ディズニーの定額制公式動画配信サービス「Disney+(ディズニープラス)」で、昨年10月からスタートした新たなコンテンツブランド「スター」。注目を集めるのが日本発のオリジナル作品。現在配信中の『拾われた男』は大きな反響を呼んでいるが、今後も作家・燃え殻のエッセイをドラマ化した『すべて忘れてしまうから』、1992年に公開され高い評価を得た映画『シコふんじゃった。』をドラマ化した『シコふんじゃった!』、さらには二宮正明の衝撃のサスペンスコミックをドラマ化した『ガンニバル』など話題作が次々に配信される。こうした作品はどんな基準で企画されているのだろうか――。日本発オリジナル作品の制作を統括するディズニープラス エグゼクティブ・ディレクターの成田岳氏に話を聞いた。

  • ディズニープラス エグゼクティブ・ディレクターの成田岳氏

――テレビ局とタッグを組んだ『マイファミリー』や『TOKYO MER~走る緊急救命室~』、『明日、私は誰かのカノジョ』などが、すでにディズニープラスで配信されていますね。

期待以上のパフォーマンスを上げているという実感はあります。これからはオリジナル作品も配信されていきますが、ディズニープラスにこういった日本のコンテンツもあるんだ、ということを知っていただく意味では、非常に良い事だと思います。

――そんななか、9月14日から日本発オリジナルドラマシリーズとして独占配信一発目の『すべて忘れてしまうから』がスタートします。本作が記念すべき第1弾になったのはどんな理由だったのでしょうか?

いくつか候補があったのですが、最終的に本作になりました。これまで地上波テレビ局様との取り組みの一環として、『マイファミリー』や『TOKYO MER~走る緊急救命室~』、『明日、私は誰かのカノジョ』、『金田一少年の事件簿』といった作品を配信させていただき、もう一歩踏み込んだ形として日本国内の制作会社との初の共同制作作品『拾われた男』があり、その次にオリジナルとして若干変化球的な『すべて忘れてしまうから』が配信されるというのは非常にいい流れかなと思っています。

――『すべて忘れてしまうから』『シコふんじゃった!』『ガンニバル』と現在発表されている独占配信のドラマは、既存のディズニープラスのユーザーの親和性を考えた企画なのか、それとも新規ユーザー獲得のためのコンテンツという、どちらの認識で企画されたものなのでしょうか?

非常に良い質問だと思うのですが、実はあまりターゲティングというものは意識していないです。我々が作るものというのは、ディズニーが培ってきたストーリーテリングの基本に沿ったものという意識があります。お客さまに興味を持ってもらうという意味で、既存のユーザー様、新規のユーザー様という線引きはしていないです。言い方を変えれば、一見「ディズニーがこんな作品を作るのか」と思われるような、例えば『ガンニバル』のような作品でも、既存のユーザーさまには満足してもらえるストーリーテリングになっていると思っています。

  • 『すべて忘れてしまうから』9月14日より独占配信 (C)Moegara, FUSOSHA 2020

――ディズニーらしいストーリーテリングとは?

強く意識しているのが、客観的、俯瞰的な目線ではなく、主人公から見た景色をしっかりストーリーに落とし込むことです。例えば主人公がAからBという旅路を行くとき俯瞰で説明するのではなく、主人公がその道のりをどんな思いで歩いているのか、そこにはどんな障害があるのか、どうやって乗り越えていくのか、どんな仲間と一緒に手を取り合うのか……主人公目線で描きます。そうすると視聴者はキャラクターに感情移入しやすくなる。その感情を通じて物語を視聴者に繋げていきたいと思っています。ここさえしっかりしていれば、どんな入り口からでも、共通したカタルシスが得られると思っています。

――その意味では、同じ原作でもディズニーが作ると違うものになる?

いまはパッケージ優先に作られることが多いと思います。どんな監督でどんなキャストで、どんな原作で……というところからスタートして作品ができ、受け入れられている。でも私がいつも思うのは、優れた原作を映像化する際「本当に映像化する必要があるか?」ということです。そこで「どうしてもやりたいんです」という熱意があり、映像化することに意味が見出せれば、すごく素敵なことだと思っています。意味といっても単純に「迫力が出るから」みたいなものでもいいと思います。そこにしっかりとしたストーリーがあって、キャラクターの旅路を描くことができれば、しっかりとディズニーらしさが投影された作品になるのかなと思っています。