宇宙開発組織JAXAと人材サービスを展開するビズリーチは、大学生を対象にした「宇宙×ビジネス」のキャリアセミナーを開催した。

JAXAとビズリーチは、宇宙分野の担う人材の拡大を目指し、新たなキャリア教育の実施などを手掛けていくことなどを目的に、2022年7月27日に連携協定を締結。本セミナーはその第1弾の取り組みとなり、ビズリーチのSDGsプログラム「みらい投資プロジェクト」の一環「ビズリーチWeekend」として開催された。

セミナーは、OB/OG訪問ネットワーク「ビズリーチ・キャンパス」に登録している大学生を対象に、ハイブリット形式で開催された。

■宇宙ビジネスの魅力と未来

セミナーには、JAXA人事部人事課の課長・土井忍氏と、JAXAで働きつつ天地人を創業した百束泰俊氏が登壇。宇宙ビジネスについての講話が行われた。

土井氏は、1994年にJAXAに入社し、1996年からは国際宇宙ステーションの宇宙実験棟「きぼう」のロボットアーム開発、エアロックを含む「きぼう」船外システムのインテグレーションや超小型衛星放出ミッションなどを担当。また、「きぼう」の商業利用や、有人宇宙活動に必要となるロボット技術の研究開発などに従事してきた。

宇宙の利用には大きく2つあったという。1つは、宇宙の地球低軌道など、場に価値があり、それを活用していくというもの。もう1つは、宇宙から地球を観測してそのデータを活用していくものだという。

  • JAXA人事部人事課の課長・土井忍氏

地球低軌道については、すでに宇宙ステーションなど人間の活動圏になっている。そこで行われているさまざまな研究開発を事業化し、多様な活動を民間が行えるようになることで、経済圏を地球低軌道にまで拡大させるというのが、JAXAが描いた有人宇宙活動のビジョンだ。

JAXAが宇宙ビジネスを推進する活動の一つが、「J-SPARC」。事業意思のある民間事業者などとJAXAとの間でパートナーシップを結び、共同で新たな発想の宇宙関連事業の創出を目指す研究開発プログラムとなっている。例えば、「きぼう」で宇宙放送局を作るビジネスなどが進められているという。さらにJAXAでは現在、地球低軌道を超え、月近傍や月面の活動領域を拡大する活動も進めているそうだ。

「宇宙探査イノベーションハブ」という取り組みでは、すでに地球で活用されている技術を、宇宙で適用し、それを地球にフィードバックしたり、これまでにない新しい体制や取り組みで宇宙探査に向けた研究を進めている。民間企業とコラボレーションし、地球低軌道と光の通信実験などが行われ、現在は米国法人を作りビジネス化しつつある事例もあるという。

このほか、土井氏が関わった「きぼう」での全体システム実験や、ケネディ宇宙センターでの実験の様子、スペースシャトルでの打ち上げなど「きぼう」完成までの様子が紹介され、現在は、いかに「きぼう」を利用するかというフェーズに移っていることが紹介された。中でも、超小型衛星の放出(2012)は印象的なプロジェクトだったそうで、2009年に「きぼう」が完成し、さらに新しいことができないか考えた結果、土井氏らは超小型衛星に着目した。それを通じて、ルワンダをはじめとしたアフリカでの宇宙利用や衛星の放出などの国際協力に発展したという。

土井氏は「宇宙の利用は明らかに多様化し、それを実現する人も多様な人材が求められている」と話した。

■JAXAで働きながら起業

百束氏は2004年にJAXAに入社し、地球観測衛星のエンジニアとしてGPM衛星やいぶき2号衛星の開発に従事。2019年にデータ利用ビジネスへ関心を示し、JAXAの起業制度を活用して天地人を創業した。

百束氏が起業を考え始めたのは5年ほど前。実際に起業したのが3年ほど前になる。データ利用ビジネスを始めるにあたり、JAXA内で行うよりも起業した方が自由度が高いと感じたという。会社のビジョンは”もっと地球を住みやすくする”こと。宇宙ビッグデータを活用してまだ気づいていない土地の価値を明らかにしていくことを掲げている。

  • JAXA発ベンチャー「天地人」COO/創業者 百束泰俊氏

例えば農業において、気候変動が起こる中でこれまでと同じように暮らしていていくことができず、適した場所が変わっていっているのではないかという社会課題がある。それを分析するための宇宙データは膨大にあり、社会課題の解決に結びつけてビジネスにしていく活動をしている。

ただデータと社会課題を結びつけるだけではビジネスにならないため、そこにオリジナルのアイデアを加えていくことが大切だと話す。温暖化のみならず、脱炭素や再生エネルギー、水の問題など、さまざまな社会課題にアプローチ。地球の課題、社会の課題をビジネスで解決する「天地人コンパス」という新しい価値を提唱している。

そんな天地人のメンバーだが、もともと宇宙分野の専攻だった人は約2割。8割は非宇宙分野から入社し、現在は宇宙分野のプロとして活躍している。非宇宙分野メンバーの前職は、ITエンジニア、プログラマー、デザイナー、戦略コンサル、PR、ライター、営業、経理、農業などさまざま。宇宙専門でなければ、理系でなければ、という訳ではなく、幅広い人材を投入していることがわかる。

百束氏自身、JAXAでのキャリアを振り返ってみると”努力の方向音痴”と言われてしまったことがあるほど、小さなピボットでいろいろなことに挑戦してきたそう。主軸は衛星開発ではあったものの、その挑戦によってさまざまな人と出会うことができ、起業へとつながったと話す。

そのスキルは決して、宇宙に関するものだけではない。どんな分野であっても、得られたスキルは活用でき、軸が変わった時に大きな強みになることもある。百束氏は学生に向け「宇宙産業は成長産業。成長産業は人手不足です。いろいろなことへのチャレンジ精神をはぐくんで、ぜひ宇宙分野にチャレンジしていただけば」と語った。

パネルトークの後には、座談会が実施された。学生からは「日本の宇宙ビジネスのライバルは?」「日本の宇宙ビジネスは遅れている?」などのたくさんの活発な質問が上がった。ライバルについては「(各国に対して)あんまりライバルとは思っていないですね。サポートもするし、切磋琢磨の気持ちはありますが、ライバルではないです」と土井氏が回答。日本の遅れについては「確かに、動いているお金も少ないし、ベンチャー企業の数で言っても遅れているといえるかもしれない」と百束氏が話し、今後を担う学生らに期待を寄せていた。

セミナーにはオフライン会場に26名、オンライン会場には約200名が参加した。