2022年8月1日より「U-NEXT」で独占配信が始まり、2022年8月8日からTOKYO MXほかで放送されている連続アニメーション『風都探偵』は、2009年放送『仮面ライダーW』の正統続編として、「週刊ビッグコミックスピリッツ」にて2017年から連載されている漫画(原作:石ノ森章太郎、脚本:三条陸、作画:佐藤まさき)をアニメ化した作品である。
良い風の吹く街「風都」を舞台に、ハードボイルドに憧れる私立探偵・左翔太郎、「地球(ほし)の本棚」で神羅万象の物事を検索可能な少年・フィリップが2人で1人の探偵ライダー=仮面ライダーWに変身し、風都で巻き起こる「ガイアメモリ犯罪」に立ち向かう。
ここではアニメ『風都探偵』の配信&放映を記念して、テレビシリーズ『仮面ライダーW』でプロデューサー、漫画『風都探偵』で監修を務める塚田英明氏と、脚本を手がける三条陸氏に、実写ドラマから漫画へ、そして漫画からアニメへとつながっていく『仮面ライダーW』ワールドの深淵なる魅力について語り合ってもらった。
プロフィール
塚田英明(つかだ・ひであき)
1971年生まれ。1994年に東映入社。チーフプロデューサーとして2004年『特捜戦隊デカレンジャー』、2005年『魔法戦隊マジレンジャー』、2007年『獣拳戦隊ゲキレンジャー』、2009年『仮面ライダーW』、2011年『仮面ライダーフォーゼ』、2020年『魔進戦隊キラメイジャー』といった特撮ヒーロー作品のほか、『科捜研の女』シリーズや『フジテレビ開局60周年特別企画 大奥最終章』2021年『ザ・ハイスクールヒーローズ』(ゼネラルプロデューサー)2021年『スーパー銭湯 純烈ジャー』(エグゼクティブプロデューサー)など多数の作品を手がけている。東映テレビ企画制作部長。
三条陸(さんじょう・りく)
1964年生まれ。大分県出身。1986年のオリジナルビデオアニメ『装鬼兵MDガイスト』で脚本家デビュー。1989年より「週刊少年ジャンプ」で連載の『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』(監修:堀井雄二、作画:稲田浩司)の原作を手がけて大人気を博す。2009年『仮面ライダーW』のメインライターを務め、2011年『仮面ライダーフォーゼ』2013年『獣電戦隊キョウリュウジャー』2014年『仮面ライダードライブ』2019年『仮面ライダーゼロワン』など東映特撮ヒーロー作品でも活躍している。
――すでにU-NEXTでは第1話が配信され、多くの『仮面ライダーW』ファンがその完成度の高さに驚き、心を奪われていると思います。塚田さん、三条さんが完成したアニメの『風都探偵』をご覧になったときの感想を聞かせてください。
三条:漫画のエッセンスを巧く活かしてくださったなと思いました。もともと漫画『風都探偵』では、テレビの『仮面ライダーW』で予算的、時間的な都合があって表現できなかったようなシチュエーションを漫画の世界でやってみようという思いがあったんです。そのような部分がストレートにアニメ化され、映像作品となって甦ったら、実写の『W』に近い印象になったりして、少し不思議な感じもしますが、深い感動がありました。
塚田:キャラクターがとてもなめらかに動いていて、漫画からアニメになるとこんな印象になるのか、と驚かされました。漫画と違い、すべての画面に色がついているというのも、アニメならではの利点ですね。『W』のフィリップは黒髪でしたけれど、アニメのフィリップはグリーンがかった、テーマカラーに近い髪色をしています。とにかく色彩の鮮やかさがアニメならではという感じで、気分がかなりあがりました。
三条:すべてに色がついた、というのは重要ですよね。漫画のモノクロページでは色がわからないので、どうしても劇中のセリフで「右が黄色くなった」と書くしかないんです(笑)。Wのフォームチェンジは、色でしか区別することができませんから……。でも、アニメだとそういったセリフを入れる必要がなくなるんです。あとはそれぞれのキャラクターが活き活きとしていて、怒ったり悲しんだり、豊かな表情を見せてくれた。とても魅力的でしたね。
――少し時間をさかのぼりまして、お2人から漫画『風都探偵』が出来るまでのいきさつは?
塚田:最初は小学館の編集さんから「仮面ライダーWを漫画でやりませんか」とお話をいただいたのが最初です。僕としては、三条さんが乗ってくれたらできると思いますと返事をして、それで三条さんが(脚本を)引き受けてくださったから成立しているわけです。実写テレビ番組のときは、僕がそれなりに舵取りをして、スタッフの方々にいろいろと注文を出したり、意見を述べたりしていましたけれど、漫画というフィールドは三条さんのお得意とするところですし、打ち合わせの段階でも僕は小学館さんや三条さんのお話を聞いて、そのカウンター的に意見を言う立場でした。自分としては、誰よりも先に三条さんのプランを聞くことのできる「ファン1号」という立ち位置のつもり(笑)。
三条:僕が『風都探偵』を始めるときにこだわったのは、連載の最初のほうでは『仮面ライダーW』と明言せずにやることでした。すでにわかっているファンの方々は左翔太郎とフィリップがいれば「あっ、仮面ライダーWだ」と気づいてくれますが、まったく知らない『ビッグコミックスピリッツ』読者の方たちがゼロからの状態で読んでくださったとき「超常現象に挑む2人の探偵の物語」として入ってくださり、途中で2人がガイアメモリを手にして「変身」して初めて「これって仮面ライダーだったのか」と思ってもらえるようにしたかったんです。
最初に塚田さんや小学館の編集さんにお尋ねしたのは、「『仮面ライダーW』じゃなくてもいいですか」ということでした。お2人からも「面白そうだ」「青年誌らしくてよさそう」と、いい反応をいただいたので、あえて「仮面ライダー」であることを伏せて連載がスタートしました。担当さんには、初めてWが誌面に登場する連載第5話まで、ハシラやアオリ文にも「仮面ライダー」とは入れないでくださいと徹底してもらっていました。
――アルファベットひと文字を入れ込んだサブタイトル、事件調査中に入る翔太郎のモノローグなど、『仮面ライダーW』で強烈な印象を残したスタイリッシュな「定番」要素が漫画の『風都探偵』に受け継がれているのも、塚田さん、三条さんお2人のこだわりが反映されているのでしょうか。
三条:テレビと漫画、媒体が変わってもそういった様式は同じようにしています。毎週放送する番組だと、2話分でひとつのエピソードが完結するようにして、それを積み重ねていくやり方でした。連載漫画の場合だと、コミックスで読まれる人たちのことを考えて、1巻でひとつの物語が完結するという部分に気をつけています。事件ものですから、まず鳴海探偵事務所に依頼が来て、調査があって、事件が膨らんで、解決に持っていくという一連の流れをちゃんと毎回やっていこうという姿勢です。テレビの『W』では、サブタイトルにアルファベット25文字分使って、残った「Z」は小説のほうで使いました。漫画『風都探偵』では、アルファベットを小文字に変えて再スタートをしていますが、ぜんぶ使い切るかどうかは現段階ではわかりません。ただ『風都探偵』の結末はこうなるっていうクロージングのイメージだけは確かにあって、そこに至るまでのエピソードを埋めていけたらいいなと思っています。
――アニメ『風都探偵』の第1話では、序盤では声だけしか出ていなかったフィリップがはっきり姿を見せ、翔太郎と並んだところで終わっていました。コミックス1巻分のエピソードを30分のアニメ作品にどう振り分けるか、という部分について教えてください。
三条:アニメ製作のスタジオKAIの方々や塚田さんと打ち合わせをして、コミックス1巻分のボリュームだったら「3話構成」がいいだろうという意見にまとまり、そこから先は比較的に楽でした。
塚田:最初はどういう風に見せようか、なかなか見えてきませんでした。このエピソードのこの場面を使うかなども含め、いろいろと話し合った結果なんです。
三条:塚田さんはさすが長年映像作品を作ってきた方なので、打ち合わせのときでも、アニメのフォーマット作りの段階で「これはこういう番組なわけですから、この構造ではおかしいのでは」と的確にアドバイスされていて、さすがだなと端で見ていて思っていました。
塚田:そう評価してもらえて、うれしいですね。
三条:実写の『W』のように前後編ではどうか?という声もありましたが、そうなるとコミックス1冊の読み応えに比べて駆け足になってしまう。事件ものですからひとつひとつの情報は落とせないし、前後編では無理だと結論が出ました。3話でひとつのエピソードにしようと決まったとき、塚田さんからは「リズム的にはここで切ったほうがいいけれど、この場面まで入れておかないと満足度が低くなりますね」と、各話具体的に助言をいただきました。