を持ってもらうだけではなく、地域の人たちにも気軽に足を運び楽しんでもらうことを目指した本展。セレモニー終了後には、早速地域の児童たちが校庭へ入ってきました。
彼らは「?」の形に並び、今回のメインテーマでもある「DO WE DREAM UNDER THE SAME SKY」と刈られた芝生の上での記念撮影が行われました。これはもともと決まっていたわけではなく、その場でリクリットさんが思いついたアイデアを児童たちに伝えて一緒に実行したものだったそうです。
岡山芸術交流とは?
岡山芸術交流は、初開催の2016年から3年ごとに岡山市内にて開催されている国際現代美術展です。三回目となる今回は、9月30日~11月27日の約2ケ月間、13ケ国28組のアーティストが手掛けた作品が、美術館や岡山城などの施設に展示されています。
コロナ禍になって初めての開催ということもあり、さまざまな障害もありました。参加の打診をしたのは1年前でしたが、実際に現地入りできたのは3ケ月前と準備の期間が十分に取れなかったアーティストがいたこともその一つ。
そのため、リクリットさん自身もどういった美術展になるのか、開幕直前まで全容はわからなかったそう。
イベント全体のタイトルとして掲げられたのは「DO WE DREAM UNDER THE SAME SKY」というもの。少々不思議なタイトルで、一見疑問文かと思えますが、最後に「?」がついていないことから、疑問文ではないことが伺えます。
日本語では「僕らは同じ空のもと夢をみているのだろうか」となります。ポツリと呟いた独り言のようでもあり、「きっと夢を見ているだろう」という希望的な意図を表しているようでもあり、さまざまな解釈ができるようになっています。実は、このように「意味を一人ひとりが解釈すること」自体が、今回の展示では重要だというのがリクリットさんの考えです。
コロナ禍という世界的なパンデミックや、世界規模で平和を脅かす事件が発生している現在において大切なのは、一人ひとりが当事者意識を持って考えること。この美術展を「鑑賞者の意識や視点を変革するものにしたい」と語っており、実際に鑑賞者の状況や見方によって解釈が変わるような仕掛けがある作品も展示されています。
例えば、出展者の一人、ダニエル・ボイドさんの作品にはドットが多用。窓に付けられたドットは室内に光を通しており、絵画には立体的な奥行きを与えていますが、「違う見方を提案するレンズ」でもあると語ります。
太陽光が当たる角度は時間帯によって変わり、見る場所によって光を反射して輝くこともあり、絵画を止まっているものではなく「自分との関係性によって変わるもの」だと捉えることを促しているのです。
開催に合わせて行われたその他のイベント
そしてアーティスト自身の口から制作意図を伺える機会もあり、特に印象的だったのは、作品についてアーティストたちが楽しそうに語っていた点。
映像作品『白鳥、海へゆく』を制作した島袋道浩さんは、岡山城のお堀にあるスワンボートで瀬戸内海まで行く様子を描いた作品を教室内に展示しています。
作品を作ったきっかけは「この白鳥を海まで連れて行ってやりたい」と感じたからだったそう。作品を見るだけでは汲み取りきれないアーティストの思いを知ることができました。
オープニングセレモニー後には、岡山県立美術館にてアーティストトークも実施。パブリックプログラムディレクターを務める木ノ下智恵子さんを司会進行役に、アーティスト9名を迎えたディスカッションを聞ける貴重な機会もありました。
興味深かったのは、それぞれのアーティストは別々の場所で作品を作っているにもかかわらず、最終的に一つの場所に集めたら関係性やつながりが見えてきた、というリクリットさんの話でした。
そして今回はアーティストの選定要素の一つに「旅人であること」という点も指摘。展示の一部には、かつての「旅人」であり「アーティスト」として活躍した円空という故人の作品も含まれていましたが、それも現代を生きるアーティストの作品と通じ合う部分があるのだと説明します。
さらに、タイトルの中の重要なキーワードでもある「夢」について、あるいは「現代においてアートはどうあるべきか」という質問に対してディスカッションが喧々諤々となされ、「アートによって誰か一人・二人でも救われたのであれば、それでいい」という島袋さんの意見には他のアーティスト達も大いに頷き、感極まって言葉につまる登壇者も見られました。
それ自体がアート作品のように感じられたアーティスト同士のトークセッションで、オープン当日のイベントは終了。
地域との交流も重要視している今回の美術展では、今後も「小学生がナビゲーターを務めるアートツアー」などのプログラムも企画されています。展示自体を楽しむのはもちろん、イベントの日程をチェックして訪問日を決めてみてもいいのではないでしょうか。
後編では、作品が置かれている10の会場や展示の見どころをご紹介します。