「新しい働き方」で“一歩先をいっている”感があるのが、ヤフージャパンではないでしょうか。テレワークが定着するずっと以前の2014年に、オフィスを含めて働く場所を自由に選択できる「どこでもオフィス」制度をスタート。当初月2回までだった制限は2016年に月5回に、2020年には無制限に拡充され、「日本全国どこでも働いてよい」とアップデートされてきました。

今年4月には、“所属するオフィスに午前11時までに出社できる範囲”だった「居住地」の規定が解除され、日本全国どこに住んでもOK、さらに飛行機での出社も可能に。これにより、家族で離島に移住したり、故郷に戻るなど、社員の働き方がいっそう多様化しているのだとか。

今回は、「憧れの地への移住」と「故郷へのUターン」を実現させた2人の社員にお話を伺いました。

「想像もしていなかった地に住めるチャンス」-北海道・知床に家族で移住

  • 木村綾子さん/エンジニアとして入社後、ヤフー占いなどのサービス企画や、人事の業務効率化の推進に携わる。現在はコーポレートグループピープルアナリティクスラボに所属し、人事関連のデータ分析に取り組んでいる

今年4月、北海道・知床(斜里郡斜里町)に、千葉県から家族3人で移住した木村さん。もともと子どもの小学校入学のタイミングで、実家のある大阪への帰郷を考えていたところ、「どこでもオフィス」の居住地の規定が緩和されることを知り、別の選択肢を考え始めたそう。いつか行きたい憧れの地であったものの、訪れたことはなかった知床への移住を決めた理由は、なんだったのでしょうか。

「夫、娘、私、家族みんなの幸せを考えたときに、斜里が一番幸せになれる場所なのではと思ったからです。

私は旅行や山登りが好きで、全国各地を訪れていました。知床もいつかは行きたい憧れの地だったのですが、行く機会がありませんでした。そんななか、制度が緩和される話を聞いて、想像もしていなかった地に住めるチャンスかもしれない、今しか行けるタイミングがないかもしれないと思いました。また、娘を自然豊かな所でのびのびと育てたいという思いを叶えるのに、知床は最高の地だと。ただ、当初は家族には相談せず、私の中で考えていただけでした。

2月末、夫に『知床に移住しようと思う』と話したところ、最初は驚いていましたが、彼の思い出の地だったこともあり、『仕事を調整して、一緒に行く』と言ってくれました」

  • お気に入りの風景

知床は夫にとって「若い頃に何度もバイクで旅した思い入れの強い地」だったこともあり、生活の不便さや冬の寒さを心配しつつも乗り気に。友だちと離れるのを嫌がっていた娘さんも、最終的に「いいよ」と決断。そこから急ピッチで移住の調整が始まりました。

「空き家バンクや、不動産サイトで物件を調べ始めましたが、ほとんどなく、地元の不動産会社や役場に問い合わせても、思うような物件はなかなか見つからず。3月中旬に家が決まらなければ移住をあきらめることも脳裏をよぎったのですが、電話やメールでしかお話したことのない、まだお会いしたことのない地元の方々のご尽力のおかげで、住居を決めることができました。これで娘の通学する小学校が決まり、入学手続きも進められました。たくさんの人の温かさに触れて、行く前から斜里のことがとても好きになりました」

新型コロナの流行後からオフィス出社はほぼなくなっていたので、移住による業務上の変化や影響は特に感じていないという木村さん。進捗がチームメンバーにわかりやすいようにSlack部屋でやりとりし、話したほうが早い場合はZoomですぐ話すなど、認識の齟齬や戻り作業、無駄に悩む時間が生まれないように心がけているそう。また、Zoomランチや交流会への参加など、社内のコミュニケーションの機会も意識的に作るように。今は「大自然に囲まれた生活でオンオフが明確に切り替えられるので、より集中して業務に取り組めるようになった」といいます。

「移住前は、娘を保育園に送りだしたらそのまま帰宅して、勤務することが多かったですが、今は自然が近くにあるので、散歩して海を眺めたり山を眺めたり、豊かな自然を眺めながら何も考えない時間を持てるようになり、とても気分転換になっています。

  • 農業に挑戦し、地元の方からアスパラ畑の一部を引き継いで育てている

これまで、朝から誰かのおうちにお邪魔してお話しする機会やゆとりはなかったのですが、移住してから農業にかかわるようになり、色々な方の農地を見せていただいます。コロナの規制緩和後は、月1くらいで何かしらの地元の交流会が催されているので、色々な職業の方と交流してお話を伺うことで多様な価値観に触れられて、とても刺激になっています」

■木村さんの1日
05:30 起床、朝食準備
06:00 娘起床。家族で朝食
07:00 娘の登校準備
07:30 娘を送り出してから散歩。近くの浜辺で海を眺めたり、街中を散歩、ランニング、知り合いの農家さん宅に立ち寄ることも
08:30 帰宅、シャワーやコーヒーを入れて、業務開始。たまに街中の無料コワーキングスペースで業務
12:00 昼食。夫と外食をしたり、ときどきは同僚とZoomランチ
13:00 業務
15:00 ちょっとの間おやつタイムして、業務
18:15 退勤、夕食準備、娘のお迎え
19:00 娘の宿題チェック、夕食。たまに斜里町の交流会や、BBQに参加
20:00 入浴
20:30 自由時間、就寝準備。ネットショッピングや漫画を読んで過ごす
21:00~21:30 娘と本読みや、今日あったことのお話をしながら、就寝

斜里は海も山も素晴らしいのは言わずもがな、その豊かな自然を未来に向けて保全していく活動が長い年月をかけて行われていることを、多くの人に知ってほしい、と木村さん。

  • 知床の豊かな海産物や農作物も日々の活力に

「農作物やお魚がとてもおいしく、それをいただくだけで活力になります。地元の方はよく声をかけてくださり、おすそわけや、困ったときには誰かを紹介してくださるので、地域ネットワークの強さを感じますし、移住していなかったら農業にも挑戦できなかったと思います。まだ色々な人にお話を聞いて勉強し始めたところですが、来年の収穫を目指して頑張ります。

今は家族全員とても斜里の生活を気に入っているので、社会情勢やライフステージなど今後どんな変化があるかはわかりませんが、しばらくは斜里に住みたいです。これだけお世話になったみなさんに恩返しできるよう、自身の経験を活かしながら、何かできることがあればいいなと思っています」

「“愛する故郷で暮らす”と“東京でバリバリ働く”を両立できる幸せ」-新潟・湯沢町にUターン

  • 角谷真一郎さん/ 2012年に入社、翌年から人事部の業務に従事し、現在は障がいのある社員のサポートや業務開拓、新規採用を担当している

新潟県魚沼郡湯沢町で生まれ育ち、大学進学のために上京してから東京で暮らしていた角谷さんは、2017年に練馬区から湯沢町へUターン。東京のオフィスに新幹線で通勤する生活は、4月から湯沢町でテレワークをする生活に変わりました。

「20代前半の学生時代から、『いつか故郷に帰りたい』と考えていました。21歳で父が他界し、母が雪国で一人暮らしをしていたこと、家業である旅館業を母がひとりで切り盛りする姿を見て、手伝いたいという思いもありました。もちろん、湯沢町という土地そのものも大好きです。

しかし『故郷の新潟に帰ること』は『東京の会社を辞めること』を意味するのだと、半ばあきらめていました。ですから2016年に新幹線通勤を認める人事制度が発表されたときは、大変うれしかったです。

  • 首都から電車で1時間、トンネルを越えると一面の雪景色

元々生まれ育った町なので、移住前と後でギャップを感じたことはありません。『愛する故郷で暮らす』ことと『東京の会社でバリバリ働く』ことを両立できて、幸福感いっぱいの毎日を過ごせています。母も、私のUターンを喜んでくれているようです」

湯沢町にUターンしたことでの変化は、「健康になったこと」と「家業を手伝えるようになったこと」だそう。

「まず、健康になりました。大自然の中、ソーシャルディスタンスを気にせず散歩や運動ができます。四季折々の景色の中で楽しく運動を続けられるので、朝の運動で1日のリズムを作り、健康的に業務に打ち込めます。また『どこでもオフィス』という働き方だからこそ、冬の土日に家業である旅館業を手伝うこともできます。

  • 土日は家業の旅館業をサポート

首都から電車で1時間、トンネルを越えると一面の雪景色が広がる光景を味わえるのは、世界中探してもここだけ。小さな町に13のスキー場があり、冬はスキー客で毎日がお祭り騒ぎのような賑わいになる、個性的な土地です。そんな湯沢町の持つ豊かな自然と、そこが育んできたおもてなしの文化が、大好きでした」

新幹線通勤のオフィス勤務からテレワークになったことで心がけているのが、メンバーとのコミュニケーション。毎日の雑談タイムを必ず設けているそうです。

「真面目なオンラインミーディングでも、冒頭に必ず雑談を行うよう意識しています。加えて『相手が発信したテキストメッセージに必ずリアクションする』ことも意識しています。1対1のメッセージを無視する方は少ないと思いますが、宛先が大人数の日報や周知メッセージなどは、読んで『ふーん』で終わることが多いのではないでしょうか。だからこそ、あえて『昨日の日報のどこどこ、私も同感でした』といったように、簡単でも目に見える形でリアクションしています。これを継続的に行うことで、相手との信頼関係を醸成できます。

  • 冬の日課、雪かき

オフィスで対面していたときは『あうんの呼吸』でわかり合えていたことも、オンラインではそれが通用しにくいものです。その時に相手が時間をかけて打ち込んだテキストメッセージには、相手の『読んでほしい』『伝わってほしい』という思いが込められています。

その思いを『ちゃんと受け止めたよ』と明示することが、これから長く続くであろうリモートワークで大事になってくると考えています」

将来的にはヤフーで培ったノウハウを活かして、地方の中小自営業者をITの面からサポートしていきたいという角谷さん。ライフステージの変化に応じて、自身が最大のパフォーマンスを発揮できて家族が幸せになれる場所であれば、必ずしも一拠点生活である必要はないと考えているという木村さん。ヤフーが「どこでもオフィス」制度によって目指してきた“ウェルビーイング(幸福)の向上によるパフォーマンスの最大化”を、お2人とも、確かに実現できているようです。