新社会人となり保険加入を検討する機会が増えつつも、その必要性をあまり感じられない方も多いのではないでしょうか。新社会人には新社会人ならではのリスクも存在します。これからの社会人生活で保険選びに迷わないように、最初に抑えておきたい保険の必要性や、保険加入の前に必ず確認したい社会保険制度について解説します。
■新社会人に保険は必要?
【保険の役割は経済的リスクに備えること】
保険は経済的なリスクに備えるために加入するものです。とはいえ、身の回りにあるリスクのすべてに保険で備えることは現実的ではありません。貯蓄などではカバーしきれない、経済的ダメージが大きなリスクが保険で備えるべき対象となります。
新社会人はまだ働き始めたばかりで、貯蓄が少ない場合もあるでしょう。ある程度まとまった額を貯めるには時間も必要です。保険は、加入をすればその時点で必要な保障額を確保できる点が大きなメリットと言えます。
まずは、新社会人を含めた20代の人たちはどれくらい保険に加入しているのかを見てみましょう。
【保険の役割は経済的リスクに備えること】
公益財団法人生命保険文化センター「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、29歳以下の世帯年間払込保険料(全生保)は21.5万円です。月に約1.8万円を保険料として支払っていることになります。
【20代の平均生命保険加入率・件数】
公益財団法人生命保険文化センター「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、29歳以下の世帯主の生命保険・個人年金保険加入率は70.2%となっています。また、生命保険に加入している29歳以下の世帯主の平均加入件数は1.5件です。
同じ20代でも環境や家族構成、貯蓄額が違えば、必要な保険も大きく変わります。自分に保険が必要かどうかは、自分にどんな経済的リスクがあるかをわかっていなければ判断できません。平均データを鵜呑みにせず、まずはご自身のリスクの洗い出しからはじめましょう。
■新社会人が保険で備えるべきリスクとは?
経済的ダメージが大きなリスクについて代表的なものを挙げ、新社会人が備えるべきリスクかを考えます。
【病気やケガのリスク】
病気やケガで治療費がかかったり、入院が長引く等で働けなくなったりするリスクがあります。病気やケガのリスクは20代でもあります。特に貯蓄でカバーしにくい新社会人にとっては、最初に備えたいリスクと言えます。
【老後のリスク】
長生き=リスクというのは少し不思議に感じるかもしれません。ただ、経済的な側面から考えると、長生きをすればする程、経済的な負担は大きくなります。若いうちから老後に備えられるのがベストではあります。ただ、新社会人のうちはまず、万が一のときにすぐに使えるお金(生活防衛費)として生活費の3~6カ月分を貯めることを優先させましょう。
【死亡のリスク】
扶養している家族がいない場合、死亡のリスクに備える必要性は高くありません。そのため、多くの新社会人にとって死亡保障の優先度は低いと言えます。結婚や出産など、自分の収入で誰かの生活を支えることになるタイミングで死亡保障は考えましょう。
■新社会人が知らずにすでに入っている保険
新社会人がまず考えたいのは、病気やケガになったときの治療費や働けなくなったときの収入減への備えです。とはいえ、すべてを自分で備える必要はありません。
会社員は毎月の給与から社会保険料が差し引かれています。つまり、自分で備えなくても、すでに社会保険という公的な制度である程度守られている、ということです。必要以上に民間の保険に加入することのないよう、まずはこの公的な制度をしっかりと理解しておきましょう。
【医療費が高額になったとき】
同一月(1日から月末)にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、年齢・収入に応じて決められた自己負担限度額を超えた額が払い戻される高額療養費制度があります。
<高額療養費制度の自己負担上限額>
出典:厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から)」
自分の収入であれば、自己負担額がいくらになるのかを確認しておきましょう。また、加入している健康保険組合に「付加給付制度」がある場合、高額療養費制度に上乗せして医療費を払い戻してくれるので、自己負担額はさらに減ります。
【働けなくなったとき】
・業務外の病気やケガで療養中であること
・療養のため労務不能であること
・4日以上仕事を休んでいること
・給与の支払いがないこと
以上の条件をすべて満たすとき、傷病手当金を受け取ることができます。
傷病手当金の1日あたりの支給額は、直近1年間の各標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3で計算されます。傷病手当金の支給開始日から通算して1年6カ月に達する日までが支給対象となります。
出典:厚生労働省「令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます」
【仕事上や通勤時の病気やケガで働けないとき】
・業務上や通勤途中での病気やケガで療養中であること
・療養のため労務不能であること
・4日以上仕事を休んでいること
・給与の支払いがないこと
以上の条件をすべて満たすときは、休業(補償)労災保険から給付が支給されます。
休業(補償)給付金は1日あたり、給付基礎日額の80%(休業(補償)給付60%+休業特別支給金20%)が支給されます。休業4日目から支給の要件を満たす限り、支給されます。ただし、病気やケガが1年6カ月を経過しても治らない場合、傷病等級表の傷病等級に該当すれば、休業(補償)給付に代わって、傷病(補償)年金が支給されます。
【障害を負ってしまったとき】
年金は「老後に支給されるもの」というイメージが強いかもしれませんが、それだけではありません。病気やケガによって生活や仕事が制限されるようになった場合に、障害年金を受け取れます。
厚生年金の被保険者は「障害厚生年金」を受け取れます。厚生年金の被保険者は、原則自動的に国民年金の第2号被保険者にもなるため、障害の程度が1級・2級であれば障害基礎年金も受給できます。
受け取れる年金額は以下の通りです。
<障害基礎年金(2022(令和4)年度・年額)>
1級:972,250円+子の加算額※
2級:777,800円+子の加算額※
※子の加算額
2人まで 1人につき223,800円
3人目以降 1人につき74,600円
<障害厚生年金(2022(令和4)年度・年額)>
1級:(報酬比例の年金額)×1.25 + 〔配偶者の加給年金額(223,800円)〕※
2級:(報酬比例の年金額)+〔配偶者の加給年金額(223,800円)〕※
3級:(報酬比例の年金額) 最低保障額 583,400円
※生計を維持されている65歳未満の配偶者がいるときに加算
このように様々な公的制度で私たちはすでに守られています。ご自身の備えたいリスクにはどんな公的制度が使えるのかをまずは確認しましょう。
■保険加入で失敗しない! 5つのポイント
【公的制度の不足を補填】
リスクへの備えは、すべてを自分で備える必要はありません。必要保障額から公的制度から受け取れるものを差し引いた残りが自分で備えるべき額となります。公的制度の保障では足りない分を民間保険で補填する、という考え方が保険加入のベースとなります。
【あったらいいな、は不要】
保険を検討しはじめると、つい不安が膨らんで色々なことに備えたくなりがちです。そんなときには保険の目的を思い出して、起こる可能性は低くても経済的ダメージが大きなリスクに絞りましょう。
【払える保険料から考えない】
まずは必要保障額から考えましょう。支払える保険料から考えると、本来は必要のない保険に加入してしまう可能性もあります。新社会人は生活防衛費として貯蓄をある程度優先させたい時期でもあります。また、自己投資も大切にしたい時期です。保険加入は必要最低限に留められるように、払えるかどうかではなく、自分に必要かどうかをまずは考えることが大切です。
【シンプルな保険に加入する】
新社会人はまずはシンプルな保険に加入することをお勧めします。保険の仕組みや保障内容が理解できず、せっかく保険に加入しても、得られるはずの安心が得られていない方もいらっしゃいます。まずは自分が理解できる仕組みであること、一つの保険に備えと貯蓄といった複数の役割を持たせないことを意識して保険に加入すると、安心感も得やすくなります。
【定期的に見直す】
結婚や出産、独立といった大きなライフイベントがあると、備えたいリスクも必要な保障額も変わります。暮らしに変化があったときには定期的に保険を見直すことを習慣化しましょう。シンプルな保険に加入することは保険の見直しのしやすさにも繋がります。
■まとめ
新社会人はまず病気やケガのリスクに備えることから始めましょう。保険について考えることは、公的制度を理解することや自分の暮らしを見直すことにも繋がります。社会人として自立の一歩のひとつとして、ぜひ保険について考える時間を持ってみてくださいね。