くら寿司は7日、都内で開催の第28期事業戦略発表会において、寿司の価格を全面改定すると発表した。現在110円で提供している皿は115円に値上げし、220円の皿は165円に値下げする。この理由について、同社では水産物の仕入れ価格の急激な上昇などをあげている。なおシステムを全面改修することで、現行の(皿単位の)料金精算の方法も改める。全国のくら寿司で10月1日より適用となる。

  • くら寿司が、寿司の価格を全面改定する

■より豊富なメニューも提供

くら寿司の基本価格の全面改定は1977年の創業以来初めて。世界的な人口増加と水産物の需要拡大、エネルギー費や物流費の高騰、円安、ロシアのウクライナ侵攻に伴う経済制裁などが影響した。新価格は、くら寿司全519店舗のうち488店舗で適用される。

  • 新価格115円メニューの一例(極み熟成まぐろ、はまち、サーモン、とろサーモン、えび、大葉真いか、かれい昆布締め えんがわ添え、肉厚とろ〆さば、旨だれ牛カルビ、たまご焼き、ねぎまぐろ、えびマヨなど)

  • 新価格165円メニューの一例(【炙りたて】Wチーズサーモン、同 Wチーズえび、同 Wチーズえびマヨ、【巻きたて】海鮮うに手巻き(一貫)、同 たっぷりいくら軍艦、【揚げたて】いか天にぎり、【作りたて】えびアボカド、同 大切り 極み熟成まぐろ、同 大切り はまちなど)

  • 10月1日以降の商品構成について。115円が約50商品、165円が約40商品となる

これに伴い、精算システムも一新する。全店舗で会計時(お皿投入時)に異なる価格帯の商品を入れても、自動で計算できるシステムを導入。これにより従来の「全皿●●円」といった皿単位の価格設定は撤廃する。関係者は「これまで『110円』『220円』の2種類に合わせて商品開発を行ってきましたが、今後はバリエーションの幅が広がります。またフェア時には250円、300円などの高付加価値の商品も提供できるでしょう」と期待を寄せる。

ちなみに客側は、従来と変わらない方法で精算できると言う。

■いまは我慢のとき

  • くら寿司 代表取締役社長の田中邦彦氏

事業戦略説明会に登壇した、くら寿司 代表取締役社長の田中邦彦氏は今期(2021年11月1日~2022年10月31日)の業績について、営業利益が9億円の赤字見込みであることを報告した。この要因として、コロナ禍、原材料代の高騰などをあげる。「我慢の1年となりました。安心安全な寿司をお客様にリーズナブルにご提供するため、さらなる改革を推進していきます。時代に合わせて、変えるところは変えていかないといけない」と田中社長。

  • 今期の業績予想。売上は伸びたが、営業利益はマイナスとなっている

その上で、くら寿司の4つの強みについて改めて強調する。それは「購買力があり」「自社加工センターを持ち」「最先端のシステムがあり」「海外展開が好調」なこと。

  • 購買における強み。全国の漁港から天然魚を安定的に仕入れることができるn

  • 自社加工センターを持つ強み。埼玉、大阪(堺市、貝塚市)、福岡の4つの拠点が稼働して柔軟に対応。仕入れた魚は、ほぼ100%が活用できている

  • 最先端のシステム化の強み。「スマートくら寿司」の全店運用で、効率的な店舗運営を実現した

  • 海外での強み。アメリカ(くら寿司USA)、台湾(くら寿司アジア)も収益に貢献している

最後に、改めて「最大限の企業努力をした上で、お客様には最小限ですがご負担をお願いすることになりました」と田中社長。今後、くら寿司では日本の魚食文化を守る「漁業創生」の取り組みなどにも注力しながら持続可能な成長を目指していく。2030年の売上目標としては3,600億円(国内2,100億円、海外1,500億円)必達を掲げた。

■150円前後がマーケットライン

質疑応答の時間がもうけられ、田中社長が記者団の質問に回答した。

価格改定により客単価はどう変化するのか、と聞かれると「現在は1,100円くらい。改定しても5%は上がらないのでは」との見方を示す。110円から165円に(55円の)値上げとなる商品は、あじ、真たこ、オニオンサーモン、えんがわ(かれい)、鉄火巻、大葉生たこの6商品。これについて田中社長は「原料代が2倍~3倍に急騰しました。高すぎる。これでは115円で出せないと判断しました」と説明する。

一部の商品を220円から165円に値下げした理由については「上げたら下げる。一部の商品では値上げするけれど、一部では下げる。お客様に受け入れてもらえるよう、そうした努力もしないといけない」と説明。

(税別で)100円の商品を200円に値上げするのではなく、あえて150円に設定した理由を聞かれると「150円前後に大きなマーケットラインがあると見ているからです。そこに、お客様に大きく支持される価格帯がある。だから我々は、これまで手をつけずに残しておいた。社内からは5~6年前にも、新商品を150円で出したい、との申し出がありました。でも150円は『いざというとき』の価格ライン。とっておいたんです」と説明する。

  • 2030年の売上目標は全世界で3,600億円

今後、さらなる価格改定はあるのか、と聞かれると「世界的に不安定な要素がたくさんあるので、価格は変わっていくかも知れません。ただ私は、価格に関しては非常に保守的。できればずっとこの価格帯でいきたい。値上げしたら世の中が許してくれるかどうか。個人的には、少しでも良いものを食べてもらいたい、できるだけ安く売りたい、そういう思いが強いです」とした。

■スシローについて

先日、競合他社では消費者庁より景品表示法に基づく措置命令を受けた。この件についてコメントを求められると、田中社長は「本当のことを言うと、この質問には答えるなと言われています」とした上で「あえて言わせてもらうと、システムがないところがやるから、こういうことになる。また、要所要所には責任と能力のある人間を置いておくことが必要です。それができないから事件になるんです」と回答。

具体的には「店舗が大きくなるにつれて、設備、機械が必要になります。また、責任ある人材も必要となる。くら寿司は35年かけて人を育てました。例えば、商品の在庫はどれだけあるか? 商品は流れているか? 注文が止まっている箇所はないか? 上に立つ人間が現場を知っていれば、大きな事故にはつながらないでしょう」と持論を展開。

そして最後には「くら寿司は、さらにバージョンアップしていきます。私たちのところは問題を起こしていませんが、業界全体が信用・信頼を失いました。私どもも襟を正して、業界の信頼を回復していかなければ、と思っています」と話した。