8月30日ホテル椿山荘東京にて、岡山県内13蔵による試飲イベント『岡山蔵元大集結』と、酒米「雄町」で醸された日本酒が全国から集まるイベント『第13回雄町サミット』が開催された。
雄町は、1859年(安政6年)に備前国上道郡高島村字雄町(現岡山市中区雄町)の農家が発見したという古い歴史を持つ酒米。栽培が難しく一時生産量が激減したことから"幻の酒米"と呼ばれていたが、酒蔵の根強い要望により再び生産量が回復。現在、全国の酒蔵に愛用されており、"オマチスト"と呼ばれる熱狂的な日本酒ファンも獲得している。
このイベントは、岡山県が生産量の約 95%を占める雄町を使った地酒や、そのほかの酒米を使った日本酒、さらに全国で雄町を使って醸された日本酒を、より多くの人に知ってもらおうというもの。ホテル内の「胡蝶」で開催された「岡山蔵元大集結」には、個性あふれる日本酒が文字通り大集結。その中から、酒蔵の日本酒をいくつか試飲してご紹介。
■「Miss SAKE 岡山」に地酒の魅力を聞く
はじめに、会場では、「2022 Miss SAKE 岡山」の安藤恵さんが、和装で岡山の地酒の魅力をPRしていた。お話を伺うと、日本酒テイスティングの専門家「酒匠」の資格を持っているそうで、地元の蔵元を色んな方に知ってもらうために、YouTubeの「Miss SAKE / ミス日本酒 Channel」で岡山県内の酒蔵を訪ねてテイスティング、コメントをしているのだとか。
そんな安藤さんが思う、岡山の地酒の魅力を聞いてみた。「岡山県は"晴れの国"と呼ばれていまして、太陽を吸収した美味しいお米、そこから作る日本酒はたっぷり使ったお米の旨味がしっかり溶け込んでいます。また、岡山には甘口のお酒が多いと思われがちですが、「甘い」というよりは「旨い」のが岡山のお酒です。県内でも北の方の寒い地域では、干し肉など保存食の文化があって、食中酒でよく切れる美味しい辛口のお酒もありますので、ぜひ、幅広く岡山のお酒を楽しんでほしいです。ひと口飲むとトリコになると思いますよ」
■ 利守酒造
1868年創業、雄町を復活させたことで有名な酒蔵が「利守酒造」。その代表作、雄町で醸した「赤磐雄町 純米大吟醸」は、後味がよくじんわりと余韻が沁みわたる美味しさ。そのグレードアップ版の限定品「赤磐雄町ゴールド 純米大吟醸」は、雄町米ならではの米の旨味が際立っていてそれでいてとても飲みやすく、じっくりと腰を据えて飲みたくなる酒だった。
そのほかの代表作「酒一筋 純米吟醸 金麗」「酒一筋 生酛 純米吟醸」や、"赤磐"を英語表記にした海外向けの純米大吟醸「RedRock」の存在感もあり、雄町復活の立役者としての自信がみなぎっていた。
■嘉美心酒造
1913年創業の「嘉美心酒造」では、雄町を使った「神心 自耕自醸 純米酒」、「嘉美心 雄町 純米原酒」のほか、一般米の「アケボノ」を使用した「嘉美心 純米大吟醸」をいただいた。「嘉美心 雄町 純米原酒」「嘉美心 純米大吟醸」の印象的なラベルは、米を使っている量がとても多いため、米の形と、100周年を迎えたことへの感謝の気持ちを込めて合掌を表しているという。
同酒蔵はコンクールにすべて「アケボノ」を使用したお酒を出しているそうで、賞を獲ることでお米の価値を上げ、地元の農家さんに還元するというのを目指しているそうだ。また、「木陰の魚」という新感覚の低アルコールの純米酒もあり、飲んでみると、甘酸っぱくフルーティーな白ワインを思わせる味わいで驚かされた。
■菊池酒造
1878年に創業した「菊池酒造」は、雄町を使った純米酒「燦然」で知られる倉敷の酒蔵。今回は、同じく雄町を使った「木村式奇跡のお酒 純米吟醸 雄町」を試飲させていただいた。こちらは、無農薬無肥料で栽培した「奇跡のリンゴ」で知られる青森のリンゴ農家・木村秋則さんが提唱した自然栽培による米を用いた日本酒。
「木村式奇跡のお酒 純米吟醸 雄町」はフランスの日本酒コンクール「Kura Master」にて金賞受賞、世界中の女性ワイン専門家が厳正な審査をする国際コンテスト「フェミナリーズ世界ワインコンクール2022」では、朝日米を使った「木村式奇跡のお酒 純米吟醸 朝日」が金賞を受賞するなど、世界的な評価も得ている。精米歩合55%の「木村式奇跡のお酒 純米吟醸 雄町」と精米歩合45%の「木村式奇跡のお酒 純米大吟醸」を飲み比べてみたところ、純米大吟醸の方がよりシャープさを味わえる上品なお酒で印象に残った。
■御前酒蔵元 辻本店
女性杜氏・辻麻衣子さんがフジテレビ系列の番組「セブンルール」でも取り上げられたことで話題となった「御前酒蔵元 辻本店」は、大きな樽を置いたブースに人が集まりにぎわっていた。辻本店では、雄町の価値を高め全国に知ってもらいたいとの思いから、2019年に「特上雄町プロジェクト」をスタート。
地元農家が考える最高の田んぼで最高の雄町を栽培し、最高の日本酒を造ろうというもので、「特上」と呼ばれる米のランクを目指して米を栽培しているという。酒米の等級(品位)は農産物検査法による醸造用玄米(酒造好適米)の検査規定に基づいて検査機関で判定されており、「特上」は整粒90%、「特等」は整粒80%など、厳しい基準が設けられている。
雄町は一切品種改良されていない"野生の米"ということもあり、「特上」の基準に合う米を造るのは非常に難しく、歴史上1回しか出ていないのだとか。そんな雄町の可能性を高めていく中で、「全量岡山県産雄町」による酒造りを日本で最初に宣言している辻本店が、最高ランクの米栽培と共に醸している酒が、「御前酒 特等雄町2.2」。香り高くまろやかな口当たりで米の旨味に加え、ほんのりとした甘みがあり飲みやすい。
その年ごとの特等米で醸した酒をファーストビンテージ(2019年~2020年に醸した酒)、セカンドビンテージ(2019年~2020年に醸した酒)と名付けて販売している。ここでは、「特上」を目指して挑戦を続ける酒蔵の志の高さを知ることができた。
■三冠酒造
1806年創業した三冠酒造は、七代目・前畠真澄さんが「食べ歩きが大好き」ということもあり、「名脇役に徹し、食事を主役にする酒」をコンセプトに「雄町純米吟醸 無濾過生原酒」などの酒造りを行っている。
「日本には出汁の文化があり奥深い和食の旨さを増幅してくれるのが日本酒だと思います」(前畠さん)。出汁の利いた和食の旨味が本当によくわかってくるのは35歳を超えるぐらいからなのではと考え、そうした世代をメインターゲットにしているという。一方で、ソースなど味の濃い食事にも合う日本酒の飲み方としてハイボール的な「酒ボール」をおすすめするなど、既存の価値にとらわれない楽しみ方も提唱しているところがとてもユニークだった。
■ほかにも優秀なお酒がずらり
そのほかにも、十八盛酒造の「多賀治 純米雄町無濾過生原酒」、白菊酒造「大典白菊 純米大吟醸 雄町」、熊屋酒造「HARE 雄町 特別純米」等々、個性豊かな酒が振る舞われていて、どれも美味しくほろ酔い加減で気分よく取材を終えた。酒1つ造るにも、米作りから手掛けていたり、独自のアプローチで的を絞っているなど、酒蔵それぞれのバックグラウンド、スタンスが感じられてとても有意義な時間を過ごすことができた。
■「第13回雄町サミット」歓評会では全国の雄町で醸した酒が受賞
また別会場では、「第13回雄町サミット」歓評会が行われており、「吟醸酒」「純米酒(精米歩合60%以下)」「純米酒(精米歩合60%超)」それぞれの部門で、全国の雄町で醸した酒が優等賞を受けた。日本酒初心者の方も、機会があればぜひ雄町を使った日本酒を味わってみてほしい。今まで知らなかった日本酒の奥深さに触れて、食生活の楽しさが増えるのではないだろうか。