月経や妊娠、更年期障害など、女性特有の健康課題にはさまざまなものがあります。そんな問題を解決する一つの手段として近年注目されているのが、「フェムテック」です。
この記事ではフェムテックの意味や注目されている理由、商品やサービスをご紹介します。
フェムテックとは何か
フェムテック(Femtech)とは、「Female(女性)」と「Technology(テクノロジー・科学技術)」を組み合わせた造語です。生理や妊娠、更年期など女性特有の健康問題やライフスタイルの課題を、テクノロジーで解決する商品やサービスを指します。テクノロジーというと機械やアプリなどを想像しがちですが、吸水ショーツなどの衣料品も高度な技術を活用して作られています。
フェムテックは、持続可能でよりよい世界を目指す国際目標「SDGs」の目標3「すべての人に健康と福祉を」や、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」にも直結する課題です。
フェムテックが注目されている理由
フェムテックはもともと、生理周期を管理するアプリを開発したスタートアップ企業「Clue」のCEOであるデンマーク出身の「イダ・ティン氏」によって、2013年ごろに作られた言葉です。なぜ今この「フェムテック」が、注目されているのでしょうか。
女性の活躍を推進するため
日本では2016年4月に女性活躍推進法が施行され、女性の社会進出が推進されています。そんな中、女性のライフステージごとの健康課題と社会システムとのギャップが浮き彫りになってきています。
女性は月経による不調、妊娠・出産、更年期など、体の構造上、さまざまな健康問題に直面します。女性の活躍を推進するためには体調管理をサポートし、働きやすい環境を整えることが必要です。その解決手段としてフェムテックが注目されています。
福利厚生として導入する企業が増加
フェムテックを福利厚生として導入する企業が増加しているのも、フェムテックが注目されている一つの要因といえるでしょう。
例えば女性社員が医師にオンラインで相談できるシステムや、妊活や不妊に関するセミナーの開催、卵子凍結サービスの利用に補助金を出すなど、その方法はさまざま。女性が働きやすい環境づくりのために、企業が積極的にフェムテックを取り入れてきています。
製品・サービスの市場が拡大
SDGsの認知度が急激に高まったり、女性の活躍やジェンダーの平等について議論されるようになったりしたことから、日本でもフェムテックが注目されるようになりました。2021年に経済産業省がフェムテック事業への補助金制度をスタートしたことも、今後ますますの市場規模の拡大を予感させます。
テクノロジーの進歩
テクノロジーの進歩により、例えばこれまで数値化が難しいとされていた生理や体調を可視化・記録することで、根本的な解決策を導き出せるようになりました。各方面でのテクノロジーの進歩によって、さまざまなサービスや商品が登場しています。
フェムテック(Femtech)の主な分野
フェムテックはライフステージに沿った体の悩みや健康課題に応じて、いくつかのジャンルに分類されます。
生理(月経)
生理は約4週間に1回のサイクルで起こり、一般的に一回につき3~5日間ほど続きます。生理中に現れる強い下腹部痛に腰痛などのつらい症状(月経痛)や、生理前のPMS(月経前症候群)といった不調、また生理用品によるかぶれといった不快感、モレに対する不安などを覚える人は少なくありません。フェムテック製品やサービスを活用することで、生理前後の不調を軽減できる可能性があります。
経済産業省の「令和2年度産業経済研究委託事業 働き方、暮らし方の変化のあり方が将来の日本に与える効果と課題に関する調査報告書」(以下、調査報告書)によると、フェムテックを活用することで、PMSや月経に関する症状による労働パフォーマンス低下、それに伴う経済損失が、大幅に軽減されると予想されています。
不妊・妊活
フェムテック製品やサービスの活用により、妊活や不妊治療の負担軽減が期待されています。特に不妊治療は身体的、精神的な負担が大きいため、こうした負担を軽減するニーズは高いです。妊活の専門家から適切なアドバイスをもらえるサービスや不妊・妊活をサポートする支援セミナー、卵巣年齢や精子運動率を調べるための簡易キットなどが増えてきています。
経済産業省の調査報告書によると、フェムテックを活用することで不妊治療に伴う離職や雇用形態の変更の軽減などをもたらし、その経済効果は年間約3,000~5,000億円だといわれています。
妊娠・産後
妊娠中や産後は、心身ともにさまざまな不調が起こりやすい時期です。この時期のフェムテックサービスとしては、体調を整えるためのサプリメント、ウェアラブル搾乳器や、専門家へのオンライン相談、遠隔診療のサービスなどが考えられます。
さらに、働く人を対象としたオンラインによる子育ての個別サポート、育休中の復職サポートなどのサービスもあります。
更年期
閉経前の5年間と閉経後の5年間を合わせた10年間を「更年期」といいます。この時期は、閉経にともなって女性ホルモンである「エストロゲン(卵胞ホルモン)」の分泌が激減することによって、のぼせや顔の火照り、頭痛やめまい、気分の落ち込みなどが起こりやすくなります。
更年期の分野のフェムテックサービスとして、専門家への相談やオンラインクリニック受診サービス、漢方やサプリメントなどがあります。
ウェルネス(女性特有疾患)
「ウェルネス(女性特有疾患)」は、子宮や卵巣、乳房などにかかる女性特有の病気にまつわる分野です。乳がんや子宮がん、子宮筋腫、子宮内膜症、また妊娠・出産による異常分娩(ぶんべん)や早産・流産などがこれにあたります。
それらの負担を軽減するため、痛みのない乳房用画像診断装置や乳がん手術後のパッド・ブラ、デリケートゾーンケア商品、検査キットなどが利用されています。
セクシャルウェルネス
世界保健機関(WHO)によると、セクシャルウェルネスとは、性に対して身体的、感情的、精神的、社会的に健康であることを指し、性の“喜び”の要素も含まれます。長年タブー視されてきた女性のセルフプレジャーや膣トレなどのセルフケアに対する認識も、少しずつ変わりつつあります。最近では女性向けのおしゃれなセルフプレジャーアイテムや、性交痛軽減グッズなども生まれています。
フェムテックの商品・サービスの一例
フェムテックには具体的に、どのような商品・サービスがあるのでしょうか。一例を紹介します。
吸水サニタリーショーツ
吸水性のある布を重ね、1枚の下着として着用できる「吸水サニタリーショーツ」。生理用ナプキンやタンポンが不要なので、度々トイレで取り換える必要がありません。また、ナプキンのかぶれや不快感を軽減できるとされています。
月経カップ
月経カップとは、膣内へ挿入して経血をためる生理用品です。うまく使用すれば交換の手間が少なくなり、モレやムレなど、デリケートゾーンの不快感軽減にもつながります。使い捨てではないためゴミが少なく、環境に優しい生理用品としても注目されています。
ピルのオンライン処方
ピルには、生理痛の緩和や避妊が期待できます。このサービスは、自宅にいながらスマートフォンやタブレットで婦人科の診察を受けて、ピルを処方、郵送してもらうことができます。婦人科を受診するのに抵抗がある人や、忙しくて時間が取れない人にも便利なサービスだといえます。
妊活を支えるデバイス
近年、妊活を支えるサービスの開発が進んでいます。例えばアプリに連携して基礎体温を自動的に記録してくれる体温計や、おりものの状態から妊娠しやすい時期を測定するデバイスなどが開発されています。また、アプリの妊活相談サービスや、遠隔健康医療相談なども広がってきています。
デリケートゾーンケアアイテム
デリケートゾーンは炎症や匂いなどのトラブルが起こりやすい部分です。汚れをしっかり落としながら、うるおいは逃さずやさしくケアできるデリケートゾーン用ソープや、敏感な肌をしっかり保湿してくれるローションなどがあります。
膣トレ・セルフプレジャーアイテム
骨盤底筋群を鍛える、膣トレグッズも登場しています。骨盤底筋が衰えると尿もれや膣のゆるみにつながるため、膣トレグッズを使ってトレーニングを取り入れてみましょう。膣内に挿入するものやクッションタイプ、足で挟んで使うものなどさまざまな商品があります。
また、心と身体を心地よくしてくれるセルフプレジャーアイテムも注目されています。
専門家への相談・サポート
チャットやLINEを利用して、更年期や膣ケア、性の悩みなど、女性のデリケートな問題を専門家に相談できるサービスもあります。
タブーを乗り越え「フェムテック」の今後の拡大に期待
「月経」や「妊活・不妊」といった女性特有の悩みや問題、また「セクシャルウェルネス」などについて、公の場で堂々と話すことは、まだまだタブー視されているのが現状です。フェムテックは決して恥ずかしい話や隠さなければならない話題ではなく、「テクノロジーを使って女性特有の健康問題を解決し、女性が自分らしく活躍するための商品やサービス」だということを、より広めていく必要があるでしょう。フェムテックの広がりは、女性の問題だけでなく、みんなが暮らしやすい社会への一歩といえます。
これからさらに拡大するであろうフェムテック市場の発展に、注目していきましょう。